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呪剣士マディス  作者: 大島ぼす
第三章
42/62

第42話 罠

 翌日、マディス一行は、中途半端になっていた地下三階の探索を再開した。フェリスはもう少し休んだ方が良いのではないかと、エミリーを心配したが、動いている方が気が休まるとエミリー自身が探索の再開を望んだ。


 一行は早々に地下三階に降り立ち探索を始めた。この階層になると、地図も階段付近は完全にマッピングされているが、中心部を外れた区画等は未記載の箇所が多い。地図に未記載なだけで、探索自体はされているのだろうが、もしかしたら未探索の箇所や未発見の貴重な宝箱があるかもしれない。


 そういう訳で、彼らは未探索の部分を中心に進み、エミリーが地図に詳細を書き込んでいった。こういった作業をエミリーは学者らしい几帳面さから好み、良い気分転換になっている様だった。


 宝箱の中身も大分豪華になってきた。銀貨が一杯に入った小袋や、高級な青いポーション、そしてマディスお待ちかねの呪いの一品だ。ある宝箱を開けると中にはいかにも怪しげな仮面が入っていた。マディスは仮面を手に取り、意識を集中して念じた。


「この仮面には、迷宮で死んだ臆病な冒険者の無念が込められているね」

「てことは、装備すると恐怖で発狂するとか、敵を見ると逃げ出してしまう、とかの効果かしら」

「いや、逆だよエミリー。この面からは生前に勇敢に戦えなかったという無念を感じる。恐らく装備すると、仮面の下が戦う顔(バトルフェイス)になり、魔物から逃げ出せなくなると思う」

「……何か貴方の説明変じゃない? 何よ戦う顔って?」

「そう言われても、そう感じたんだから仕方ないだろ」


 そう言って仮面を大事そうに背嚢はいのうにしまい、自分が感じた効果をメモし始めた。マディスはこの面を『怯懦きょうだの面』と名付けた。


「マディス。遊んでないで早くなさい」


 フェリスに怒られてしまったマディス。その心中では遊びでは無い、と抗議したが黙って探索に戻った。


 しばらく進むと、ガチャガチャと金属音が響いてきた。前衛が警戒し敵を待ち受けると、すぐに闇の中から、剣を持った動く全身鎧が姿を見せた。その姿だけなら騎士が歩いているようにも見えるが、中身は空で鎧だけが動いている、リビングアーマーと呼ばれる魔物だ。全部で三体おり、まずマディスが呪剣の両手持ちで一体に挑む。


「光よ!」


 後方からラタンが聖言を唱えると、テオの剣が光り輝き始めた。エンチャントの魔法である。神官の使うそれは神聖な魔力を帯び、地下迷宮の魔物には特に効果が高い。支援を受けたテオがもう一体を担当する。


 そして最後の一体はフェリスが受け持つ。彼女は杖にやはりエンチャントを行い、リビングアーマーに殴りかかった。この頃になると、フェリスはメイスでの戦いに限界を感じ、魔法を補助する両手杖を近接戦闘にも耐えうるものに変え、本格的に杖術を学んでいた。杖を両手でぶん回し、遠心力を利用した一撃を魔物に叩きこむ。エンチャントの影響もあり、効果は抜群だった。


 難なく三体とも倒せた。リビングアーマーは機敏さはそれほどでもないが、全身鎧だけあって、防御力はかなり高い。普通ならテオが使っている剣では大きなダメージは与えづらく、攻めあぐねてしまう。


 しかし、エンチャントされたテオの剣はいとも簡単にリビングアーマーを切り裂いた。なお、試してみたがマディスの呪剣にはエンチャントは出来なかった。呪いが魔力を弾いてしまう様だった。考えてみれば当たり前ではあるが、神聖な魔力を帯びた呪剣などが存在したら笑い話だ。


