熱し易く冷め易い
「よし。一年生全員集まったとこだし、基礎やってくぞ〜」班長は手をパンと叩きながら言った。
僕らはいまグラウンドに集まってきている。
すると渡くんが「その、昨日から気になってたんですけどその基礎ってなんの基礎なんですか?」と班長に問う。
「基礎っていうか今のまま力を伝えるよりももっと強い力の出し方を教えるってだけだからそんな難しいことじゃないと思うよ〜」
多少緊張していた僕は少し楽になった気がする。それに周りの空気もさっきより明るくなったようだった。
「本題に入る前に問題!能力の強さはどこからくるでしょーか。」
僕はその問題について考えた。だけど全くもって思いつかない。ネットとかで能力は使い方や使い手次第っていうのはよく見るけどもその強さがどこからくるかなんて見当もつかない。
「はーい、タイムア〜ップ、」
班長はそういうと胸を指差し「正解は感情だ。」と言った。
「とは言っても学術的根拠なんて全くない。だが、確実に能力の成長には感情が関係してる。それに感情や思いを乗せた攻撃は普通の攻撃の数倍の威力になる。」
あまりにも真剣な表情をで言うものだから、その場でそのことについて疑うものなど一人もいなかった。
「そこで君たちには、攻撃に感情を乗せれるようになってもらう!それが今日する基礎だ!!」
真剣な表情からは打って変わり、いつもの顔に戻った。さっきの話では数倍強い威力を出せるようになるとのことだったがそんなに簡単に出来るものなのだろうか。
僕らはみんな不安そうな表情に戻った。
「でも、どう指導したらいいのかわかんないだよな〜。」
手を頭の後ろにまわして上を見ていた。
「だって所詮イメージの問題だし、教えられるもんじゃないんだよな、、、」
確かに同じ出来事でも価値観が違う人同士、必ず感じるものは違ってくる。感覚の問題なら尚更教えられることがほぼない。
「班長、質問いいですか!」
槍そんがそういうと「いいよ〜。じゃんじゃん質問して〜。」と班長は答えた。
「班長はどの感情をどんなイメージで乗せてるんですか?」
そう聞くと班長は「よぉ〜しとりあえず見せてあげよう!」と腰にあった刀を抜きグラウンドに植えてあった大木に対して斬りかかった。振り下ろした刀は、木の中で止まってしまい、斬り落とすことはできなかった。
「これはなんの感情も乗せず力強く振り下ろしただけの攻撃だ。見ての通り木を切り落とせず、途中で止まってしまった。」
ぱっと見でも幹の直径が数十cmあるであろう幹を一振りで、あそこまで斬れるだけでも凄いのにまだまだ強くなるらしい。
「今回は斬り落とせなかった怒りを込めて一振り。」
さっき斬った木よりももっと大きな木に移った。
「怒りの感情は、荒く、儚く、繊細な感情なんだ。熱し易く冷め易い、そんな感情を僕は炎をイメージして一振りするんだ。」
大木の前でスッと刀を振りかぶった。
振り下ろされた刀は木を一刀両断していた。
たとえさっきより、力強く降っていたとしてもあの木はきっと斬り落とせなかっただろう。それに刀が振り下ろされていたとき確かに感じた。さっきまではなかった強い何かを。
「今のが感情を乗せた一発。明らかに強くなってたでしょ?これは少しだけ乗せた分だから本気で全部乗せたらもっと凄いよー。」と余裕のある表情で班長は言った。
「ものは試しというわけで、とりあえずやってみようか!」
班長はそういうと僕らに一人一本刀を渡した。
「多分一番大事なのは感情のイメージだから頑張って!!これに関しては自分との戦いだから!!」
そう言って班長も刀の素振りを始めていた。