ライバル
真「ここだ。」
待機部屋に向かう道中、突然レンガの壁の目の前で止まった。真さんは壁に近づき、右から3、上から2と左から6、下から1のレンガを押し込み、ゴゴゴッという何かを引きずるような音とともに壁が横へと動いた。
中は部屋となっており、一人用の机と椅子が何個か用意されており、その中央には何人か人が固まっていた。
この部屋の中には、中央に集団、窓際に女の人が一人という人間配置だ。
真「はぁ。お前達、これから初任務だというのに何だこの危機感の無さは?」
すると、中央にいた男が立ち上がり、周りにいた人を椅子に座らせこちらへと向かってくる。
?「箆中さん、僕らは別に危機感がないわけじゃないんだよ?」
男は後ろへとくるりと振り向き、椅子の上に立ち、腕を広げた。すると、周りにいた人達は深く頭を下げて膝をついた。
?「みんなが僕のことを好きすぎるだけさ!」
その言葉を合図に拍手が喝采した。その音は胸を騒がせ、恐怖を感じさせる。
取り巻きたちの中には女の人もいれば男の人もいた。特に女の人の忠誠心なるものが強いように見える。
取り巻きの中から見たことのある巨体が目に入った。入団試験のときに戦った男だ。前は殺し合った人が今日は仲間として戦う感じ。不思議と懐かしく感じる。
真「お前達、挨拶をせんか。わざわざこちらまで、任務の援軍として来てもらったんだぞ。」
男は僕らの方を見た。すると、何かに気がついたようで、僕の方へと真っ直ぐに近づいてきた。手をこちらへと差し伸べて男は口を開いた。
?「やあ、我が同士よ。君はどんな結末を望む?」
実「......へ?」
突然のことで思考が止まる。すると、窓際にいた女の人がボコっと頭にゲンコツを食らわせた。
??「あんたはバカなの?突然のことでビックリしちゃってるじゃない。初めてで嬉しいのは分かるけど、説明しなきゃわかんないでしょ?」
?「だってぇ......」
男は小突かれた頭を抑えてしょぼくれてしまった。そんな状況を依然として取り巻きたちは膝をついて動かないまま。
(どうなってるんだ...?主君が攻撃されているというのになぜ誰も助けないんだ?)
こんな状況が僕を更に混乱させる。情報量が多すぎる状況に他の人に助けを求めようとしたが、二人とも何もわかっていない様子。
すると男が自分の頬をパチンッと叩き、天井を眺め深呼吸を一つ。
?「ん゙っぅ゙ん゙、失礼。僕は烏養博徒、一班の今期生の期長だ。よろしく。君は?」
実「えっと、影村実です。よろしくです?烏養さん。」
博徒「よろしく、実。あとさんじゃなくていいよ。タメだろ?」
実「うん。わかった、烏養くん。」
烏養くんはさっきとは打って変わって余裕のある表情だ。あの女の人が弱点なのだろうか。
??「皆さん、うちの期長がすみません。私は御廊秋って言います。」
夢華「ど、どうも。私は___」
秋「全員の名前は知っているので大丈夫ですよ。このバカが興味無いだけで。」
夢華「ちなみに、なぜご存知で?」
うん。なぜだろう。このやり取りを前に見たことがある気がする。心当たりしかない。
秋「今回、援軍として来る人たちの情報であなた達の情報だけは何故か事前情報としてあったんですよー。なぜでしょうね。」
僕ら3人は同時に班長の方向を見た。僕らの中の一人でも今日の任務にいかないとか言い出していたらどうしていたのだろうか。
疾風「テヘペロ。」
それなのにこの人は、笑っている。人の個人情報を勝手に流していてこの笑顔。これはどこに問題があるのだろうか。表情筋か?理性か?倫理観か?それとも単純に頭か?
