覚悟
疾風「いやー、一時はどうなるかと思ったよ〜」
実「すみませんでした...」
病院の一室で僕はベットの上で班長と話していた
疾風「でも、今日で退院なんでしょ?」
実「はい。すみません入院費全部出してもらって......」
疾風「いや、いいっていいってー。てか、運が悪かったのと、僕がちゃんと守れなかったのが原因だし」
そんな会話をしながら退院の手続きを終え、無事退院することができた
実「というか、今日はなぜ班長が?」
帰り道、班長と一緒に三班の管理棟に向かっている途中、ふと気になったことを聞いてみた。見舞いには、夢華さんと希望くんの二人が来てくれていた。だが、今日は班長が一人できてくれた。
疾風「あ〜それね。二人は今日から軽〜い遠方任務だから朝早くから、奏たちと出かけたよ。」
実「班長は行かなかったんですか?」
疾風「うん。僕と翼が今、管理棟にいるかな?」
実「へー、そうなんですね。」
(う〜ん......ちょっと気まずいかもな.....)
管理棟につくまでの間、色んな話を聞いた。そんな中でも一番記憶に残っているのは、いつも見舞いに来てくれていた二人の話。あの二人はたくさんの任務終わりに見舞いに来てくれていたらしい。
(帰ってきたら、何かしらのお礼をしなきゃな)
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翼「お〜、実くんおっかえりー!!」
管理棟に帰ってきてすぐ、班長と一緒に会議室に言った。話さなければならないことがあるらしい。
実「ご迷惑をおかけしました、花山さん」
翼「も〜、ホントだよ?君の怪我とか被害の処理は、私がぜ〜んぶやったんだからね!」
実「せめてもの償いとして、何かしらのお礼をしたいんですが......」
翼「え〜!?いいの〜!?」
花山さんの目はキラキラと光を放ち始めた。「何にしよっかな〜〜。」と弾んだ声でいいながら班長の周りをスキップをしながら回っていた。
班長が花山さんを静止させ、仕切り直すように咳払いをした。
疾風「ひとまず本題を片してからにしよう。翼はアレを。」
翼「アイアイサー」
班長はカバンをゴソゴソとあさり始め、花山さんは部屋をでていってしまった。
カバンから次々と要らないであろうものが飛び出してくる。カバンに絶対はいらないであろう量の見たことのないものが次々と......
疾風「......あった!」
班長はリング状ものを取り出した。人の腕がすっぽり入るぐらいのサイズだろうか。
すると僕の方に近づき、僕の腕にそれを取り付け始めた。
疾風「......抵抗とかしないんだね...?」
実「? だって抵抗する必要ないじゃないですか?」
疾風「いや......普通は突然訳分かんないことされたら理由を聞くと思うんだけど......」
実「あっ、そ、そうなんですね......班長がやることなので大丈夫だとばかり......」
班長は僕に若干引きつつ、自分のことをそれほどまでに信用してくれているのかという優越感に浸っていた。
疾風「説明しよう!!今君が腕に巻かれたものは『嘘ついたらビリビリッとしちゃうゾ』っていう名前の装置である!!」
実「お〜」
僕はパチパチと手を叩いた
翼「できたよ~開けて〜」
扉のノック音と共にビブラートを強く効かせた声が聞こえてくる。
はーい、と返事をしながら扉を開けると、ミトンをつけた手でカツ丼を持ってきていた。
花山さんを中へと通すときに後ろに視線が向く。
疾風「さぁ実、そこに座るんだ......」
さっきまで普通だったこの部屋は一瞬で取調室へと変貌を遂げていた。
言われた通りに大人しく座った。
疾風「僕の質問に簡潔に答えてくれ。」
僕は平然とした様子で首を縦に振る
疾風『君の能力は影くんを操る、それだけかい?』
実「ほんの少しですが、影も動かすことができます」
静かにカリカリと記録に残す音だけがなり、それが止むと班長は質問を再開した。
疾風『影くんとの契約内容は?』
実「? 契約なんてしてないです......よ?」
花山さんの記録の手が止まる。二人とも僕の腕についた装置を観察した。
疾風「......おかしいな、嘘じゃないのか......そのまま記録で」
記録をしている途中で班長は口を開いた。
疾風『影くんは君の能力で生まれたのかい?』
実「......分かりません。僕が師匠に拾われたときには既に傍にいました。だから、分かりません。」
疾風「これも、本当か......精霊使いとして異質すぎんだろ〜〜〜〜」
椅子の後ろに体重をかけて項垂れる班長の横でカリカリと記録を取る。記録が終わると花山さんはカツ丼に喰らいついた。
(自分のお昼ご飯だったんだ......)
