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呪剣士マディス  作者: 大島ぼす
第三章
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第44話 捜査

 魔物の鎧を装備したマディスは順調に探索を続けていた。特段、鎧による異常は見受けられず、マディスが着る分には美しい立派な鎧でしかなかった。界隈の冒険者たちは、呪剣士が迷宮で立派な鎧を手に入れたと噂しあった。まさか魔物の死骸を身にまとっているとは思わず、古代遺物アーティファクトの類であろうと、羨望の眼差しを送った。


 だが一部の勘の鋭い者たちは、その深い青色に不吉を見出した。青は青でも、清廉さを感じる青色ではなく、どこか邪悪さを感じる真っ青な鎧だと気味悪がった。


 エミリーが語る所によると、スケルトンやリビングアーマーの死骸というのは、ある程度時間が経つと風化してしまうらしい。それと同じ法則が適用されるなら、この青い鎧も時間経過で風化してしまう恐れがあったが、特にその兆候は見られなかった。


 この鎧が特別なのか、それともマディスの能力が影響しているのかは、分からずじまいだ。もう一着同じ物が手に入れば分かったかも知れないが、あれ以来、青いリビングアーマーを見かけることは無く、例のトラップ部屋も宝箱が復活することは無かった。


 双刃剣については、手に入れた時のまま、布で覆いそれをロープで縛り背負っていた。そう頻繁に使う気も無かったので、鞘を作るのが手間だったからだ。一度だけ、本気で使用した場合、どれくらい反動が来るのかを試してみた。フェリスやラタンはやめておけと怒ったが、いざ本番で使うときに反動で重傷を負っては、目も当てられないので必要な事だった。


 マディスはリビングアーマー相手に全力で袈裟切りを放ち、真っ二つにした。すると、切った箇所と同じ部位がざっくりと切れてしまった。致命傷ではないが、それなりのダメージを負ってしまい、即座にポーションを飲んで治療した。だから言っただろうと、とフェリスが怒って、回復してくれなかったからだ。


 服の下の体に直接傷がついてしまったので、衣服が血で濡れてしまいかなり不快だった。マディスはやはり可能な限り双刃剣を使うのは避けたいと思った。


 そうして探索を続ける中、マディス一行はティアンナから呼び出しを受け、本部長室に集合していた。大魔道はおらず、ティアンナとグレイが待ち受けていた。


「来たな、マディス。早速だが例の狂戦士にお前の暗殺を依頼した奴の足取りが分かった。どうも裏社会の人間のようなんだが、詳しい身元は分からんが、そいつがさる貴族の屋敷に出入りしていることが判明した。そこで、俺とお前らで屋敷に強襲を掛け制圧する」

「いきなり貴族のお屋敷に襲撃なんかして大丈夫なんですか?」

「大丈夫とは簡単に言えないけど、今本部長が王宮に行って説明している最中だわ。強引なのは確かだけどね。その貴族自体は下っ端だけど、王弟殿下の庇護下にある貴族だから、王宮にキチンと根回しする必要があるわ」

「王弟殿下ですか……殿下が黒幕なんでしょうか、なぜ僕なんかを?」


 マディスの疑問にティアンナが答えた。


「あくまで庇護下にある貴族というだけで、殿下が黒幕とは限らないけど、可能性としてはベイル会戦の件を逆恨みしてのことかしら。あなたの活躍のせいで、殿下とその派閥は一気に勢いを失ったわ。元帥はネヴィル将軍へ交代することになったし、殿下自身も、例の銀鉱山の開発と防衛の責任者という名目で、南部地方の太守として赴任するよう打診されているらしいわ。国王陛下に限って、王宮から追い出そうっていう意思は無いでしょうけど、世間からすれば都落ちよ。殿下本人の意思で無くても、下っ端の独断なり暴走の可能性もあるわ」


 それを聞いて、落ち込んでしまうマディス。自分としては、血を吸えればそれで良かったのだが、いざ戦場に向かうと、気持ちが昂ってつい全力で戦ってしまった。それがこんな結果をもたらすとは……やはり戦に参加するべきではなかったし、吸血剣も拾わなければ良かったのではないか、そう思い悩むマディスにエミリーが声を掛けた。


「アンタが苦悩する必要なんて無いわよ。あなたが活躍したおかげで、ラディアは戦いに勝てたのよ。それに両軍とも死者がすごく少なかったのよ、あの戦い。貴方を恐れて敵兵が逃げちゃったからね。本来なら英雄として賞賛されなきゃおかしいのよ。……まあ冒険者が傭兵として活躍するのは色々とマズイんだけどね。アーサー卿みたいにすぐ冒険者を引退していれば別だけど。ともかく、リムハイトが恨むならまだしも、国内の貴族が逆恨みするなんて筋違いも良いところよ。堂々としていれば良いのよ、マディス」


 そういってマディスを励ました。グレイもこれに同調した。


「エミリーのいう通りだ、マディス。貴族なんてのは勝手な連中だ。権力の為なら魔物を利用しようとする奴だって珍しくはない。その為に俺たちがいるんだ、胸を張れ。……お前も分かっているとは思うが、もう戦に参加するのはやめておけ。どのみちギルドが許可を出さんとは思うがな。お前はもう人間としては強すぎる。俺と同じでな」


 グレイはそう語った。冒険者個人が傭兵として参加するのは自由だが、幾分建前の要素が強い。仮に大魔道やティアンナといったトップクラスの人間が、戦争に参加してしまえば、勝敗は容易に決する。銀級以上の冒険者は戦争に不参加という暗黙の了解があった。


