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内通者

(みのる)「全然仕事来ないね......」


僕は今、一班の管理棟から一番近い集落の南東端を守っている。ただでさえ少ないという話だったのに、前線の希望(のぞむ)くんたちが狩っててこちらへ回ってこない。


シャドー『ああ、暇だ。なら、修行するといい。』


実「でも、ここの人たちを守るためにここにいるってのに、修行で疲れてたら本末転倒じゃない?もしかしたら、避難誘導だってあるんだよ?」


この集落周りには、班長と僕、烏養(うかい)くん、御廊(みろう)さん、夢華(ゆめか)さんの5人で囲っている。班長以外は、北東、北西、南西といったふうに散らばっており、班長は中で危険そうなところに援護しに行けるように待機しているらしい。


集落は半径約4km程度の大きさであり、小中一貫校が一つある小さな集落となっている。毎日毎日避難してもらうのも申し訳ないので、必要なときに僕らが避難指示を出し守る、ということになったようだ。


実「ねぇ。」


シャドー『ん?』


実「僕らに仕事、回ってくると思う?」


シャドー『来ないだろうな。』


シャドーは僕の問いに即答した。まあ、だろうね。今までこの集落にバケモノが侵入してきた回数は脅威の2回。集落の人から聞いた、ここ2年間のデータだそうだ。


それに、この2回はどちら共、一体のみで、稀に現れる、”知性持ち”と”能力持ち”のハイブリットだったそうだ。ただ、家屋がほぼ壊滅したものの、死亡者はいないらしい。


まあつまりは、前線が大体狩ってくれるおかげで僕らに仕事はほぼないってわけ。


疾風(はやて)『避難のみんな。聞こえる?』


無線から班長の声がする。全員が聞こえていることを確認すると班長は『今、ここの人たちに避難指示を出した。』と言った。


疾風『何者かが、バケモノを打ち上げたらしい。はるか上空から大量のバケモノが検出された。』


はるか上空!?能力持ちのバケモノか?


疾風『総員、戦闘準備!!もうそこまでやってきている。あと5秒後には衝突する。』


どんな時だって、ハプニングが起きてもおかしくないってことを再確認した。あくまで僕らの仕事は、被害者をなるべく少なくすること。まずは住民の避難を。


疾風『住民の避難、最優先で!』


ドォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ン゙という鈍い音と共に戦いの火蓋が切られた。


実「シャドー!!そいつは頼んだ!!」


僕ら二人で決めていた作戦、最初の敵はシャドーに任せて、僕は避難誘導を行う。街の中まで入ってくるようになれば、僕も戦うといった感じだ。


実「皆さん!!ここから真っすぐ行けば、緊急避難用のシェルターがあります!!落ち着いて避難を行ってください!」


自治体の人が案内をしてくれるのである程度大丈夫だった。


夢華『学校の方、避難誘導が完了しました。カイブツの殲滅に移ります。』


無線では、現在の避難状況を共有したりしている。


おじちゃん「避難は私らに任せて。あんたは、避難できてない人を探してくれ。」


市街地の避難は自治体を中心に行われるため、案外早く避難誘導が終わる。


実『東南方向、避難誘導を自治体の人に渡し、逃げ遅れた人がいないかの捜索とバケモノの殲滅に移ります。』


シャドー『おい、やべーぞ実。』


僕の影からひょこっと小さなシャドーが顔を出した。


シャドー『アイツら、街に落ちてきてるぞ。』


!?


実「シャドー!もう殲滅に移る。ちょっとだけ体貸して!」


シャドー『ああ、わかった。今話してるこの小せぇやつで十分だ。街の前のやつは粗方片付いた。日差しがあるから合流までに時間はかかるかもしれん。』


実「了解!」


少し距離はあるが、バケモノを見つけ、僕は左の腰に刺さっていた木刀を抜いた。


基盤(ベース):木刀 付与(エンチャント):シャドー>


木刀の刀身が黒く影に染まった。風に揺らいでしまっているがちゃんとできている。


目の前のバケモノに叩きかかった。


バケモノは本来、知性を持たない。音や光に反応するが、自己防衛をする知恵が無く、破壊の限りを尽くすだけだ。だが、こいつを狩るのに苦労する理由の大半は硬い体だ。打撃なんかじゃ倒せないほどの、屈強な体を持っている。


