第5章「心が強い人」
放課後、屋上。
俺はリモコンをなんとか奪い返し、フラフラになったつばさを保健室に押し込んだ。
「……マジで、なんなんだよこれ」
手の中のリモコンを見つめる。
ただのふざけたオモチャのはずが、もはや人の感情すら左右する危険な道具だ。
そのとき、背後から声がした。
「先輩」
振り向くと、こよりが立っていた。
少し不安そうな顔で、でも俺の目をしっかりと見ている。
「私、昨日のこと……ちょっと考えてたの」
「……うん」
こよりは、ゆっくりと口を開く。
「昨日、ボタン押された時、すぐ戻れたの、たぶん理由があるんだと思う」
「理由?」
「……私、先輩のこと、前からずっと好きだったから」
ドクン、と心臓が跳ねた。
「だから、無理に操作されても……本当の気持ちが、勝っちゃったんだと思う。
リモコンの力より、私の気持ちの方が強かったの」
そう言って、こよりは静かに微笑んだ。
「……こより」
「先輩、リモコンなんかに頼らなくても、私は先輩が好きだよ」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
この子の気持ちは、もう誰にも操作できない。
たとえこのリモコンを使っても、たぶん意味なんかないのだ。
「こより……ありがとう」
俺はゆっくりとポケットの中のリモコンを握りしめた。
もう、これに頼るのはやめよう。
そう決意しかけたとき。
「へえ〜、いい話してるじゃん」
屋上の扉の陰から、つばさが現れた。
「……つばさ!お前、寝てたんじゃ……」
「悪い悪い、ちょっと面白そうだったから覗いてた。
それにしてもさ、あたしも先輩のこと……少し気になるかも?」
悪戯っぽく笑うつばさ。
その視線は、リモコンに向いていた。
「そのリモコン、あたしにもちょーだい」
物語は、さらにややこしくなっていく。