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呪剣士マディス  作者: 大島ぼす
第二章
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第25話 本部長

 昼食を腹いっぱい食べたマディスは、受付に戻り案内を待った。しばらくすると、またティアンナが現れ、本部長室へ案内してくれた。部屋のある三階までの道すがら、本部長について教えてくれた。


「あなたは知らないかもしれないけど、当ギルドの本部長は金級冒険者よ。あなた金級についてどれぐらい知っているの?」

「す、すいません。あまりわかってなくて、ロドックの支部長は金級は王様みたいな人だと」

「……まあ、間違ってはいないわね。各国の本部長、全員が金級というわけではないから、ある意味へたな国の王よりかは地位は上かもね」

「そうなんですね。僕、何も知らなくてすみません」

「まあいいわ。私たち銀級冒険者には二つ名が与えられるけど、金級には尊称が与えられるわ。敬意を込めて尊称で呼ぶのが礼儀だから覚えておきなさい。……まあ私達は本部長って呼べばいいんだけどね、さ、着いたわ。ここよ」


 ティアンナは大きなドアの前で立ち止まり、ノックをするとマディスを連れて入室した。部屋の中は一面、高級な赤じゅうたんが敷き詰められていた。部屋の右手には衝立ついたてと豪華なソファー、そして大理石のテーブルが置かれ、応接スペースの様だった。左側には壁一面に本棚が置かれ、レオンのものと同じくらいの執務机が置かれている。これはティアンナの席のようだ。傍らには槍が立てかけられている。


 そして正面には大きな執務机があり、革張りの椅子が後ろを向いていた。本部長が座っているのだろうが、正面からは見えない。ティアンナはマディスを中央まで案内すると、自身は執務机の右手に控えた。


 すると、革張りの椅子がふわっと少し浮くと、くるっと回転し、正面を向いた。


「よくきたね。あたしが本部長ギルドマスター、金級冒険者、大魔道アークメイジことエリザベスだよ」


 椅子に座っていたのは、老婆だった。マディスは椅子が浮いたのもそうだが、本部長がおばあさんであることに驚いた。どんな豪傑、英傑かと想像を膨らませていたが、年老いた魔法使いの可能性には至らなかった。


 マディスは、自分の故郷の村にいた老婆と、見た目は大して変わらない気がする、と思った。だが、一見優し気なように見える目の奥から、底知れぬなにかを感じ取り、背中に冷や汗をかいていた。彼女は金色の豪奢なローブを身にまとい、首には宝石がたくさん付いた護符を付けていた。椅子は魔法の力なのか、ふわふわと上下に動きながら浮いていた。


「その様子だと、あたしのことは何も知らなかったみたいだね、レオンの手紙に書いてあったけど、あんたずいぶんと世間知らずだね。魔法のことも何も知らないんだろ?」

「は、はい。お恥ずかしい限りで」

『じゃあこれはどうだい? 呪いの声ってのはこんな風に聞こえるのかい?』

「わ!」っとマディスが驚き、声を上げる。突然大魔道の声が脳内に響いたからだ。

「今のは『念話』の魔法さ。相手の心に声を届けるのさ。どうだい、呪いの声はあんな感じかい?」

「……は、はい。そうですね。こんな感じでした、今は聞こえませんが」


 次々と繰り出される、魔法の秘儀にマディスは当惑しっぱなしであった。大魔道はマディスの反応にご満悦のようだった。その顔には、老人らしからぬ悪戯好きの子供のような表情が浮かんでいた。