疾風「ねぇ、真さん。時間はまだ全然あるでしょ?ここは、いっちょ一班と三班の交流と行きませんか?」
真「よかろう。杠葉、お前にしてはいい提案じゃないか。私たちは少し席を外そう。大人がいては会話がしづらいだろう。」
疾風「えっ、俺もっすか。」
真さんは無言でまた襟首を取り「えっ」とずっと言っている班長なんか気にせず、部屋から引きずり出した。交流と言っても自分から話しかけるのは無理なので受け身に回ろう。
?「どうも〜。君たちとはまた会ったね〜。オイラの名前は権代霧矢。今日は仲間同士宜しくね〜。」
実「よろしく。」
試験の日に相対した人だ。この人の能力は確か___
夢華「あんたの能力って確か、爆発かなんかだったわよね?あれってどういう仕組みだったのよ、詳しく教えてもらえるかしら。」
負けず嫌いな夢華さんは、負けた相手にはいつもこうなる。組手で負けるとすぐ勝因だったり、クセを聞いてきて次にはなくなってる。彼女にはつくづく努力家という文字が似合う。
霧矢「いや~、それはアニキの能力だよ〜。僕の能力は幻術だよ~。」
夢華「はー、最初っから一杯食わされてたってわけね、なるほど。じゃあ能力について___」
(ここに来るまで大分登ったし、景色でも見るか。)
まだまだ盛り上がりそうな二人から離れ、窓からあたりを見渡した。自然があたり一面に広がっており、心安らぐ。
秋「ちょっといいかな?」
後ろから肩を叩かれた。僕は快く「はい、どうぞ。」と隣に促した
秋「ちょっとアイツについてのお願いを_____」
実「烏養くんの?」
秋「そう。仲良くしてあげてほしいなって。」
その時一緒に景色を見ていた御廊さんの横顔はどこか悲しげだった。繕った笑顔で御廊さんは僕のことを見た。
秋「アイツはさ、子供の頃から私と一緒でさ、アイツがメンタル値で悩んだり苦しんだりしてるのは知ってたけどさ、普通のあたしがさ共感するなんて絶対にしちゃダメじゃない?だからいつか、いつかアイツと一緒なやつが現れてくれれば、同じ土俵に立つやつがいればなって思ったんだ。」
ここに来るまでの間に希望くんから聞いていた話とつながる。
僕のメンタル値が10だと判明したあと希望くんは「お前は学校に行ってなくて本当に良かったな。」と言った。その理由は「イジメられる」らしい。値が小さければ小さいほどその人の精神は壊れやすい、というのを世間一般では”弱い”というらしい。だからいじめられるそうだ。きっと烏養くんはそうだったんだろう。
実「......ごめんね。僕はあまり烏養くんの理解者にはなってあげられないかもしれない。学校にも行ってなかったし、今日初めてメンタル値を測ったぐらいだから......」
秋「あ〜違う違う、そういうことじゃなくて。アイツはいじめとかも受けたけど全部やり返してたらさいつの間にか来なくなったたやつだから。」
実「えっ?」
御廊さんは僕の勘違いを訂正するように言葉を並べた。なんでこの人は思ってることが分かるんだ?
秋「あたしは、アイツと同じような境遇の君にアイツのライバルになってほしいの。」
実「...ライバル?」
秋「そう。アイツは特別だから誰にも理解されない。それ故、隣に並べるやつなんて一人もいなかった。いつも一緒にいるあたしでさえ、全く違う道の上に立ってる。」
(表面上では笑っているけど凄く真剣に話している。ずっといるとはいっても他人なはずだ。なのに、なんでこんなにも彼のために動けるんだ。)
自分にはわからないことに単純な疑問を持ちつつ、真剣に話す彼女の話の続きを聞く。
秋「それでさ、アイツと一番道が近いであろう君が現れて、こう思ったんだ。」
景色から視線を外し、藍色の瞳でこちらを見る。
秋「君ならアイツを満足させてあげられるんじゃないかって。」
この言葉に立て続けで、「頼めるかい?」と言われた。
そんな真っ直ぐ向けられた期待に応えたいと思う反面、本当に僕のような存在が彼に必要なのかとも思ってしまう。彼には御廊さんがいれば十分ではないか。そんなふうに思ってしまう。ただ一つだけ確かなことがある。御廊さんの言葉には嘘偽り無く、全て彼のために発せられているということだ。
実「...僕も満足させられるよう頑張ります。」
秋「おぉ、それはありがた______」
僕は御廊さんの言葉を遮るように言った。
実「けど、烏養くんを満足させられるのは、御廊さんだけだと僕は思うんです。」
御廊さんは驚いた表情を見せていたがそんなことを気にせずに話を進める。
実「お互いを満足させるのはいつだって、違う道にいる人同士だと思うんです、僕は。というか、同じような道の人から受けられる刺激は少ないと思うんです。」
(すげーミスった気がする。)
啞然としている御廊さんを見るとそう思う。余計なことなんて言わずにいうことを聞いていればいいものを。また失敗した。俺はいつだってそうだ。
だが、少しすると御廊さんの顔はニヤッとしていた。
秋「ははッ。そうかもね。」
ニコッといい笑顔でこちらを見る。何とか彼女の中で結論が出たらしい。ひとまずは良かったかな?
