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呪剣士マディス  作者: 大島ぼす
終章
57/62

第57話 鏖殺

 時は少し遡り、その日、王都のマディスは家で寛いでいた。毎日魔物狩りをしていては、体に毒だ。たまには休養を取りなさいとラタンに諭されたからだ。ラタンと行動を共にするフェリスは、マディスが結婚して以来少し距離を取るようになった。


 マディスに思う所がある訳ではなく、彼も妻のいる立派な大人だ。以前のように子ども扱いして面倒を見るのはやめにしたのだ。フェリスは、どことなく影のある彼を未だに心配していたが、きっとララが自分に代わってその影を払ってくれるだろう、と思っていたのだ。


 そのララだが、盲目をメガネで克服してから、家事や生活の術など、急速に様々なことを吸収していった。ララも、マディスと同様に運命に翻弄されながらも、これまで必死に生きてきたのだ。


 マディスのように汗水垂らして働いていたわけではないが、出来る限りでの王族教育は真面目に受けていたし、侍女や女中に本の読み聞かせを行わせていたので、学者であるエミリーに負けぬほどの博識でもあるのだ。


 そういう意味で出自は天と地ほど違うが、似たもの夫婦と言えた。


 夫婦水入らずで寛ぐマディスだったが、急に鳴り響いてきた王都の鐘に即座に反応した。


「これは確か……スタンピード発生の合図!?」


 マディスも既に上級冒険者として必要な諸々の知識は学習していた。この鐘が王都近郊もしくは他の都市で、スタンピードが発生したことを知らせるものだと理解していた。


 慌てて鎧を身に着け始めるマディス。ララとドリスも、身支度を手伝ってくれた。鎧を付け終わった直後に、ギルドからの伝令がマディス宅を訪ね、ロドックでのスタンピード発生を伝えていった。


 一先ず、王都ではなさそうで安心したが、よりによってロドックとは。あそこには世話になった人が大勢いる。なんとしてでも助けに行かなくては。マディスはそう思いながら、武器を選んだ。


 マディスは双刃剣ではなく、先日手に入れた、皆殺しの剣を手に取った。大きくて嵩張るが、必ずこれが役に立つという不思議な予感があった。双刃剣と同様に背中にロープで括りつけ固定した。


 装備を整えたマディスは、ララに「行ってくるよ」と一言だけ語った。ララも「ご武運を」とやはり一言だけ返した。ララも冒険者の妻である。有事に狼狽えたりはしないし、夫の戦意を削ぐようなことは言わない。何も言わずとも、マディスであれば、必ず帰ってくると信じていた。そう約束したからだ。あの、忌まわしき王宮で。


 心中では名残惜しさもあったが、マディスは家を出て、ギルドに向かった。ギルドでは既に上位冒険者を中心に集合しつつあった。スタンピードが起きたのはロドックだが、連鎖して王都近郊の迷宮でスタンピードが発生する可能性も否定できない。当面は厳戒態勢が敷かれることになる。


「来たなマディス。お前はこっちへ来い」


 グレイがマディスを連れ、普段は入らない区画に入っていく。そこは転送装置のある部屋で、大魔道とティアンナ、そのほか魔道士と思われる冒険者たちが、大きな水晶に魔力を集めていた。


「来たね、マディス。聞いての通り、ロドックでスタンピードが起きた。レオンに念話で半日持たせろと伝えている。魔力の充填が済めば、あたしとグレイで援軍に行くつもりだがアンタはどう思う」


 大魔道が魔力を充填しながら話しかけた。マディスはギルドの最高戦力である二人が向かうのは妥当だとは思いつつ、どうしてもロドックには自分が行きたかった。その思いをぶつけた。


「本部長、僕を行かせてください! ロドックには、ガルドさんや支部長。他にも僕の恩人がたくさんいます! 彼らを放ってここで待機しているわけには行きません! お願いします!」


 それを聞き、大魔道は静かに目を閉じた。大魔道も迷っていた。順当に行けば、自分とグレイ若しくはティアンナというのが確実だが、まずティアンナは魔力を充填するのに力を消費してしまう。そういう意味では自分も同じで、普段の半分程しか魔力を発揮できない。しかし、それでも自分なら十分だ。


