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呪剣士マディス  作者: 大島ぼす
第一章
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第8話 支部長レオン

 あっという間に月日は経過し、マディスが初の討伐を終えてからひと月が経った。マディスは毎日、ひたすらゴブリンを討伐し、素振りを続け、食事を人の二倍食べた。その結果、体つきも若干逞しくなり、以前のひ弱そうな面影は消えていた。


 防具も一通り揃え、すっかり、いっぱしの冒険者という出で立ちだ。今のマディスは、首筋から腹部までを保護するハードレザーの鎧と揃いの小手、脛あてを身に着け、やや小ぶりの背嚢(はいのう)を背負っていた。


 これらは全て、ギルドの直営店で店主に勧められるまま購入したものだ。面倒見の良い店主は毎日、マディスの稼ぎを確認すると、優先順位の高いものから順に、見繕ってやっていた。


 件の呪剣については、既製品の鞘が合わなかったため、専用の物を作る必要があった。だがそのためには職人に手渡す必要があるが、呪いの為渡すことができない。


 マディスが自分で剣の各寸法を測り、職人に伝えて作ってもらう方法もあったが、マディスには難しく本人も乗り気ではなかった。


 そのため鞘は刀身を布で包み、それを樹脂で固め、上から縄を巻いたものを使っていた。この鞘が、外からの返り血と内側からにじんだ血で、すっかり赤黒く変色し、異様な迫力を醸し出していた。


 なお、普通は剣を使用した後、錆防止のため血や汚れを拭うものなのだが、マディスはもう既に錆びているから関係ない、と思っており、魔物を切った後は軽く振っただけで、鞘にしまうズボラをしていた。


 今日のマディスは朝からギルドに向かっていた。昨日精算した後に、明日はギルドの登録窓口へ来るように言われていたためだ。


 マディスがギルドへ顔を出すと、内部は朝の依頼確認で人がごった返し、喧騒に包まれていた。周囲の冒険者が、マディスに気が付くと、一瞬だけざわめきが収まったがすぐに元に戻った。ともかく久しぶりに登録窓口に赴く。


「おめでとうございます。マディスさん。昨日の納品を持って依頼達成が三十回となりました。本日より晴れて鉄級冒険者への仲間入りです」


 やや事務的な口調で、女性職員は鉄でできた、冒険者証を手渡した。冒険者証は今マディスが持っている木片のものと異なり、それなりに立派なもので、中央にはマディスの名前が刻印されていた。相変わらずマディスは字が読めないため、判別は出来なかったが。


「新しく鉄級冒険者になられた方向けに説明があります。今回は特別に支部長が直接行うとの事ですので、二階の応接間までご案内します」


 近くにいた冒険者たちからどよめきが起きる。鉄級に支部長が説明するなど異例のことだからだ。そんなことは知らないマディスは、黙って職員の後をついていく。


 案内された応接間は簡素なもので、木でできた長テーブルと椅子が置かれていた。ひとまず黙って椅子に座り到着を待つ。しばらくするとドアが開き、男が入ってきた。


「待たせたな。私が当ギルドの支部長、レオンだ」


 開口一番、レオンは握手を求めてきた。おずおずと立ち上がり、握手に応じるマディス。その手は大きく、力強かった。握手をしながらまじまじとレオンを見てみる。


 レオンの背は高く、引き締まった肉体は、歴戦の武人であることを物語っていた。年は四十過ぎだろうか、髪は黒髪で、うっすらと白髪が混じっている。目は鋭くマディスを見据え、鼻下はきれいに反り上げているが、あごには豊かな髭を蓄えていた。貴人が着るような、高級そうな衣装を身にまとい、腰に差した剣は、鞘も柄も銀色に輝く立派なものだ。


 マディスの目には粗野な冒険者というよりは、貴族のように見えた。マディスは知らぬことだが、支部長クラスの冒険者は、国から準貴族として扱われることが、慣例であるから間違いではなかった。


「まあ座りなさい。緊張せんでいいから楽に聞け」


 そういって着席を促すレオン。レオンはマディスの正面に座ると話し始めた。


「冒険者証は受け取ったな。それはお前の冒険者としての身分を証明するものだから、無くすんじゃないぞ。肌身離さず持っておきなさい。鉄級以上の冒険者証があれば、大陸中のほぼ全ての都市に入場できる。したがって管理責任は重くなるからな。無くしたり盗まれたら処分の対象になる」


 それを聞いて顔をこわばらせるマディス。


「その様子だと、冒険者のことは何も知らんようだな。よし、少し長くなるが説明してやろう。冒険者というのは名前の通り、元々は未開の大地を探索し、古代の遺跡や迷宮から財宝を探し当てる者たちのことだ。各国の王家の中には、冒険者から身を興したものも少なくはない」


 原初の冒険者たちは魔物に満ちた未踏の地を探索し、かつて栄華を誇った古代人の遺跡から、財宝や古代遺物アーティファクトを発掘したのだ。


 古代遺物の多くは、強力な力を持つ魔法の武器や道具の類で、冒険者の中には、それらを用いて魔物を打ち払い、都市を築き、その地の王となるものも現れた。ロドックを治めるラディア王家もその一つだという。レオンは続けた。


「現状、遺跡探索をする冒険者がいないわけではないが、今の時代、未発見の遺跡などそうはない。あるとすれば大森林の深層などの、未踏破地帯や辺境だろうな。そういった仕事ができるのは、冒険者の中でも一部の実力者だけだ。大半の冒険者は迷宮で魔物を狩ることを生業にしている。ともかく、我々冒険者は一にも二にも魔物を狩るのが仕事だ」


 レオンは冒険者の成り立ちから現在までを教えてくれた。

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― 新着の感想 ―
呪剣の効果エグいですね。 これは警備兵やギルド職員が引くのも無理ない。 そして呪剣でひたすらバトルと特訓。 すっかり冒険者らしくなったけど、 ここはレオンさんの教えを素直に聞くべきですね。 徐々になり…
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