「結構、さてそろそろ例の呪剣のお披露目といくかい。あんた構わないからその剣抜いてみな」


 ティアンナは、とがめるような視線を大魔道に送ったが、視線を受けた本人はどこ吹く風である。マディスは躊躇とまどいながらも素直に剣を抜き、目の前にかざした。


「ほほー。これがねえ。見た目はただのゴミだけど、確かに何かを感じるねえ」


 その瞬間、先ほどまで机の向こうにいたはずの、大魔道がマディスのすぐ目の前に現れ、呪剣を吟味し始めた。『瞬間移動』の魔法であったが、マディスは知る由もなかった。


「うわ!!」


 心の底から、仰天したマディスが、うっかり反射的に斬撃を放ってしまった。それが呪剣の呪いの影響なのか、マディス本人の防衛本能なのかはわからないが。マディスの呪剣は、大魔道を捉える直前に、一瞬で距離を詰めたティアンナの刺突によって弾かれ、マディスの手を離れて、部屋の隅に飛んでいった。


 バシ!と甲高い音が部屋に響いた。ティアンナがマディスに平手打ちをしたのだ。ティアンナは剣を優雅な手つきで鞘に収めると、その美しい顔を歪めて激怒した。


「なんてバカなことをしたの!? 死にたいのあなた!?」

「す、すいません! すいません! ビックリしてつい!」


 物凄い剣幕のティアンナに、マディスは頬の痛みも忘れて平謝りした。


「いや、今のはあたしが悪かったよ。すまなかったね。悪ふざけが過ぎた。……だけどあんた、ティアンナに感謝するんだよ。あたしを切っていたら、死んでたのはあたしじゃなくあんたの方さ。さて話を続けようかね」


 大魔道はそう言うと、今度は歩いて椅子に戻った。彼女が人差し指を立てると、その先がにわかに光り、それに呼応するかのように、呪剣が浮かびだし、ふよふよ漂いながら執務机に落ちた。続けて、指をパチンと弾くと、呪剣が鈍く光りだした。その光はやがてはねのついた小さな人の形をとり、大魔道の耳元でなにかを囁くと、泡のように消え去ってしまった。


「うむ、鑑定の魔法で調べてみたが、やはり呪われている事以外はわからないねぇ。どの道、この魔法でわかることはたかが知れてるけどね」


 今使ったのは、『鑑定』の魔法との事だ。この魔法は、装備や道具に魔法や呪いが込められていれば、それを教えてくれるらしい。もっとも判定できる内容はひどく限定的で、火の魔法が込められているだとか、装備すると筋力が上がるだとか、呪いがかかっているなど、その程度しかわからない。無論、剣の材質であるとか、切れ味がどうだとか、いくらで売れるなど、そんなことはわかりようがない。


「一旦剣の方は置いておくとして、次はあんたの番だね。……呪いの武器を自由に使えるそうだが、その状態でそっちの普通の剣を抜いてみな」


 マディスは、ショートソードを抜き、右手に持った。なおこの剣は買い替えた新品のものだ。以前使っていたものはトロール戦で折れてしまった。


 大魔道は、それを見て、腕組みをして考え始めた。


「信じられんね。呪われている状態なら、一時的に武器を手放していても、利き手に別の武器は持てないはずだ。あたしも無駄に長生きしてるけど、この現象は見たことないね」


 その後、以前となにか違う点がないか説明させられた。まず、既に披露した、呪いの武器の着脱の可否と、呪いの声が聞こえなくなった点の二つだった。逆に変わっていないのは、呪剣を抜いた状態での敵と対峙した時の精神状態があった。先ほども、突然現れた大魔道に驚きはしたが恐怖は感じなかった。呪剣を離した状態では、ティアンナが凄く怖かったので、マディス本人の恐怖が欠落しているわけではないようだ。大魔道は、呪剣を抜いたマディスにティアンナをけし掛けたら恐怖を感じるかどうか実験したがったが、二人とも拒否した。


「ま、今はこんなところか。……いいかい。わかっていると思うが、その能力のことは他言無用だよ。けっして私らが許可した人間以外に話すな。さて話が長くなったね。最後にあんたにやってもらいたいことがある」


 それを聞いたマディスは、何をさせられるのかと、身震いした。

お読み頂き、ありがとうございました。面白い、と感じていただけましたら、評価、感想、ブックマークなど頂けますと、作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします。

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