 だが魔力が尽きたティアンナは戦力としてはグレイに劣る。よってグレイが順当だが、スタンピードは何が起きるか分からない。先日のグレーターデーモンのような化け物が出るとも限らず、そういう意味では底知れぬ力を持つ呪剣を操るマディスも十分候補足りえた。


 しかし、大魔道は心の底でヴェルザリスの忠告が気掛かりだった。スタンピードに連動して何かが起きるかもしれない。その懸念が彼女の判断力を鈍らせていた。だがマディスの言葉を聞き、考えを変えた。


 出会ったときにはオドオドするばかりで、碌に自己主張も出来なかった子が、強く訴え出ているのだ。それに先日の騒動で決め手になったのはやはりマディスだ。危険はあるが、彼の秘めた力に期待しようと決断した。


「分かった。マディス。お前を連れていく。グレイ、アンタは留守番だ。ティアンナと共に王都を守れ。わかったね」


 その後、二人は転送部屋を出た。魔力の充填の邪魔になる。


「マディス。お前は体を休めておけ。俺は王都の冒険者達の指揮をせねばならん。以前使っていた客間にでもいろ。本当はお前にも上位冒険者として実地で色々勉強してもらいたいところだが、そうもいかん。全ての力をロドック防衛の為に取っておけ」


 そう言って、グレイは去っていった。マディスは言われた通り、客間に行き、椅子に座って精神を集中することにした。気持ちが昂るが、今はそれを抑え、気力体力の消耗を防がねばならない。マディスは静かに目を閉じ、その時を待った。


 ●


 暫くして、準備が整ったと連絡があり、転送部屋へ向かうマディス。半日と聞いていたが予想より早かった。部屋に入ると、大魔道とティアンナ以外の魔道士はへたり込んでいた。ティアンナも一見平然としているが、よく見ると肌が汗ばんでおり消耗が見て取れた。普段と変わらないのは大魔道くらいだ。


「来たね。これから転送を始める。一度使うと、充填した魔力は空になるから、あたしが向こうに行っちまったら、再度魔力の充填が完了するのは数日はかかるだろうね。まあいい。あたしらで魔物どもを殲滅すればいいだけだ。さ、ここへ立ちな」


 大魔道に促され、彼女の横、紋様の書かれた床の真ん中へ立つ。大魔道が「転送開始!」というと、マディスの目の前がグニャグニャしはじめた。目を回している時と同じような状態だが気持ち悪さは無かった。程なくして視界が安定してきた。大魔道が声を出した。


「さあ着いたよ! ここはもうロドックだ! グズグズしないで外へ出るよ!」


 彼女に促され、急いで外へ出る。なお大魔道は少し浮きながら移動している。


 建物の外へ出ると、遠くから喧騒が聞こえた。激しい戦闘が繰り広げられているのは間違いなかった。音の方へ向いて走り出そうとした瞬間、大魔道が後ろから声を掛けた。


「普通に走っていては遅すぎる! 今からアンタを吹っ飛ばすからその勢いで一気に行くんだよ!」

「え?」

空撃砲(ヴェンド)!」

「うおっほ!」


 大魔道がマディスの背中に向け、衝撃波の魔法を放った。うまく威力を調整しているようだが、マディスは背中に強い衝撃を感じ吹っ飛んだ。その勢いを利用して爆発的に走り出し、やがてトロールの一団が見て取れた。


 よく見ると、冒険者と思しき人が倒れている。マディスは呪剣を抜き放ち、勢いを利用して一気にトロールを切り捨てた。


「銅級冒険者、呪剣士のマディスです! 王都から本部長と応援に来ました!」


 大声で叫び、応援の到着を知らせる。マディスはすぐさま手当たり次第にトロールを切り捨て始めた。呪剣はマディスの殺意に反応し、わずかに黒く輝き、トロールをいとも簡単に切り裂いた。以前トロールと戦った時とは比べ物にならぬ威力を見せていた。


