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呪剣士マディス  作者: 大島ぼす
第二章
26/62

第26話 盗賊

「盗賊の討伐ですか?」


 いったいどんな無茶をやらされるか心配していたが、意外にまともな物で安心するマディス。


「そうさ。ここ最近、街道筋に盗賊が多くてね。うちの斥候が既に何か所かねぐらを突き止めているから、そのうちの一つをあんた一人で制圧してもらいたい」


 マディスは王都に入る際に聞いたことを思い出した。あの時は捕らえられた盗賊達をみて複雑な思いに駆られたが、自分が捕まえることになるとは。


「わかりました、やります。具体的にはどうすればいいですか? 今まで魔物狩りしかやったことがなくて」

「うむ、素直でいいね。場所については、斥候から聞きな。受付で言えば対応してくれるよう手配してある。で、ここからが重要だが、任務は討伐だが可能ならなるべく生かして一人でも多く連れて帰ってくるんだよ、あたしのところにね。手に余るなら殺して構わないけど、盗賊どもには可能な限り法の裁きを受けさせたいからね。……あんた、人を殺したことはあるかい?」


 大魔道の問いに、マディスは首を振る。


「いえ、ありません。でも別に抵抗感はありません。たぶん大丈夫だと思います」

「そりゃ結構。たまに魔物は殺せても、人は殺せないって子はいるからね。とにかく、これがあんたの王都での初任務さ。ロドックでの噂は王都まで届いている、皆あんたに注目してるからね。新人の銅級が一人で盗賊の鎮圧をするのはそれなりに骨だ。挨拶代わりにあんたの実力を見せてやんな」

「挨拶……ですか」

「そうだよ。さて、話が長くなったね。今から出れば、丁度夜中にはねぐらにつく。奇襲にはもってこいだ。王都について早々大変な任務だがよろしく頼むよ」


 そういって、大魔道は話を終えた。マディスは二人に一礼をして部屋を出た。


「ティアンナ、どう見た? あのぼうや」

「……腕はともかく、典型的な世間知らずの少年ですね。少し言動が幼なすぎる気もしますが、呪剣は抜きにしてもあの若さにしては良い腕はしているかと」

「そうさね。さっきの斬撃を見る限りじゃ、盗賊程度は朝飯前のはずさ。さて、いいつけを守って殺さずを守れるか、それとも殺戮に走るか見ものだね」


 二人はマディスの見立てを語り合った。大魔道の思惑は、マディスが不要な殺生を避ける人間性を、保持しているかどうか見ることであった。呪い云々以前に、必要以上に殺戮を好む人間は、危険人物としてマークする必要がある。


 ティアンナはマディスが去った後のドアをじっと見ていたが、なぜか悪寒を感じた。


「……変ね。嫌な予感がするわ」


 ●


 本部長室を出たマディスは、一階の受付に戻り、盗賊討伐の依頼について聞いた。すぐに盗賊のアジトの調査を行っていた斥候が呼ばれ、彼はマディスに地図を見せるとアジトの場所を伝えた。


「これがここら辺の地図だ。――で、この印が書いてある箇所に盗賊共のねぐらがある。既に複数発見しているが、潰すのは一つでいいそうだ。どれにするかはあんたが決めな。まああんたならたぶん苦戦はしないさ。盗賊共の大半は落ちぶれた貧民の類だからな。だが、たまに手練れの傭兵崩れのような奴がいる。油断するなよ」


 マディスが地図を覗き込むと、森や山の斜面といった箇所に印がついており、これが全てアジトだという。マディスはとりあえず、王都から一番近い、南の林を標的にした。斥候の彼が言うには、盗賊どもは定期的にアジトを移動していることもあるので、もし彼奴らが居なければ、別のアジトを当たってくれとの事だ。地図を受け取ったマディスは早速向かうことにした。


