第6章「リモコンの秘密と、つばさの過去」
「そのリモコン、あたしにもちょーだい」
つばさのその言葉に、俺もこよりも一瞬固まった。
けど、こよりがすぐに俺の袖をぎゅっと掴む。
「先輩……だめ。絶対だめ」
こよりの瞳は、今までで一番強い意思を帯びていた。
「なんだよ、ケチー。別に悪用するわけじゃないし?
……って言いたいとこだけどさ」
つばさは、ポケットからもうひとつのリモコンを取り出した。
「は?」
「こっちの方が性能いいんだよ」
俺は目を疑った。
形は少し違うけど、明らかに同じシリーズのリモコン。
ボタンの数も多いし、『感情操作』の他に**『記憶操作』『夢操作』『好感度+MAX』**なんて文字もある。
「……なんでお前、それを」
つばさはポツリと呟いた。
「……あたしの親父さ、このリモコンを開発した会社にいたんだよ」
「え……?」
こよりも驚きの声をあげる。
「ずっと前、家に試作品があってさ。
それで……小さい頃、あたしも使われたことがある」
ほんの一瞬、つばさの表情が寂しそうに歪む。
普段のお調子者な姿とは違う、誰にも見せたことのない顔。
「操作される側の気持ち、あたし一番よくわかってんだ。
だから、そのリモコン見たとき……放っておけなくて」
「つばさ……」
「だけど、あんたがそれ持ってるなら話は別。
ちゃんと扱えるヤツなのか、試させてもらうよ」
そう言って、つばさは俺にリモコンを突き返した。
「今度の日曜、学校裏の空き地。
私と勝負な。リモコンバトルで。」
「は?」
「ついでに天音も来な。
決着つけよーぜ、誰が一番先輩のこと想ってんのか」
そう言い残して、つばさは屋上から去っていった。
こよりは俺の袖をぎゅっと掴み直して、小さく呟く。
「……負けない。私は、先輩のこと、誰にも渡さないから」
夕焼けの中、
リモコンを巡る戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。