「マディスか!? お前が来てくれたのか!」

「あれがマディスか! 信じられん!」

「あのガキ、立派になりやがって……」


 みなマディスの登場に驚き、その強さに度肝を抜かれていた。ガルドは少し涙ぐんでいた。


 マディスは無心でトロールを切り捨て続けた。既にトロールはマディスの敵ではなく、形成は一気に逆転した。やがて追いついてきた大魔道が、上空から爆炎魔法をトロールに向け放ち、ここにトロール軍団は壊滅した。


「マディス! よく来てくれた! イヤ驚いたぞ!」

「全く、どこの高位冒険者かと思ったが、お前とはな」


 レオンとカイウスがマディスに話しかける。ガルドは仏頂面になり黙り込んでいたが、不機嫌なのではなく、照れ隠しだ。


 マディスは、肩で息をしながら返事をした。流石に一気に殲滅したことで疲労していた。


「支部長、カイウスさん。間に合って良かったです」


 周囲の冒険者は、あれが噂の呪剣士かと興味津々だ。初日のマディスを知っている者など、同一人物とは思えず驚嘆していた。若手たちは目を輝かせ、稀代の英雄を仰ぎ見ていた。


 顔馴染みの面々から礼を言われるマディスだったが、血を流して座り込んでいる冒険者に気が付いた。既にポーションを飲み、手当は済んでいるようだが、出血により血だまりが出来ていた。


「ちょっと失礼」


 マディスはそう言って、吸血剣を抜き血を吸わせ始めた。吸血剣は人を切らずとも、流れ出た血を吸わせることで、わずかだが体力を吸い取ることが出来た。マディスは体力を回復すべく、何の躊躇もなく血を吸わせ始めたのだ。この行動に周囲は困惑したが、ガルドが代表してマディスへ問いかけた


「……何してんだ。お前」

「あ、ガルドさん。お久しぶりです。無事で良かったです。この剣は血が大好物でして、こうして血を吸わせると喜ぶし、僕も回復するので吸わせているんです。人間の血限定なんですけどね」

「「「…………」」」


 そう屈託なく答えるマディス。この回答に周囲は引いてしまった。呪剣士は血に飢えた悪魔のような男だと噂されていたが、本当だとみんな思った。そんな微妙な空気をミロの声が引き裂いた。


「た、大変だ! 新手が現われました! 空中部隊もいますし、ワイバーンまでいます!」

「何だと! わかった今すぐ行く! マディス、ついてこい!」


 一行は大慌てで城壁へ上った。大魔道は既に空中で敵を補足しているようだった。城壁に上がると、まず目についたのは、ヴァルチャーの大群と十匹のワイバーンだ。


 ワイバーンというのは翼竜とも呼ばれる魔物で小型の竜に見えるが、実際にはトカゲに近いらしい。山岳地帯にわずかに生息する強力な魔物で、人里に出れば一匹だけでも大騒動だ。それが十体も出現した。


 それだけではなく、新たなトロールの一団が出現していた。青いオークも混じっているようだが三百はいるように見える。この増援に周囲には絶望感が広まりつつあった。


 片方だけなら何とかなるが、両方一遍に来られては勝ち目がなかった。大魔道も魔力は十分にあるとは言えない。あまり派手な魔法は連発できない。


 トロールの群れはまだ先におり。空中部隊は地上部隊と足並みを合わせているようだ。片方が先に突っ込んで来てくれれば、まだやりようがあったが、ここに来て戦力を集中して一気に仕留めにきたようだ。やはり悪魔が操り、希望を抱かせてから絶望の淵へと叩き落とそうとしているのだろうか。


 絶望的な状況だが、マディスには打開策があった。背中の皆殺しの剣、今こそ、その呪いを解放する時が来たと感じていたのだ。空中部隊は流石に大魔道に任せるしかない。マディスには相性が悪すぎる相手だ。