 また魔法使いに関しても、戦への参加が禁忌とされていた。魔法を使用しては被害が大きくなりすぎるからだ。ともかく、銅級でも銀級レベルの実力者というのは居なくもない。マディスがいい例だが、若すぎて実績の無いものや、素行不良で信用が置けない者たちがそうだ。マディスの実力は呪剣込みではあったが、各国の軍事に影響を与えるレベルに達していた。


 そうこうするうちに、ティアンナに大魔道からの念話が入った。


「――はい。承知しました。グレイ達を向かわせます。……今許可が下りたと連絡が入ったわ。令状は用意してあるからすぐ向かってちょうだい」


 そう言って、ティアンナは書類をグレイに渡した。冒険者ギルドや教会には王侯貴族への捜査権が認められている。主に魔物や悪魔崇拝者がらみの犯罪に限ってだが。勿論、乱発すれば政治に混乱をもたらすため王宮に調整は必要だ。


「よし、行くぞマディス。他の連中も頼むぞ」


 グレイはマディス一行を連れて、貴族街へ向かった。


 ●


 マディス一行は、グレイに連れられ貴族街へやってきた。以前訪れた大図書館の近くで、マディスにとっては見覚えのある通りだった。やがて二階建てのお屋敷の前に着いた。


「あの屋敷だ。ついてこい」


 グレイはそう言うと、貴族の屋敷の正門前で警備をしていた私兵達に書類を見せた。


「銀級冒険者、『金狼』のグレイだ。見ての通り令状だ。通してもらうぞ」

「お、お待ちくだされ!」


 門を通り過ぎようとしたグレイの肩を警備兵がつかんだ。その瞬間、グレイは裏拳を放ち、警備兵を一撃で沈めてしまった。


「手向かえば妨害と見做す。黙って見ていろ。おい、お前達もさっさと来い」


 グレイは呆然とする他の警備兵を尻目に玄関へと向かった。マディス達もグレイについて行く。


 グレイが玄関の扉を開けようとすると、鍵が掛かっていた。扉にはノッカーが付いているが、そんなものは無視してグレイはシールドバッシュで扉を吹っ飛ばしてしまった。マディス一行はその手際の良さと強引さにグレイの恐ろしさを垣間見た。


「冒険者ギルドだ! この屋敷を捜査する! 手向かうものは切り捨てるぞ! 全員その場を動くな! ……さて、マディスとエミリーは俺についてこい、二階に向かうぞ。他の連中は一階を制圧してくれ、使用人は一か所に集めて置いてくれ。女中や家政婦でも武器を仕込んでいることもあるからな、決して油断するな」


 そう言うと、グレイは二人を連れて二階に向かった。グレイは真っ直ぐに貴族当主の部屋へ向かった。マディスは何故部屋の位置が分かるのか疑問だったが、グレイによれば、貴族の屋敷等、どこも大して変わらんとの弁だった。部屋に踏み込むと、当主はおらず、執事だけがいた。グレイは剣を突きつけ執事を尋問した。


「お前の主人はどこだ? 正直に言え。冒険者を舐めると死ぬぞ?」

「は、はい。さきほど、急用との事で、馬車でお出かけになりました。行先は存じておりません……信じてください! 本当です!」

「逃げられたか……まあいい。とにかく屋敷を制圧するぞ」


 グレイの武威に、屋敷の者たちは恐れ戦き、抵抗はしてこなかった。使用人達は事情もわからず怯えるばかりであった。屋敷の人達を一か所に集めた頃、ギルドから増援部隊が到着したので、彼らの監視を任せた。


「さて、貴族の足取りは別の連中に任せて、俺らは家宅捜索だ」


 グレイはマディス一行を引き連れ、屋敷中を捜索する。グレイが強引に本棚を倒し、隠し部屋が無いか等、徹底的に捜索したが、一番怪しいと思われる当主の部屋は特に何も無かった。長年、悪魔崇拝者を追ってきたグレイはこういった作業に手慣れているようだった。


「俺の勘だがこの屋敷はクサイ。マディス襲撃犯につながる何かがあるはずだ。徹底的に探すぞ」


 そう言って、二階から虱潰しに部屋を当たっていった。しかし特に不審な物は見つからず、とうとう残すは地下室のみとなった。

「ここで最後か……必ずこの地下室に何かがある。見逃すなよ」


 地下室を探索すると一室がワインセラーのようだった。酒瓶の棚と、大きなワイン樽が置かれていた。酒好きなエミリーがワインの瓶を取り、品定めをはじめた。


「あら、結構いいワインよこれ。ずいぶんと羽振りのいい貴族ね。こんなに上物を集めるなんて」


 マディスはエミリーの話を聞きながら、室内を何気なく見渡してみた。酒を飲まないマディスは、酒類に大金を掛ける酒飲みの気が知れなかった。その時ふと、部屋の隅に目が留まった。ただの壁のはずだが、何かを感じたのだ。そう、誰かが呪いの装備を持っている時に感じる気配とそっくりな物を。


 マディスは壁を調べてみた。エミリーがよくやる動作を真似して、壁をどんどん叩いてみる。しかし何の変哲もない壁のようだ。中が空洞になっている感じもしない。


「どうした、マディス。その壁がどうかしたのか?」

「どことなく、変な感じがしたんです。呪いの気配を感じるというか。でも普通の壁見たいです」

「……どいてろ」


 マディスをその場からどかすと、グレイは愛用の剣で壁を思いっきり叩いた。すると壁が崩れ部屋が現われた。


「でかしたぞマディス! ご丁寧に偽装の魔法まで掛けてやがった。さて、中を拝見といくか」


 グレイを先頭にして、一行は部屋へ足を踏み入れた。

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