真剣を借りている僕だが、真剣は木刀とは少し使い勝手が違うので、あまり使いたくはない。だから、木刀にシャドーを付与(エンチャント)しているのだ。本来であれば、全然聞かない攻撃でも、付与(エンチャント)をすることで、打撃分の威力をシャドーの斬撃に加えることができる。このように、当たった部位から斬撃が広がり、体中を切り裂き、殲滅する。


(まず、一匹。)


実「誰かいませんかーーー!!」


常に叫びながらカイブツを殲滅していく。


シャドー『おい、実。遅れてるやつを見つけた。』


実「案内を頼む!」


付与(エンチャント)した分身シャドーがオリジナルに戻ろうとする。それについていってシャドーと合流をする。合流した先には、中学生くらいの女の子が、瓦礫に足を挟んで身動きが取れていない状態だった。



実「シャドー!頼む!」


シャドー『了解。』


シャドーは瓦礫を持ち上げて、遠くへと持っていった。


女の子「ありがとうございます......!」


女の子は立ち上がろうとすると、右足が痛むようだ。


実「無理して歩かないで。大丈夫。」


僕はそう言うと、シャドーを使って右足のが少し浮くようにした。「なるべく影を作るように。」と持っていた上着を渡し、避難所までいっしょに向かおうとした、その時。


何かが落ちてくる音が聞こえてきて、「危ない!!」と女の子を伏せさせた。


ゴォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ン゙という音と共に砂煙が立ち昇る。辺りを見渡すと、腕が紫色に変色したバケモノが何体もいた。


実『こちら南東。逃げ遅れた人と一緒で腕の変色したバケモノ数名に囲まれています。援護をお願いしたいです。』


無線に一本要請を入れて、ポッケに入っていた短剣を二本取り出した。


実「シャドー。その子を守るのが一番だ。わかったね?」


シャドー『......了解。』


基盤(ベース)双剣(ツインズ)付与(エンチャント):シャドー>


双剣(ツインズ):希望から借りた二つの短剣からなる特殊武器。付与(エンチャント)初心者に重宝される代物。本来、2つの武器に付与(エンチャント)するのは、相当の手練でなければなし得ない芸当である。だが、双剣(ツインズ)はペアで付与(エンチャント)共有(リンク)しており、片方にすればもう片方も同じ付与(エンチャント)が施される。


(希望くんからこっちのほうがいいって言われて借りたけど、ほんとだ。)


シャドーの付与(エンチャント)の特性上、シャドーの体の一部分を使うことになる。真剣や木刀に付与(エンチャント)するとなるとシャドーの体を随分と使うようになる。


その点双剣(ツインズ)は一本につけるだけで自動的にしてくれるので、二本分の付与(エンチャント)に使うシャドーの量が一本分なる。つまり、僕の最適解はこいつだ。


腕の変色したバケモノは地面を殴ると大きな地鳴りとともに地面が割れた。


シャドー『ここは、日がありすぎる。俺は引くぞ。』


シャドーは女の子を連れて逃げてくれた。


(......今はシャドーがちゃんと逃がせるまで耐える......!)


実『影が逃げ遅れた人を連れて避難地点まで逃がします。』


疾風『了解!あと援護には行けないかもしれないから無理はしないでよ!』


実『了解です。』


変色した腕からは、何かしらの能力が施されたような痕跡を感じる。素人目でも分かるほど強く、濃い熟練された能力を_____


ドゴッ


左から地面が突然割れ、足場が崩れる。


(くッ...体勢が崩される.....いや、そんなことよりもこの方向は____)


地面が割れるその先には、シャドーが女の子を連れて逃げた方向だ。それに気づいた僕は咄嗟に短剣に向かってシャドーに話しかけた。


実『シャドー!!地割れが迫ってる。絶対に避けろ!』


シャドー『はぁ、俺のご主人サマは俺を舐めてるのか?もう既に回避済みだ。だが......』


実『どうした?』


シャドー『スマン、お前の方からこっちに来れるか?俺はもう動けそうにない。太陽を浴び過ぎちまった。』


実『了解。』


正直、シャドーに活動限界は存在する。ただ、僕の影の中に入れば話は別だ。体を再構築して復活する。影の中を自由自在に動き回ることができ、普段は太陽を避けて動いているが、人を影に沈めるわけにはいかない。


(この家か?)