「はーやっぱり神官が二人いると楽だねえ。でも出番が無いと気が引けるわ」

「そうねえ。魔法使いにしろ神官にしろ貴重だから、他のパーティーからは羨ましがられているわよねぇ……それが襲撃の原因だったりするのかしら? 他の冒険者からの妬み?」


 後方を警戒していた二人が駄弁り始めた。エミリーの言う通り、この世界では魔法が使える人物は神官にしろ魔法使いにしろ貴重だ。魔法は才の無い者には決して扱うことができない。冒険者に限って言えば、神官は実践派がいるのでまだ人数がいるが、魔法使いはさらに貴重だ。


 才能のある魔法使いは大抵、魔法学院に入学し、卒業後もそこに留まり研究を続ける者が多い。大魔道もティアンナも学院の卒業生だ。ちなみに魔道士とは学院を卒業した者しか名乗れない。マギーは学院に行っていないので、自称と言えど魔道士と名乗ることは出来ず、魔法使いのままだ。


 マギーは自分では才能が無いと言っているが、エミリーからすると、親元を離れたくないだけだと感じていた。彼女も大魔道には遠く及ばないにしても、学院を優秀な成績で卒業するくらいの才はあるとエミリーは思っていたが、彼女がそれに言及したことは無い。


「流石にそんな理由で刺客を雇ったりはしないでしょう」


 テオが指摘するが、その程度のことはエミリーだって分かっている。冗談で気を紛らわしたいのだ。テオはこういったことには余り気の回るタイプではない。ミロであれば察して軽口の一つでも言ったであろうが。


 若干空気が悪くなったが、一行は探索を続けた。なおリビングアーマーの剣も、スケルトンの剣と同じ性質のものだ。うっかり拾うと呪われてしまう。丈夫な分、簡単には壊れないので解呪するしか無く厄介だ。もっとも地下三階まで来れる冒険者でそんなポカをやる者はいない。


 パーティーは、その後も魔物の襲撃に遭いながらも危なげ無く迷宮を進んだ。しばらくすると部屋を見つけた。階段付近からは大分遠ざかっており、地図には記載されていない箇所だ。まだ未探索の部屋の可能性があった。


「さて、お宝が出るか、魔物が出るか……」


 エミリーがドアを調べるが、特に仕掛けは無さそうだ。耳を澄ませても、中からは何も聞こえない。彼らは慎重にドアを開け中に入った。


 部屋の中は広々としており、正面奥には豪華な装飾が施された青い全身鎧が、石の台座に鎮座していた。その手には禍々しい雰囲気の長い剣を携えている。そして青い鎧への道を守護するように、左右に五体ずつ全身鎧が配置され、まるで王を守る近衛兵だ。全てリビングアーマーと思われたが、動き出す気配がない。青い鎧の前にはこれ見よがしに宝箱が置かれていた。


「「「…………」」」


 全員が沈黙した。明らかに罠だ。恐らく宝箱を取った瞬間に、一斉に鎧たちが襲い掛かってくるのだろう。


「エミリー、こういったタイプの部屋というのは前例があるのかい?」

「類似する事例は無くはないわね。この類の部屋は貴重な宝箱と同じで、一度罠が作動してしまうと、仕掛けが復活したりはしないでしょうね。まだ誰も手を付けてない可能性が高いわ」

「それじゃあ貴重な財宝が手に入るってことじゃん! やったね!」

「しかし、危険度が高すぎますな。リビングアーマーが十体だけでも相当な脅威です。まして上位種が帯同しているなど」

「この部屋が今まで手付かずだったのはそれが原因かもね。皆恐れて手を出さなかったか、若しくは攻略に失敗して全滅したか。マディス、どうする?」

「そもそも馬鹿正直に宝箱から開ける必要があるのかな? 先に鎧に攻撃を仕掛けて、敵を一掃してから宝箱を取ればいい」

「お、それいいな。マディス、お前って結構頭良いな」


 マディスの案にテオが乗っかる。他のメンバーも悪い考えではないと思ったが、テオの様に能天気に考えることは出来ず、そんなにうまくいくだろうか? と漠然とした不安を抱えた。しかし、宝箱を開けて敵に包囲されるよりかはマシだろうし、諦めてしまうのも勿体ない。不安はあったがマディスの案を採用することにした。