「支部長! 僕は今から単騎でトロールに突っ込みます! その間、皆さんは決して街から出ないでください! 僕に何があっても近寄らず、気づかれない様にしてください!」

「マディス! お前一体何をする気だ!」


 レオンが叫ぶがマディスは続けた。


「本部長! ワイバーン達をお願いします! トロールは僕が殲滅します!」

「マディス……わかった。アンタに賭けてみよう。聞いての通りだよ! あたしとマディスが迎撃する! アンタらは街の中で隠れてな!」


 困惑する一同だが、大魔道の指示なら従うしかない。レオンやガルドはマディス一人に任せることに忸怩たる思いがあったが、先ほどの戦いぶりを見ても、既に自分たちを超えている。今はマディスを信じるしかないと大人しく指示に従った。大魔道は先に空中へと舞い上がった。マディスも後に続く。


「ミロ……馬に乗れるかい? すまないが近くまで馬で連れて行ってくれ。僕は馬に乗れないから」

「お、俺が? ……わかった。わかったよ! 連れて行ってやるから、終わったら奢れよ!」

「ああ、任せて。いくらでも食べてくれて構わないから」


 マディスはミロの操る馬に乗せてもらい、魔物の集団の近くまで来た。大魔道は既に空戦を始めているようで、ヴァルチャーが次々と撃墜されていた。


「ミロ。ありがとう。ここまででいい。僕を下ろしたらすぐに街へ引き返してくれ。けっして振り返らず全力でね」

「わかってるよ。お前も死ぬなよ。あの時の借りは返してもらうからな」


 そういってミロは馬で全力で去っていった。なお、別にマディスにはミロに貸しは無い。宴会でバカ食いしたマディスに逆恨みしているだけだ。それに大食いしたのはフェリスやラタンも同じだ。ミロは一度だけ後ろを振り返ったが、夕陽に照らされ、マディスの姿は朧気にしか見えなかった。


 マディスは、目前に迫る魔物の集団を前に、皆殺しの剣を手にし集中しはじめた。そして剣の持つ呪いを解き放ち、邪悪なオーラがマディスと剣を包み始めた。


「オオオオオオオオォォォォォォォォォ!」


 マディスが凄まじい雄叫びを上げた。その咆哮に魔物たちが動きを止めた。ロドックにもマディスの恐ろしい叫び声が届いており、何が起きたのか困惑していた。


 剣の呪力を解き放ったマディスの筋肉が、異様に盛り上がっていき、叫び終わると、飢えた獣のように魔物たちに襲い掛かった。大剣を軽々と振り回し、マディスが剣を振るたびに、魔物が両断されていった。


 皆殺しの剣の呪いにより、今のマディスは狂戦士と化していた。その力はマディスの能力を限界以上に引き上げ、剣速はグレイをも超え、目にも止まらぬ速さで次々と魔物どもを屠る。魔物たちは反撃する間もなくその命を刈り取られていく。今の彼らは屠殺場の家畜と変わりはしなかった。


 その凄まじい戦いぶりはロドックから見守る人々を恐怖させた。レオンやカイウスは遠眼鏡で詳細を見ていたが、他の者たちも、マディスが異様なオーラを放ち、剣を振るたびに血の雨が振るのを目撃していた。


 カイウスは、夕陽に照らされ、魔物を殺し続けるマディスを見ながら、在りし日の彼を思い出していた。オークの首を木の棒に刺して佇む彼をだ。あの時は衛兵達で取り囲んだが、今の彼に掛かれば自分達など瞬殺されてしまうと背中に冷や汗が流れた。


 レオンもまた、マディスの活躍を見ながら複雑な思いに駆られていた。今のマディスは自分達にとって救世主には違いないが、あの戦いぶりを見ていると、恐ろしさを感じずにはいられなかった。わずか二年の間にここまで強くなるとは思いもしなかった。


 ラタンが呪剣について懸念を抱いたときに、本心では考えすぎだと一蹴していたが、間違っていたのは自分だったのかも知れない。もし、マディスが呪いに飲み込まれ、暴走したとしても、今の自分ではマディスを止めてやることは出来ない。正面から戦っても、相打ちどころか犬死にするだけだろう。レオンはそう心の内で考えていた。