 ●


 王都を出て、南の街道を歩いて進むマディス。ひたすら平原が続くがやがて、平原の脇に林がぽつぽつと点在し始める様になってきた。この林の一つに盗賊のアジトがある。


 マディスは林に入り、アジトの近くまで来ると、用心して近づき様子を伺った。すると、林の中の空き地と思しき空間に、野営地らしきものを発見した。既に日は暮れつつあるが、奇襲するなら夜中が良いと言われていたマディスは、静かにその場を離れ、盗賊共から見つからない位置で野営して夜を待つことにした。


 背嚢(はいのう)を下ろし、中から野営に必要な道具を出す。この道具一式はかつてガルドに言われるがまま購入したものだ。ロドックにいた頃は、夜には街に帰ってしまうので、野営などしたことが無かった。


 マディスは不慣れな手つきで火を起こし、盗賊に気づかれないよう慎重に偽装を施し、持参した干し肉などの携行食で軽く夕食を済ますと、外套(がいとう)を被り体を休めた。


 ●


 マディスはいつの間にか眠ってしまっていた。目が覚めると辺りはすっかり闇に包まれていた。マディスは慌てて火の始末をし、アジトへ向けて歩き出した。


 歩くたびに鎧がカチャカチャと音をたてた。マディスは先ほどまでは気に留めていなかったが、いざ奇襲をかけようという状況ではひどく気になった。しかし今更脱ぐのも一苦労だと考え、このまま強行してしまうことにした。


 木々の間からアジトの様子を伺う。みずぼらしい武装をした男たちが数名動き回っている。野営地は広い空間に、焚火(たきび)をしている場所が三か所あり、火を中心にして、周囲を簡素な木柵で囲み、寝床と思われる小さなあばら屋がある。


 静かに聞き耳を立てていると、旅人を待ち伏せる場所などについての会話が断片的に聞こえてきた。どうやら盗賊で間違いないようだ。

 マディスは盗賊の数を数えた。まず、立哨りっしょうと思しき男二人が手前側と一番奥にいた。そして他の連中は火の周りで思い思いに寛いでいるようだ。立哨含め、合計で七人確認できた。


 マディスはまず、手前側の見張りのそばに石を投げ注意をそらすと、鞘を付けたままのショートソードで殴りつけ、昏倒させた。盗賊はこん棒をもっていたので、使わせてもらうことにした。呪剣では殺しかねない。右手にこん棒、左手にショートソードという珍妙なスタイルとなった。


 そのまま、寝床を周り、順に盗賊を叩くことにした。初めの寝床では盗賊は二人とも船を漕いでいたため、呆気なく倒せた。これで残り四人。そして次の箇所に向かうが、途中で気づかれてしまった。


「……お、おい! なんだあいつ! 敵襲だ! みんな起きろ!」


 マディスは一気に距離を詰め、気づいた一人をこん棒で殴り飛ばすと、すぐ近くにいた相棒らしき男を左手のショートソードで殴った。これで残りは二人だ。


 そうこうしているうちに、歩哨の一人と残った一人が襲い掛かってきた。二人ともダガーとハンマーという間に合わせの貧弱な武器しか持っておらず、マディスの敵ではなかった。同じように二人を殴り倒して、これで終わりだ。


「ほう。若いが腕利きだな……だが俺は簡単にはいかんぞ……」


 気づけば、槍を持った大男が広場の中心にいた。どうやらあばら家で寝ていたようだ。大男はこれまでの貧弱な装備の盗賊とは違い、その手に持つ槍は鉄製の立派なものだ。


(……この男に手加減はできない)


 マディスは相手の強さを推し量り、本気で戦う必要性を感じた。こん棒を捨て、呪剣を両手で構える。そしてゆっくりと間合いを詰めた。


 キィエェィ! っと男が気合を発しながら突きを放ってきた。マディスはその鋭さに思わず後退した。続けざまに放たれた突きをひたすら後退して躱す。


「どうした小僧! 逃げてばかりでは俺は倒せんぞ! さっさとこい!」


 マディスは初めて相対する槍使いに、間合いを測りかねていた。魔物は大抵素手だし、持っているとしても大抵が剣だ。冒険者が槍を使うことは少ない。迷宮では森や地下などの狭い空間で戦うことが多く、槍のような長物は使いづらいからだ。故に、魔物も冒険者から奪った剣を使っていることが多いのだ。


