第4章「もう、返さない」
放課後。
俺はこよりを保健室まで連れて行き、しばらく落ち着かせていた。
「……ごめんね、先輩。私、あんな……」
「いや、悪いのは俺だ。リモコンなんか持ってきたままにしてたのが悪い」
2人してため息をついたときだった。
教室に戻ると、机の上に置いていたはずのリモコンが消えていた。
「……え?」
探し回っても見当たらない。
嫌な予感がしてスマホを見ると、1件のメッセージが届いていた。
《 つばさ:リモコン、預かったから♪ 放課後屋上ね》
「なっ……!」
最悪だ。
よりにもよって、桐谷つばさに渡ってしまった。
⸻
放課後、屋上。
待っていたつばさは、いたずらっぽく笑っていた。
「ねえねえ〜、これほんとすごいじゃん。天音さん、あんな顔するなんてさ〜」
「返せ、つばさ」
「やだ。だって面白いもん」
つばさはリモコンを握ったまま、ボタンを押そうとする。
「ねえ、これってさ。もし私にも効いたりしたらどうする?
ほら、『甘』ボタンとか押してみてよ。ほらほら」
挑発するように、わざと胸元をつついてくる。
「バカ、そんなわけ……」
「ふふっ、じゃあ私が自分で試しちゃおっかな」
そう言って、つばさは**『甘』**のボタンをカチッと自分に向けて押した。
ピピッ
……次の瞬間。
つばさの顔がふわっと赤くなり、目を細めて近づいてきた。
「……先輩♡」
「は?」
「なんか、先輩のこと、めっちゃ好きかも。……ぎゅってしても、いい?」
まさかの効果発動。
「ちょ、待っ――!」
慌てて**『通常』ボタンを押しても反応しない。
どうやら1度効果が発動すると、一定時間は操作不能になる仕様**らしい。
「え、な、なんで効くんだよ!お前まで!」
「ふふっ……先輩、もっと……」
迫ってくるつばさ。
……もう最悪だ。