第2章「操作しない、彼女の気持ち」
放課後の帰り道。
俺とこよりは、並んで歩いていた。
「……ねぇ、先輩」
珍しく、こよりの方から声をかけてきた。しかもリモコンはポケットの中。
今、この彼女は素のままのこよりだ。
「な、なに?」
「あのリモコン、楽しかったね」
にっこりと笑うこより。
……だけど、その笑顔に、どこか影が差している気がした。
「楽しかったけど……」
言い淀んだ彼女の言葉に、俺は不安を覚える。
「……でも、全部ボタンで操作されたら、なんだか私、自分の気持ちがよくわかんなくなっちゃいそうで」
立ち止まるこより。
夕焼けの光に照らされて、その横顔は、やけに大人びて見えた。
「だから……先輩に、お願いがあるの」
「お、お願い?」
彼女は小さく笑って、俺の手をそっと握った。
「今日だけ、ボタン押さないで。私、ちゃんと……自分で、先輩に甘えたい」
どきん、と胸が鳴る。
操作されるんじゃなくて、自分の意志で。
彼女は今、俺に甘えたいと思ってくれてる。
「……わかった。今日はリモコン、使わない」
俺がそう答えると、こよりは少し照れたように、でもとびきりの笑顔を浮かべて言った。
「先輩のこと、好き」
リモコンの力じゃない。
素のこよりの、本当の言葉だった。
その瞬間、俺は思った。
――リモコンがなくても、この子の気持ちをちゃんと知りたい。
たとえ、思い通りにならなくても。