主の下へと双剣(ツインズ)が変える道中、家に向かってずっと突進を繰り返す。扉を蹴破り、中に入ると、形を保てていないシャドーと女の子がいた。


実「もう大丈夫、避難しよう?」


ハアハアと息を切らしながら女の子に近づく。


実「シャドー?もう動ける?」


シャドー『流石にまだ無理だ。』


実「じゃあ一旦休憩といこうか。僕もここに来るまでに大分疲れた......」


そのまま家屋の中で休息を取っていた。


女の子「どうして......他人なんかに命をかけられるんですか......」


俯いたまま女の子はそう聞いてきた。


実「どうしてって言われてもなぁ......大層な理由はないんだよなぁ。」


恥ずかしそうに笑いながら僕は答えた。


そんな僕を見て「ならどうして...?」と困惑する女の子に僕は話した。

---

実「僕は真実が知りたい。真実を知るにはいつだって力がないといけないでしょ?だからさ。」


そう話すこの人の表情からはどこか恐怖を感じる。


きっとこの人はわかっているんだ。知らないほうがいい真実だってある。だから、嘘で塗りつぶされている部分もあるということを。それでもなお、真実に固執する。凄いと思う。


だだ、私はこれからの人生、この人の暗く沈んでいるような瞳を一生涯忘れることはないだろう。

---

(まだシャドーは動けない....もうちょっと休むかな。)


体力がある程度回復してきた。シャドーはまだ完全には体を構築しきってない。


ドッドッドッ


!?


バケモノが近づいて来るのが分かる。というか、さっき相手にしたやつとは違う能力を感じる。


その能力の形がこちらへ攻撃してくる形に変わった。


実「伏せて!!!」


女の子の前で伏せを促し、僕自身が壁となるようにした。幸いバケモノが放った能力は頭上を通り過ぎたが、家の崩壊は免れなかった。女の子を連れて家から脱出したが、バケモノと対峙してしまった。


(今のは明らかに僕たちがいることを認識して攻撃を放ってきたよな?となるとこいつは、”知性持ち”と”能力持ち”のハイブリットか?どうする?応援を呼んでも間に合わないぞ?じゃあもう僕一人で戦う以外ない......)


この場においての最悪のパターンとしては、この子が死ぬことだ。僕の判断ミスでこんな事になっているのだから、ここまで巻き込んでおいて死なせるわけにはいかない。


(......シャドーごめんよ。僕にはこの方法しか思いつかないや。)


実「この無線で、実が応援が欲しいって伝えといてくれ。あと危なかったら、この刀で僕を殺してくれ。」


女の子にお願いをしてバケモノの前に立つ。


<シャドー憑依(トランス)


体の下から段々闇に飲み込まれる。黒く染まり、形容しがたい不安感が込み上げてくる。ああ、もう終わりなのだと。


実(?)「グルルルァァァ゙ァ゙ァ゙ァ゙」

---

けたたましい唸り声が周りに響く。唸り声は黒く染まり一回り二回り以上大きくなった実さんから発せられていた。


(あっ、早く応援を....!)


女の子『あの、すみません。』


疾風『あれ?誰?』


女の子『実さんが応援を呼んでくれって___』


疾風『!?わかった。今すぐ行く。とりあえず君は、安全なところに避難するんだ。』


女の子『はい、わかりました。』


動かない足を引きずりながら、ちょっとした岩陰に身を潜めた。


実さんとあのバケモノは睨みあっている。まだどちらも動いていない。


バケモノ「グガァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙」


バケモノが咆哮すると、実さんも同じように咆哮し返す。その咆哮を合図に、バケモノは動きを始め、能力を使う。その能力は、胸からレーザーのようなものを出し、実さんの右腕を貫いた。


実さんはピクリともせず、その場で堂々と貫かれた腕を見つめた。すると腕が再生し、腕を見つめながらニヤリと笑ってみせた。


瞬きをした瞬間、本当に一瞬だった。実さんはその間にバケモノの上半身を消し飛ばした。残った下半身を大きく笑いながら踏み潰して遊んでいた。まるで、子供のように。


実(?)「グゥ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙」


降り注ぐバケモノの血しぶきの中、ただ一つ、勝者だけがその場で大きく立っていた。


?「君!超面白いよ!」


突如として電柱の上に男が現れた。その男に対しても実さんは咆哮でしか返さない。


?「うぅん、闇堕ちに近い状態なのか......」


すると実さんは男に攻撃を仕掛けた。


?「あー。それダメ。」


男は一瞬の間に移動をし、軽く攻撃を避けた。


?「ねえ、君のことなんて呼んだらいいかな?うぅん、そうだ!相棒呼びなんて、どう?」


男は咆哮でしか返せない実さんに一人だけで話している。実さんは何度か攻撃を仕掛けるが全てを避けられている。


?「あーもう。ちょっと寝てて!」


スパンッと手刀が首に当たり、実さんから黒い霧が晴れ、気を失ったように倒れ込んだ。


?「うーん。今日の収穫はいまいちだと思ったけど、思わぬ収穫があったしいいか!