希望「おーい。実ー。班長がお呼びだぞ〜。」
実「え〜?わかったー。」
話に一区切りついた所で班長から呼び出された。
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実「じゃあ、また後で。」
秋「ああ、また。」
彼はすぐにこの場を離れ、友達の下へと向かった。
博徒「秋。彼と何の話をしてたのさ?」
彼が行ってからすぐに、博徒は彼の座っていた席に座り私に聞いてきた。
秋「なに?嫉妬しちゃった?」
博徒「そういうんじゃないよ。また君が変なことしてないかって思っただけさ。」
秋「もう、心外だな。あたしが変なことをしたことがある?」
博徒「じゃあなんでそんなにニヤけてるんだい?」
博徒の言葉にハッと気付かされた。あたしは気づかないうちにニヤけてたのか?まあ、理由はわかってる。
秋「いや〜、君たち凄い似てるから面白くってwww」
彼みたいに博徒も諭してきたことがあった。彼のように、私を傷つけないよう言葉を選びながら。
博徒「そうかい、そりゃ良かったね。」
秋「うん。これから楽しくなりそうだね。」
私は博徒へ笑いかけた。その時の博徒の顔はよく覚えてる。
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実「班長〜、来ましたよ。なんですか?」
希望くんに班長のいる部屋まで案内されてきた。今回の任務についてのことだろうか。
疾風「お、きたきた。」
雰囲気のある場所で両班長が待っていた。
疾風「単刀直入に聞くけど、君の影くんはどれだけ動かせる?」
実「えっと、あー、そんなに制限はないですね。多分。限界まで出したことがないのでわからないんですけど........」
疾風「......そうか!わかったよ。もうぼちぼち作戦会議始めるから向こうで待っててよ。」
(ん?これだけのために呼んだのか?)
実「はい。わ...かりました。では、また。」
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実が部屋から出てドアがしまった。
真「...杠葉、お前はあの子に細心の注意を払え。」
疾風「わかってますよ。」
あのメンタル値で能力の維持時間が無限だなんてあるはずがない。そんなのはまず有り得ない。あり得るとしたら、何かしら他のものを犠牲として知らず知らずで使っている可能性もある。
真「あの子が闇堕ちしないよう、お前はなるべくあの子に近い位置に配置する。そんな兆候が少しでも感じられればすぐに回収して撤退を第一に動くように。」
疾風「わかりました。俺に任せてください。アイボーは他の隊員の援護ができるような位置でお願いします。僕一人で回るのは流石にキツイので。」
真「ああ、わかった。......頼んだぞ。」
疾風「はい。あの時の二の舞いにはさせません。」
どこか重い空気が流れる。僕が死ぬ日はそう遠くない。予言が言っているのだから。だからせめてもう少しだけ救える命を救いたい。
そんな気持ちを抱えながらも作戦会議は終わり、大きな運命の分岐点は刻一刻と近づいてきている。
あと少しで書きたいところまで行けるので楽しみです。