疾風「だぁー!!次だ次!!」
班長は花山さんの食べているカツ丼を横から取りつつ質問を続けようとする。すると、突然班長の動きが止まり、ハッとした表情を浮かべた。
疾風『...影くんは精霊か?』
実「? そうなんじゃないですか?」
無反応な腕を見て、班長はため息を吐く
疾風「これもか〜」
額に手を当て完敗だと言わんばかりにどこからか取り出した白旗をヒラヒラと揺らした。
翼「なにゆえ覚えてると思ったの?バカなの?バカなの?」
花山さんは食べ終わったカツ丼の丼を班長の顔に押し付けながら憐れんだ目つきで班長に近づいていた。
疾風「うるせぇやい!!まだ最後の質問が残ってんだから席座れ!!」
花山さんは「馬鹿なんだろうな...」とブツブツ言いながら席に戻った。
疾風『君は”カラス”と関係はあるかな?』
実「そんなのないですよ。今回のは僕意識なかったですし。」
右腕の腕輪に反応がないのを見ると二人は安堵した表情を浮かべた。花山さんの記録の手がいつもより早く進んでいた。
疾風「ふぅ〜、上の人たちからお願いされてたお願いはとりあえず終わったけど、何個か個人的に気になったことをついでに聞いてみてもいい?」
実「別にいいですよ、聞かれて困るようなものはないですし。」
僕は快く承諾した。別に断る理由もないようなことを断ることには意味はないから。
疾風『こないだのあの暴走は何だったの?』
今僕は苦渋の表情を浮かべていることだろう。どう説明したらいいのかわからないものに、曖昧に答えてしまってもいいのだろうか。
実「なんというか......その...合体みたいなものですかね?多分。」
二人は微妙そうな顔を浮かべた。
翼「......こういう場合って、”自分でもわかってない”ってな感じの記録の仕方で良き?」
疾風「それが正解な感じだね......」
(個人的な質問でも一応記録書を書かないといけないんだな)
二人を見ていると本当に親友のような間柄なんだなと思う。
疾風「実、あの合体のときに倒した能力持ちのカイブツ、検査してみたら中級の上位のカイブツだった。」
記録途中に班長は僕に語りかけた。質問や尋問などの類ではない、普通に会話口調で話が始まった。
疾風「そんなヤツの上半身は粉微塵に吹き飛ばされ、辺たり一面には大きな窪みができてしまっている。」
(こう言われてるけど、僕は記憶ないんだよね)
憑依中は体の主導権をシャドーに渡してるから、色濃く記憶してるとしたらシャドーだろう。僕は薄っすらとしか覚えがない。
疾風「君の助けた女の子によると”素手で切り裂いたように見えた”と聞いた。明らかに人間の成し得ていい芸当じゃないと思うんだ、僕は。」
僕は正直、どんな反応をすればいいのかと困っていた。なんとも言えないピリピリとした空気。この空気の発生源は紛れもない班長だ。
疾風「そこで、質問だ。」
班長の発するムードに気圧され、身の毛のよだつような緊張感に襲われる。
疾風『どんな代償を支払ってるんだい?』
何もかも見透かされているような目。きっと、班長からしてみれば答え合わせのような感覚なのだろう。絶対に自分の考えが間違っていないだろうという確信を感じる。
実「............」
その空間に沈黙が滞る。
実「僕の体です。」
一瞬の間をおいて僕は言った。それを聞くやいなや、二人は僕の腕に視線を落とす。電流は流れない。いや、流れるはずがない。僕は事実しか話していないのだから。
自分のことのように取り乱した様子を見ると、この人の人間的良さがよく分かる。だから、みんなこの人についていくのだと_____
疾風「...記録を。そして実、二度と合体するんじゃないよ。わかった?」
実「......一つお伝えしといた方がいいかなって思ったんですけど...」
___
”わかった?”という問いに対して思ってもいない返答が来たことに若干の驚いたものの、冷静さを何とか取り繕った。
実「次の合体で、僕の体は僕のものじゃなくなるかもしれません。」
彼は平気な顔でそう言った。なんとも言えない表情。感情が全く理解できないような表情に多少の恐怖を覚えた。きっとこの顔は二度と忘れないだろう。トラウマのように脳裏に焼き付いた。
翼「はい......!終わったからもう部屋に戻って休みな〜?私達は上に報告とかあるからさ」
実「はい、わかりました。お疲れ様です。」
扉が閉まる音と共に僕らはため息を吐いた。
翼「どー思うよ、最後。」
疾風「内容は......まあ、だろうなっていう感じだったけど......」
翼「何?顔が怖かったとか?」
疾風「そう、それ!驚きもしたしマジかともなったけど、何より表情が読めなさ過ぎてそっちの印象が強かったわ。」
翼と話すときはすごい楽だ。ずっと一緒にいる分会話に気をあまり使わなくてもいい。翼といるときだけは班長としての自分じゃなくてもいいと思える。
翼「内容についてコメントを!!」
ニュースキャスターのマイクのようにペンをこちらの口元へと持ってくる。
疾風「はい〜、そうですね~、変わらない現状について考えるよりも、もう二度と合体させないように僕らも努力していくのが大切なんじゃないかなと思います〜。」
たとえ、おふざけ口調だったとしてもどうせ報告書に書かれるから、真面目な内容で答える。
翼「それじゃ、アイボーだして〜?本部に届けてくるからさ?」
疾風「ん?アイボーの上に乗るのは俺だが?」
そこから、軽い言い合いになったのは言うまでもないだろう。
正直、現状は傍から見たら地獄だろう。敵組織と俺達を繋ぐ内通者の存在、致命的な戦闘部隊の人員不足、最有力戦力の脱退、そんな危機だというのに今年に入ってから全く活動をしていない上層部。こんな地獄の中でも一つの目的の達成のために僕らは生きてる。
僕の命を賭したとき、それが、世界の大きな分岐点になるのだから。
能力解説
夢華編
刃武射撃
・刃の付いた武器を発射することができる
・パワーモード、スピードモード、バランスモードの3つのモードに使い分ける
・片手につき一つのモードを設定可能
・両手を使う武器を放つとき両手のモードが適用される
・長柄や大剣は両手枠、その他は片手で操縦可能
モード解説
パワーモード:放たれると制御不可能になり、直線上にしか進めなくなる代わりに破壊力を手にしたモード
スピードモード:破壊力の低下と直線にしか進めない代わりに速度と射程、貫通力を手にしたモード
バランスモード:特筆した能力はないものの、細かな操縦を可能とするモード
位置関係
速度:ス>パ=バ
火力:パ>ス>バ
対武器:パ>バ>ス
対人:ス>パ>バ