エピローグ
黒竜が倒された後、冒険者ギルドと教会間で、この騒動の処理が協議された。
ガリアン大司教の独断による暴挙について、冒険者ギルドは一切口外しない。その見返りとして、マディスの災厄の剣について、引き続き所持が認められた。教会は当初、その危険性を指摘し、教会にて封印することを提案してきたが
「聖剣すら満足に管理できない教会より、私が持っていた方がよほど安全です」
そう、マディスに一蹴された。ガリアン大司教の暴挙を止めることが出来なかった教会としては反論することができなかった。大魔道もマディスの所持を支持し、今回の件についての賠償を教会に求めた。これにラディア王家も追従し、ロドックの復興費用という名目での多額の賠償金を勝ち取った。無論、世間には教皇猊下のご慈悲によるものとして喧伝された。
ガリアン大司教は聖地の大審院にて裁きを受けた。ガリアンは自らの独断については罪を認め、謝罪したが、呪剣士の危険性について訴え、やり方はマズかったが、必ず呪剣は世に災厄をもたらすものであり、今回黒竜が討たれたのは結果論だとして、自らの行動は神の教えになんら背くものではないと主張した。
この答弁を受け、教皇は語った。
「ならば汝の審判は神に委ねよう。汝の行いが神の教えに背くものでなければこの秘儀は発動せぬ」
そう言うと、教皇はその魔力を解き放ち、神への審判を願った。すると、ガリアン大司教は突如苦しみだし、床をのた打ち回った。そして、彼の額には入れ墨のような印が浮き上がっていた。
教皇のみが使える、神の秘儀、『審判』であった。印がついたということは有罪の証だ。そしてガリアンには罰が与えられた。
ガリアンは一切の私財を没収され、教会を放逐された。そして彼は神の赦しが与えられるまで救世の旅を続けなくてはならない。ひたすらに無辜の人々を救い、そして自分自身を救済しなければならないのだ。赦しを得る前に命を落とせば、その魂は地獄に落ち、永遠の苦しみが待っている。果たして、彼に赦しが与えられるのか……それはまさしく神のみぞ知る。
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マディスはその後、程なくして、冒険者の最高峰、金級冒険者に昇り詰める。若すぎる彼の昇級に苦言を呈すものもいたが、黒竜を討伐した武勲は大きく、また彼はその後も数々の武功を上げ、文句を言う人々は居なくなった。
彼は若くして、富も名誉も比類なき武力も手に入れた。貧農から成り上がった彼の英雄談は多くの若者を引き付けた。
マディスはララとの間に多くの子をなし、幸せな家庭を築いた。それこそが彼が最も望んだものだった。当たり前の幸せかもしれないが、持っている者は貧民でも持っているが、持たざる者は国王でも持っていないモノ。すなわち、家族の愛だ。
呪剣を支配して以来、マディスの残忍な行いは見られなくなった。子供たちに危害を加えることなどなく、彼の受けた悲劇が繰り返されることは無かった。
……呪いの装備を集める奇行は続いたが……
マディスはその後も魔物たちや悪魔崇拝者と戦い続けた。災厄の剣はマディスによって完全に支配され、彼に敵対した者たちに悉く破滅をもたらした。敵対者にとっては、マディス自体が災厄となり、彼らを破滅させたのだ。
彼は、金級冒険者として、呪いを支配する者「呪王」の尊称を送られた。また黒竜討伐の功により、『竜殺し』の称号をも得た。彼はその二つ名『鏖殺』も含め様々な異名で語られた。一方で、教会関係者からは蛇蝎のように嫌われ『触れ得ざる者』として恐れられた。
だが、多くの者は尊称や二つ名ではなく、恐れと憧れを込めて彼をこう呼んだ。
ロドックが生んだ、稀代の冒険者
数々の武功と、恐ろしい逸話を持ち、時にその奇行は人々を困惑させ
悍ましき、呪われし剣をもって、敵対者に破滅をもたらす男
その男の名は……
呪剣士マディス!
(了)
これにて本作は完結となります。お読み頂きありがとうございました。
最後に活動報告を更新しましたので宜しければご一読ください。




