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呪剣士マディス  作者: 大島ぼす
終章
56/62

第56話 主力

 戦闘開始から既に数時間が経過していた。二度目の空中部隊を撃退し、地上戦も現在は優勢だ。ヴァルチャーの一部が街の中に侵入してしまったが、これは教会部隊によって倒された。城壁の上から戦いを見守っているミロが、ゴブリン部隊が遂に途切れ始めたのを見て喜ぶ。だが対照的にレオンの顔は曇っていた。


「雑魚はこれで終わりのようだな。いよいよ本番だぞ。ガルド! ゴブリン達を殲滅したら、部隊を中へ引き揚げさせろ!」


 レオンが下へ向けて叫んだ。返事は無かったが、ガルドの事だ、心得ているだろう、とレオンは気にせずゴブリンの群れへと目を向けた。


 間もなくして、ゴブリン達が殲滅され、地上部隊が城門の中へ引き揚げる。そのタイミングで、新たな魔物の集団が確認された。


「オ、オークがあんなに……」

「流石に千はいないだろうが、あれだけいると厳しいな。閣下、まもなく敵主力が到着します。総力戦となるでしょう」

「うむ、支部長殿、名残惜しいが儂は下がる。後の指揮は歩兵長に任せるのでうまく使ってくだされ。では武運を祈る」


 そういってグトランス卿が後方へ引き上げた。グトランス卿とて貴族としての戦闘力はそこいらの冒険者に劣るものではないが、彼は行政の責任者でもある。彼が戦死した場合、スタンピードを乗り越えた場合でも、その政治的損失は計り知れない。彼は決して臆病ではなく、自らの役割を果たすべく後方へと下がったのだ。指揮は歩兵長が取るので問題ない。


「歩兵長殿。矢の在庫はどの程度でしょうか」

「あの集団を撃退する分には問題ありません。だがあれで最後ではないでしょう」

「はい。先ほどのゴブリン達が前衛なら、奴らは中堅といったところです。本命はあの後でしょうな」

「ううむ、ギリギリですな。その本命の規模にもよるでしょうが。一先ず、奥の手は温存しておきましょう」


 レオンと歩兵長が今後の見立てを語り合った。話し終わったタイミングでガルドが帰還してきた。彼の鎧はゴブリンの返り血で真っ赤だ。戦いの激しさを物語っていた。


「ガルド、ご苦労だった。膝の調子はどうだ?」

「別にこの程度なら何ともねえよ。さてここからだな。問題は」

「うむ、あのオーク達を撃退して、本命がどの程度かで勝負が決まる」

「あああ! オークにトロールが少し混じってますよ!」


 ミロが悲痛な叫びを上げた。オークの集団にトロールが一部混じっていた。うろたえるミロに比べ、ガルドとレオンは涼しい顔だ。


「あの程度ならどうってことねえよ。ミロ。お前も冒険者としては中堅だろう。その程度でビビるな」


 そう言いながら、戦斧に替えて、戦槌を手に取るガルド。ミロは以前トロールに殺されかけているためひどく狼狽していた。


 やがてオークの大群が城門近くにやってきた。あの数のオークを地上で撃退するのは犠牲が多すぎる。城壁を盾にしつつ、射撃で削っていくしかない。防衛部隊が次々とクロスボウを撃ち、矢がオーク達に刺さるが、一撃では仕留められない。たまに運よく頭蓋に当たった個体は一発で仕留められた。


 オークの一部には青色の個体も混じっている。オークの上位種は赤いスケルトンにも匹敵する強さを誇った。ただ、一方的に射撃を受けては、上位種とて一溜まりもない。もっとも、倒すのに多くの矢を消費してしまうので、強敵なのは間違いない。


 城壁から射撃が続く中、一部混じっていたトロールがオークを城壁に向けて投げつけてきた。オークの体重は人間の男より重いので凄まじい怪力だ。たまに失敗して城壁に激突して自爆する個体もいたが、その多くは城壁に乗り移り、城壁上での戦闘が始まった。


「落ち着け! 数は多くない! 慎重に一匹ずつ倒していけ! 弩兵を守るんだ!」


 レオンが号令を掛け、冒険者達がオークを仕留めていく。オークを城壁に届けているトロールをクロスボウで狙い撃ちにするが、トロールクラスになると、クロスボウでは仕留めきれない。ダメージを与えても回復してしまう。


「魔法使いは、トロールが集中している個所に爆炎を浴びせろ! 乱射して無駄に魔力を消費するなよ!」


 魔法使い達が、なるべくトロールが集中している個所に爆炎を投射していく。魔法使いはロドックには十人もいない希少戦力だ。もう少し温存しておきたかったが止むを得ない。


「その辺でいい! 後は油や火炎瓶で対処しろ! 魔力は最後の本命まで温存しておけ」


 城壁上が落ち着いてきたので、魔法を温存させる。トロールは火傷を回復できないので、油を投げつけ、火矢で焼き払う。貴重だが火炎瓶も使用する。もう少し時間があれば煮え湯なども用意できたかもしれないが、間に合わなかった。