 マディスは槍の独特な間合いと突きの軌道に苦戦したが、腹を括り一気に決着を付けるべく、相手の必殺の間合いに踏み込んだ。


「もらった!!」


 大男が、渾身の突きをマディスの喉笛目掛けて放った。だがこれを予期していたマディスは紙一重で躱すと、間合いを詰め、槍を根本付近から切り落とした。


 マディスは鎧を着こんでいる、狙うなら首から上しかない。仮に首から下を狙われても鎧が防いでくれる、致命傷にはならない。恐怖を感じないマディスは冷静に計算して相手の攻撃を予期したのである。


 槍を切ったマディスは呪剣を手放し、そのまま大男に肉薄した。


(アゴを殴りなさい。マディス)


 かつてフェリスに教わった通り、下から拳を突き上げて、大男のあごを思いっきり殴った。


(油断してはダメよ。相手の意識が無くなるまで殴り続けなさい)


 大男はもんどり打って倒れたが、脳が揺れ、即座には動けない。その大男にマディスが馬乗りになり、やはりフェリスに教わった通りに、ひたすら顔面を殴り続ける。


 男は暫く耐えていたが、やがて「やめろ! もうお前の勝ちでいいから! やめてくれ……」と懇願しはじめた。しかし、マディスは殴るのをやめない。男が意識を失う直前に見たマディスの顔は、口元がゆがんでいるように見えた。


「ぶひひひん!」


 突然の馬のいななきにマディスは驚き、殴るのをやめた。気づけば男は意識を失っているようだった。やりすぎてしまった、とマディスは顔を青くしたが、幸い息はあるようだ。先ほどは気づかなったが、野営地の隅っこに馬が二頭つながれていた。どうやら駄馬のようだが、体の大きい立派な荷役馬だ。奴等の戦利品だろうか。


 ともかく、マディスは倒した盗賊どもを一人残らず広場に集め、持ってきていたロープで腕を縛った。この時、マディスは重大なことに気づいた。


「……どうやって連れて帰ればいいんだ?」


 マディスは考えた。――八人もいる盗賊をどうやって連れて帰るのか? 今は腕を縛っているが、盗賊たちが目を覚まして、全員一斉に走り出したら、何人かは取り逃がしてしまうだろう。そういえば、王都城門で見た罪人たちは、足も縛られていたし、上半身をなにやら特殊な結びで縛られていたような気がする――


 マディスは思い悩む。――自分はそんな特殊な結び方を知らないし、ロープの残りも少ない。どうすればいいのか? いっそ全員殺してしまうか。だが殺したとしても、その場合はどうすればいいのか? ゴブリンのように鼻を削げばいいのか? それとも遺体が全て必要なのか? 考えてみれば何も知らない――


 マディスは何も考えずに、ここまで来てしまったことを悔やみ、辺りをうろついた。その時、カランと音がした。マディスが足元を見ると、長い鎖が地面に張ってあった。どうやら鳴子なるこのようだった。端には鉄杭が打たれ、鎖を通しているようだ。よく見ると何か所かに設置されている。襲撃の際には気づかなかったが、偶然引っかからなかっただけだ。


「…………」


 マディスは何か感じるものがあり、鎖をじっと見つめていた。


「……これだ!」


 またしてもマディスは閃いてしまったのだ。


 ……おぞましいことを……

お読み頂き、ありがとうございました。面白い、と感じていただけましたら、評価、感想、ブックマークなど頂けますと、作者の励みになります。

明日以降も毎日投稿します。活動報告を更新しましたのでご覧下さい。


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