 とにかく、レオンとしては、マディスが呪いに飲み込まれない心の強さを維持することを願うばかりであった。レオンの懸念を余所に、マディスの周囲の魔物は見る見るうちに減っていき、もう少しで殲滅という所で、悪魔が最後の足掻きを見せた。


「あれは! 一つ目の巨人(サイクロプス)だと!」


 今までどこに隠れていたのか疑問だが、森の中から突如として、巨人が姿を見せたのだ。その背丈はロドックの城壁と同じくらいある。城壁の者たちはこれが最後の戦いとなると確信していた。


 マディスが魔物を殲滅したタイミングで巨人がマディスの元へ到着した。巨人は蹴りを繰り出してきたが、俊敏に動くマディスには当たらなかった。マディスは咆哮を上げながら、巨人の足を切りつけた。さすがに一度で両断とはいかず、樵のように、何度も切り付けることになったが、巨人はたまらず膝をついた。


 その状態からマディスは巨人の背に飛び移り、背中をよじ登って、肩の部分まで上ってきた。狂えるマディスは、大きく息を吸い込むと、雄叫びと共に剣を振り抜いた。


「オオオオオオオオ!」


 その一撃は、巨人の首をいとも簡単に刎ねた。すぐに切断面から血が吹き出し、周囲に文字通りの血の雨を降らせた。巨人の体はゆっくりと倒れていき、マディスはその死体の前で、勝利の雄たけびを上げていた。


「ウウウウウオオオオオオオオ!」


 やがて徐々に剣からオーラが収まっていった。マディスの視界に生ける物は見当たらず、文字通り皆殺しにしたのだ。そのため呪いが収まり、マディスの意識は徐々に戻りつつあった。そのマディスの後頭部に衝撃が走った。


「ぶぼっ!」


 マディスは倒れ込み、顔面から地面に突っ込んだ。


「ありゃ。ひょっとして正気に戻っておったか? スマンスマン! まだ呪いが解けていないと思ってな。意識だけ奪うつもりじゃった」

「…………」


 空中部隊を殲滅した大魔道は、途中からマディスの戦いに対して、高みの見物を決め込んでいた。戦闘が終わり狂戦士と化したマディスの意識を奪おうと、衝撃波を放ったのだ。全くの無駄だったが。


「本部長……」

「まあそう怒りなさんな。マディス、よくやったよ。お前は紛れもない英雄だ。……だがな、お前はアタシと同じでもう人間としては強すぎる。ロドックの人々の中にはお前を恐れる者も現われるだろう。……強く心を持つんだよ」

「はい……わかってます。まあ元から怖がられていましたから、今更ですね」

「……お前を恐れる者達は、その噂が原因だったが、これからはお前を良く知る者達からも恐れられるかも知れん。よく覚えておくんだよ」

「…………」

「まあいい、暗い話はここまでだ。さてお前の二つ名も決まったことだし、落ち着いたら銀級への昇級式といくかい」

「え? 急に何ですか? いつ決めたんですか?」

「ついさっきだよ。あの戦いぶりをみていたら誰でも思いつく名前さ」

「……変な名前じゃないですよね。血祭りとか」

「まあ、後のお楽しみだよ。さて帰るよ」


 沈みゆく夕陽を背に、マディスはゆっくりとロドックへ向け歩き始めた。大魔道もマディスに付き合い、ふよふよ浮きながらついていった。ここにロドックのスタンピードは鎮圧されたのだ。


 暫くして、新たな銀級冒険者がラディア王国に誕生した。冒険者になって二年での銀級への昇級は記録を確認出来る限りではマディスが初であった。


 その二つ名は『鏖殺みなごろし』。通達を受けた諸国の冒険者たちはその恐ろし気な二つ名に慄いた。


 だがマディスはこの二つ名をあまり気に入らず、名乗ることはほぼ無かった。

お読み頂き、ありがとうございました。面白い、と感じていただけましたら、感想、いいね、ブックマークなど頂けますと、作者の励みになります。また↓にあります、『☆☆☆☆☆』にて評価が可能ですので、こちらも応援いただければ評価をお願い致します。

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