するとバーンッという音とともに当たりに大きく風が舞う。


疾風「その子を返してもらおうか。うちの大切な隊員なんだよ。」


踊り舞う風の中から、女の人と、無線で話した男の人が現れた。

---

(実はまだ生きてる。このまま連れて逃げてもいいが、こいつを黙って見過ごすわけにもいかない。)


?「僕は争う気なんてないよ。僕はただ、彼に挨拶しに来ただけ。」


(実に挨拶だと?何を企んでやがる?)


疾風「この子に何のようだ?」


?「用という用はないけど...あっ!僕の名前を彼に伝えといてよ!」


(は?)


?「僕の名前は那須波燈矢(なすなみとうや)血液型はo型で、誕生日は10月8日で____」


ペラペラと楽しそうに個人情報を話す燈矢の姿に何か企んでいるのではないかとその場にいた全員が警戒を強めた。


燈矢「それじゃあ、ちゃんと相棒に伝えといてよ?それじゃ、僕はもう行くから!」


そう言って燈矢は立ち去ろうとした。


(逃がすか!)


疾風「夢華ちゃん!!」


夢華「はい!!」


疾風<能技:風見鶏(かざみどり)


夢華<右:パワー 左:スピード 投擲:天槍(てんそう)><能技:遠方射撃(スナイパー)


疾風の風見鶏で周囲の風を巻き込みながら大きな空気弾として攻撃しつつ、夢華の天槍にかかる空気抵抗を極限にまで減らす合せ技である。


この場における最善択をこの一瞬で編み出した二人。逃げる燈矢の背中に当たると思った瞬間____


燈矢「だーかーらー、戦う気はないっての!」


そう言って燈矢が手を振り下ろすと風見鶏でできた空気弾と、天槍はその場でグルグルと回転し、空気弾は空気中に霧散し、天槍はエネルギーを失い、地面にパタリと落ちた。


燈矢「それじゃ、ホントのホントにじゃあねー」


手を振りながら逃げていく燈矢を見つめるしかできなかった。


夢華「すみません。ここは遠方射撃(スナイパー)じゃないほうが___」


疾風「いいんだ。ひとまずは誰も死んでないことを喜ぼう。」


---

この防衛戦は、多方面に衝撃を与える結果となった。過去にあった全ての防衛戦とは全てが異質であった。


何者かに打ち上げられたバケモノ。新人の起用のタイミングに合わせたバケモノの大量出現。腕に何かしらの能力の施されたバケモノ。稀に現れる、ハイブリット個体の出現。謎の男、那須波燈矢の出現。


色んな事があったが、死者数は0名、重傷者0名、軽傷者87名、全壊・半壊建物約300棟という結果でこの防衛戦は幕を閉じた。功労者賞は、計42体ものバケモノを殲滅、住民の避難に尽力していたことを認められ、杠葉疾風に送られることとなった。

---

知恵の輪をしていたところ、ガラガラッと勢いよく病室の扉が開いた。


夢華「大丈夫なの?目ー冷ましたって聞いたから見舞いに来たんだけど。」


実「うーん。疲れがまだ取れてないぐらいかな?」


希望「うわ、酷いなー。肉体の状態を見るに大分ボロボロだ。ここ一週間は休んどけ。下手すると筋肉全部ぶっちぎりれるぐらいやばい。」


あの戦いのあと僕は気を失っていたらしい。久しぶりにシャドーに主導権握らせてみたものの、まだまだ危なっかしい。でも、子供の頃は主導権を奪われてたけど、渡す立場になれただけ上出来だと思う。


実「どうだったのか、色々話を聞かせてよ。」

---

疾風「...今回の防衛戦の結果報告は以上です。」


?「そうか、ご苦労。」


疾風「団長。あなたは今回の件、どのように考えているんですか?」


団長「ああ、今この組織には内通者がいる。今この瞬間に確定した。」


明らかな戦力不足状態での大量のバケモノの使用。狙っているとしか思えない。この防衛戦に一年主体で行くことを共有されているのは、一班と三班だけだ。この両組織の中に内通者が紛れ込んでいる。

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