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呪剣士マディス  作者: 大島ぼす
第二章
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第23話 神話

 世界の最初、そこには混沌のみがあった。天地も海もなく、ただ暗黒が広がるのみだった。やがて、光が生まれた。光は長い時間をかけ成長し、やがて神となった。


神は暗黒を一つにまとめ、巨大な卵の形とした。そして暗黒のうち、軽く清らかな部分を使い、天空を作り、重く、濁った部分を持って大地とした。次に太陽を作り、暗黒を照らし、暗黒の友として月を作り上げた。その後、山を森を川を海を次々と生み出し、動植物を創り万物を創成した。


 最後に、神は自らを真似て、人を生み出した。原初の人々は動物となんら変わりなかったが、やがて知性を持ったものが生まれ、人は文明を築き繁栄した。しかし、人々は罪をも生み出したのだ。やがて、人間同士で争いをはじめ、殺し合い、世界を殺戮と混乱が支配した。


 神は大いに嘆いた。何故、人々は罪を犯すのかと。悩んだ神は、人々の失敗は、そもそも自らのうちにある邪悪が原因であると悟った。始原たる自身のうちに罪が存在するからこそ、人もまた罪を犯すのだと。


 神はその大いなる力を持って、自らの内にある邪悪を取り除き、天空より投げ捨て、地の底に封じ込めた。神は再び、自身を元に人を作り上げた。これが神人である。神は神人を大地に遣わし、争いに苦しむ人々を導かせた。


 こうして神人達に導かれ、人々は再び、争いのない時代を手にした。人の世はいよいよ繁栄し、高度な文明の下、人々は幸福を享受した。だが平和は長くは続かなかった。


 ある時、大地震が世界を襲った。そして、南の果ての大地にぽっかりと巨大な大穴が生まれた。大穴からは瘴気が吹き出し、世界を穢した。そして瘴気と共に、邪悪な魔物達が穴から現れたのだ。魔物は言葉を解さず、ひたすらに人々を殺戮し、その肉を食らった。瞬く間に魔物どもは世界を埋め尽くした。


 神は人々を率いて魔物と戦った。長い闘いの末に、魔物どもを駆逐し、大穴を封じたが、世界はすっかり荒れ果ててしまった。神は自らの行いによって、魔物を生み出し、世界を荒廃させてしまったことに大いに苦しみ、遂には天にお隠れになられた。


ただ一人生き残った神人が、世界で最も天空に近い、北の山に居を構え、生き残った人々を導いた。これが今日の教会の始まりであり、神人の末裔が教皇猊下である。


 今でも我々教会は、北のセテル山の大聖堂から常に、南の大穴を監視している。大穴は瘴気こそ封じられたが、今でも大地にぽっかりと穴を開けたままである。そして結界から漏れ出る瘴気が周囲を汚染し、人の寄せつけぬ地となったのである。


 大穴の底に何があるのか、瘴気を生み魔物を生み出すものは何なのか。神は黙して語らなかった。おそらく、それは神自らが捨て去った、罪が、邪悪が、神に対なす存在として生まれ変わったものなのだろう。我々はそれを悪魔と呼ぶことにした。


 悪魔は今だ地の底に潜み、嗤っているのだ。そして瘴気を生み、迷宮を生み出し、魔物を産み続ける。迷宮と化した森からは薬草が、洞窟からは希少鉱物が、地下迷宮からは財宝が生み出されるのは悪魔の仕業である。魔物どもが人々を駆逐せぬよう、あえて人々に手を貸し、未来永劫戦い続けるよう仕向けているのだ。苦しみながら、魔物と戦う人々を見て、悪魔は地の底で、嗤っているのだ。




「………………」

「兄ちゃん。ずいぶんと熱心に読んでるね。それ教会の経典だろ? 信心深いね。あんた」

「いえ、そういうわけでは。あの……大穴というのは本当にあるんでしょうか」

「あるには違いないらしいが、実際見た奴は聞いたことがねえな。かの大穴へは、人外魔境となっている南の地を通らないと行けねえ。たまに馬鹿な冒険者が腕試しに行くらしいが踏破したやつはいないらしい」


 マディスがロドックを発ってから、数日が経過していた。マディスはいつも夜に、フェリスがくれた経典を読んでいる。熱心に読書をするマディスを見て、思わず同行している隊商の荷役夫が声を掛けたのだ。


 世界の成り立ちなど知らなかったマディスは、フェリスの教育でようやく一般教養といえる物を身に着けつつあった。マディスが読んだ神話等は、普通の人間なら、教会の神父の読み聞かせで知るのだが、家が寄進もしていなかったマディスは、教会に入れてすらもらえなかった。そのため子供達のコミュニティにも入れず、ずっと孤独に生きてきた。


「経典には人は死んだら天国か地獄に行くって書いてあるが、それも本当だか。子供のころは地獄に堕ちると、鬼どもに永遠に苦しめられるって脅されたもんだけどな。ところで、兄ちゃんは銅級冒険者なんだろ。あんたぐらい若い銅級の人は見たことがないねえ。いつか腕試しであんたも南へ行くのかい?」

「いえ。僕は特にそういうことに興味はないです」


 へえ、そうかい、と男が応え、そこで会話は終わった。


 マディスは、大穴の底に何があるのか、悪魔は本当にいるのか、そういったことに興味を抱かなかった。彼の目的はあくまで自分の力を伸ばすことにある。


 そしてこの呪剣が何なのか。この呪いを制御できる力はなんなのか。それを知るためにも王都に行くのだ。マディスがそう考えているうちに、夜は更けていった。王都に着くのはもう間もなくだ。

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