第2話 冒険者ギルド
「マディスさんですね…ではこちらをどうぞ」
女性は名前を聞くと、手元の木札になにやら文字を書き込み、マディスに手渡した。
「こちらがマディスさんの冒険者証となります。こちらがないと、街には入れなくなりますので、無くさないでください……まあ税を払えば非居住者として、入場することはできますが」
渡された冒険者証をまじまじと見る。札は横書きで中央には名前が書かれ、下部には『冒険者ギルド ロドック支部』の名称が焼印されていたが、文字の読めないマディスにはいずれも判別できなかった。
「冒険者登録されたばかりの方は木札から始まります。どの依頼でも構いませんので、三十件依頼をこなすと札を鉄製に交換します。一般に冒険者としてみなされるのは、この鉄札をお持ちの方からとなります。木札は見習いの証ですね」
食い詰めた人間の多くは冒険者を志すが、大半はひと月も持たず、挫折するか或いは死んでいく。それ故にまずは、三十件依頼をこなせるかどうかで、振るいにかけているのだ。鉄札を持つ冒険者は鉄級と称され、以後功績に応じて銅級、銀級へと昇級していき、その社会的地位を向上させる。金級ともなれば生ける伝説扱いだ。
「依頼についてですが、掲示板に提示されている依頼は、毎朝更新されます。制度上は木札の方も応募可能ですが、原則鉄級以上の方が優先されますので、まずは常時受け付けております、魔物の討伐と薬草の採取からこなすのを推奨しております」
「魔物の討伐……」
「はい。大森林の入口近くの浅層には、主にゴブリンが生息していますので、そちらの討伐をお勧めしますが……マディスさんの場合は薬草採取に専念した方がよろしいかと」
マディスの格好を見て、暗に戦うのは避けろ、と職員は助言した。
ゴブリンと聞いて、マディスは過去の記憶を思い起こす。子供の頃に村の近くに、二十匹程のゴブリンの群れが出現したことがあった。村の大人たちが、徒党を組み農具を武器に駆除に向かったが、皆方々の体で逃げ出してきた。幸い死者は出なかったが、素人での討伐は無理だとわかり、冒険者を雇うことになったらしい。
程なくして、革の鎧や長剣を装備した、冒険者の一団が村を訪れ、あっけなく討伐は終わった。ゴブリンは魔物でも最下級の存在だが、この時見た冒険者たちの姿は、マディスの脳裏に焼き付いている。
「もしゴブリンを討伐した場合、証明として鼻をそいでお持ちください。一体につき銅貨一枚となります。薬草採取に関しては、木札の方で採取可能な範囲に自生している薬草は、一株につき銅貨一枚で引き取ります」
それから、職員は薬草の見た目など詳細を説明してくれた。
「採取に必要な道具などは、どこで手に入りますでしょうか」
「向かいの建物が、ギルドの直営店となっておりますので、そちらのご利用を推奨しております。冒険者に必要な装備一式はそちらで調達可能です」
一通り説明を受け、マディスはギルドを後にした。まずは門に戻り、鑑札を返却しなければいけない。
「冒険者登録を終えてきました」
そういって鑑札と冒険者証を検問所の衛兵に差し出す。
「うむ。結構。くれぐれも命だけは大事にしろよ。ほかに行く当てもないのはわかるが、冒険者だけが仕事ではないぞ」
意外にも衛兵はマディスに優しかった。明らかに食い詰め者のマディスだが、その頼りなさげな姿から哀れに思ったのかもしれない。
マディスは黙って頭を下げるとその場を後にした。