 城門に取りついたオークたちが、ガンガン体当たりをかまして、門の破壊を試み始めた。そう簡単には破壊できないだろうが、永久には持たない。門に取りついたオークをなるべく優先して狙い打つが、角度の関係から、撃てる位置も限られ、なかなか排除が進まない。とにかく、地道にオークを減らしていくしかなかった。


 だんだんと、門の近くがオークの死骸で埋まってきていたが、オーク達は猪らしからぬ知性を見せ、その死骸を空堀の左右に捨て始めた。またトロールもオークの死骸を投擲武器代わりに城壁に投げつけてきた。当たれば大けがをするし、当たらなくても邪魔になり、部隊の動きを阻害した。


「死体はさっさと下に捨てろ! くそ、豚共め魔物の癖に妙に賢いな」

「マズいですよ! 空堀が死体で埋まって、盛り上がってきてます!」


 ミロがそう指摘すると、その死体で盛り上がった箇所にトロール達が飛び乗り、そこから思いっきりジャンプをして、城壁に上がってきてしまった。周囲の冒険者が悲鳴を上げるが、その悲鳴はすぐに歓声に変わった。


「ハア!」

「オラァ!」


 レオンが掛け声と共に剣を一閃し、トロールの首を跳ねたのだ。ガルドも戦槌でトロールの顔面を一撃で潰した。レオンとガルドの武勇に皆士気を上げた。


「トロール如きが何百来ようと、この閃撃のレオンの前ではゴブリン同然よ!」

「…………」


 勝ち誇った顔で、二つ名を名乗るレオン。近くにいたガルドが、何故か恥ずかしそうにしていた。エミリーがこの場にいれば、「共感性羞恥ね。あれは」と見破ったかもしれない。その後もトロールや青いオークが昇ってきたが、レオンとガルドを中心に撃退され続けた。


 激闘はその後も続き、なんとかオーク軍団を殲滅することが出来た。幸い死者は出ていないが、疲労が蓄積している。疲労はポーションや回復魔法では癒すことができない。みな、少しでも疲労を取り除こうと水分を取った。中には酒を飲みだす者までいた。


 そして、日が落ち始めた頃、遂に本命となるトロールの群れが姿を見せたのだ。息つく暇もない連戦に加え、トロールの出現に、城壁上の者達は死を覚悟した。勝利したとしても、甚大な犠牲が出るだろう。


「おい。トロール数百なら、ゴブリン同然何だろ? 城門を開けてやるからお前一人で行って来いよ」

「…………」


 ガルドはこの状況でも、先ほどのレオンの発言を冷やかすが、レオンは無視を決め込んでいる。その沈黙を破り、歩兵長が前に出た。


「遂に本命のお出ましか! ではこちらも奥の手を出すぞ! いでよ、我がロドックの誇る精鋭たち!」


 歩兵長がそう叫ぶと、出てきたのはガルドに勝るとも劣らない、十人の大男達だ。手には巨大なクロスボウを手にしている。これだけ大きいと弩砲バリスタと言っていい。これぞ、ロドック防衛隊の切り札。最精鋭の狙撃手達シャープシューターだ。


 大男達はクロスボウを構え、トロールが射程に入ると一斉に矢を放った。矢は見事にトロールに命中した。それだけで無く皆、頭蓋への一撃(ヘッドショット)を決めている。単に力だけでなく、その射撃の腕前が、彼らが狙撃手と呼ばれる由縁だ。さしものトロールもこれでは一撃だ。


 だが弱点もある。とにかく装填に時間がかかるのだ。これだけの大型クロスボウだと、常人には装填すらできない。彼らの怪力でなければ装填できないのだ。それでも彼らはひたすら撃ち続け、確実に敵の数を減らした。最終的に、城門に取りつくまで百匹近い数を倒していた。魔法使いたちも爆炎魔法を惜しみなく使い、トロールを攻撃する。これでだいぶ削れたはずだ。


 だがそれでも、残り百体以上はいる。トロール達が城門を攻撃し始めた。トロール達の怪力に、もう扉が持たないと判断したレオンは、冒険者と防衛隊の白兵戦要員を連れ、城門前へと向かう。


「歩兵長殿はここで指揮を! 弩兵部隊は城壁から街中へ向け、援護射撃を頼む! ミロ! お前はここで敵の増援がないか見張っていろ! 空中部隊が来ないとも限らん! では皆行くぞ!」


 レオン達が街中へ下りたタイミングで遂に城門が破られ、トロール達が一気に押し寄せて来た。レオンとガルドが先頭に立ち、トロール達を屠っていくが、二人以外は防戦一方だ。遂に二人は囲まれてしまい、トロールがその長い腕を滅茶苦茶に振り回す。


 狙われたガルドが戦槌で防御するが、膝の踏ん張りが効かずに倒れてしまった。すかさず追撃を繰り出すトロール。


(ここまでか!)


 死を覚悟したガルドだが、不意に背後より一陣の風を感じ、次の瞬間、黒い斬撃がトロールの体を引き裂いていた。

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