 作戦としては、部屋の隅に集まりそこから攻撃する。敵の数が多いので、包囲されるのは避けたいからだ。まずマギーが覚えたての爆発魔法で、鎧どもを吹っ飛ばす。その混乱に乗じて前衛組が鎧達を可能な限り叩き、後は総力戦だ。頭目であろう青い鎧はマディスが担当する。


 フェリスとラタンがエンチャントと防御魔法を全員に掛けた。エンチャントはマディス抜きだが。皆戦闘準備が完了し、攻撃を開始した。


「みんないくよ! 爆破ダムゥ!」


 マギーが呪文を唱えると、魔物の中心で爆発が起き、鎧達が吹っ飛んだ。致命傷は与えられていないが、敵は隊形を乱し、混乱させることには成功した。しかし青い鎧だけは爆発にビクともしなかった。そしてゆっくりと立ち上がると、持っていた剣で宝箱を真っ二つにし、さらに足でガンガンと踏みつけ始めた。……鎧は無機物なので感情など無いはずだが、不思議と怒っているように感じた。


「「ああああああ宝箱が!」」

「やっぱりそんなに甘くないか……とにかく手筈通りにいくわよ!」


 男子二人がショックで絶叫している中、エミリーが号令を掛け戦いは始まった。まず怒りに震えるマディスが鎧集団に突っ込んだ。


「魔物め! 許さん!」


 マディスは普段とは違う意味で魔物への殺意を増幅させた。立ち上がろうとした雑魚の鎧達をすれ違いざまに切り伏せ、自身は青い鎧に攻撃を仕掛け、他の鎧と距離を離すように誘導する。残りの雑魚達は、テオとフェリスそしてラタンが肉弾戦で対応し、マギーとエミリーは後方から援護した。


 上手く鎧集団から青い鎧を引き離したマディスは一人、敵と対峙していた。相手の持つ剣だが、おそらく吸血剣と同じ類の武器であろうと直感していた。恐ろしい威力を秘めている様に感じたのだ。


 マディスは呪剣の両手持ちでまずは軽くけん制した。青い鎧は的確に攻撃を防ぐと反撃に出た。鎧だけあって行動は機敏とは言えないが、剣速は早かった。マディスは後方に下がり回避した……つもりであったが、なんと装備しているブレストプレートが真っ二つになってしまった。幸いミスリルチェインは無事だが、とんでもない切れ味だ。


(あの剣はまずい! 紙一重で避けても剣圧だけでやられる!)


 マディスは剣の脅威を正確に理解し、警戒した。それほど動きが機敏でないのが救いだ。マディスは決して正面には立たず、側面に回り込みながら翻弄するように動いた。呪剣で受けるのも危険と感じ、とにかく攻撃を続ける。何発か当てることができたが、鎧がへこんだだけで致命傷にはほど遠い。


 青い鎧が斬撃の素振りを見せると、やや大げさに距離を取り回避に専念した。相手越しにパーティーの状況を伺うが、徐々に押し込まれつつあり、苦戦しているようだ。マディスは一気に決着を付けるべく賭けに出た。相手の間合いに正面から入り、攻撃を誘った。


 青い鎧はこれ幸いと、大上段に構えて、勢いよく剣を振るってきた。その直前にマディスは身を屈めて相手に飛び込み、斬撃を回避しつつ、体当たりで鎧を突き飛ばした。マディスはすぐさま立ち上がると、倒れこんだ鎧の兜に呪剣を全力で振り下ろし、叩き割った。


 兜は鎧から外れ転がっていき、魔物は活動を停止した。マディスは念のために剣を蹴とばし、部屋の隅に追いやると、戦闘中のリビングアーマー達の背後へと襲い掛かり、敵を殲滅した。勝敗は無事決した。

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