第3章「暴走するボタン」
次の日、昼休み。
俺はいつものようにリモコンをポケットに入れて登校していた。
こよりと昨日、ちゃんと“素の気持ち”を伝え合ったし、今日はもう使わないでおこう、そう決めていた。
――はず、だった。
「ねぇねぇ、それ貸してよ!」
不意に声をかけてきたのは、クラスメイトの桐谷つばさ。
明るくて元気、いつも俺をからかってくるタイプの女子だ。
「え、いや、これはちょっと――」
「え〜、なになに?何のリモコン?これ押したらどうなるの?」
言う間もなく、カチッ。
ボタンには**『デレ』**の文字。
「あっ」
押された瞬間、こよりの様子が変わる。
真っ赤な顔で、俺にぐいっと抱きついてきた。
「せ、先輩っ……大好き、ぎゅーってして……♡」
「えええええっ!?」
クラス中の視線が突き刺さる。
顔面真っ赤の俺。
満面のデレ顔のこより。
ぽかんとするつばさ。
「ちょ、ちょっと待て!これは誤解だ!そのリモコン、返せ!」
「な、なにこれ……マジやばくない!? てか、天音さん、普段と全然違っ!」
あわててリモコンを奪い返し、**『通常』**ボタンを押すと、こよりははっと我に返った。
「えっ……わ、わたし……今、何……!?」
「こより、大丈夫か!」
「……ご、ごめんなさい……」
俺はこよりの手を取って、教室を飛び出した。
つばさは、ぽかんとしたまま呟く。
「なにあれ……本当に、感情操作できるの……?」
そして――この日を境に、このリモコンの存在は、俺たちの周囲にも波紋を広げ始めるのだった。