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呪剣士マディス  作者: 大島ぼす
第一章
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第16話 読み書き

 店を出たマディスは、言われた通りに商業ギルドへ向かってみた。商業ギルドは冒険者ギルドとは違い、街の中心部にある。木造だったが、しっかりとした作りの静かな雰囲気の建物であった。中に入ると多くの商人たちで賑わっていた。ひとまずカウンターに行き、中年男性の職員に話しかける。


「本日はどういったご用件で」

「あの、こちらで読み書きが習えると伺ったのですが」

「はい。我々が直接行っているわけではありませんが、講師の方の仲介を行っております。仲介をご希望ですか?」

「ええと、どのくらいお金がかかるんでしょうか?」

「そうですね。まず仲介料および頭金として、銀貨一枚が必要ですね。その後これは講師の方にもよりますが、大体一日あたり銅貨十枚から二十枚というのが相場ですね」


 マディスはその高額さに驚いた。銀貨など今まで触ったことすらない。


「今は持ち合わせが無いので、またお金が貯まったら来ます」

「そうですか。それでしたら、教会に行ってみては? 我々が仲介する講師は商人向けですので、やや内容が高度になりますので、その分費用が嵩みます。ですが冒険者の方であれば、簡単な読み書きでも十分でしょうから、教会に寄進すれば経典を教本にして神父さんが教えてくれますよ。ただ、あくまで神父さん個人の善意で行っていることですから、どこの教会でもやってくれるとは限りませんが」


 職員は人が好いのか、ずいぶんと親切に教えてくれた。マディスは礼を言ってギルドを後にした。


 文字を習うのにあんなにお金が掛かるなんて、と肩を落としながら街を歩き、目についたベンチに腰を下ろして俯く。講師代を稼ぐには魔物を狩ってお金を貯めるしかないが、マディスは呪剣で戦うことに忌避感を覚え始めていた。


 レオンからは励まされたが、やはりフェリスの言葉が堪えていた。教会で読み書きを習うのにも問題があった。先ほど教会とは距離を置け、とレオンに言われたばかりである。そうでなくても過去のこともあり、教会関係者の印象は悪く、行く気にはならなかった。


(へたに聖職者に目をつけられれば、火あぶりになるかもしれない)


 そんな風に悲観的な想像をしていると、彼に声を掛ける者がいた。


「……マディスさん」


 顔を上げるとそこには、沈痛な面持ちをしたフェリスが立っていた。今、最も会いたくない人物にマディスは硬直した。そんなマディスに対し、フェリスは一方的に話し始めた。


「先ほどは申し訳ありませんでした。あなたの事情も鑑みず、一方的に私の考えを押し付けてしまって。重ね重ねお詫びいたします。隣、いいですか?」


 いいですか? と聞いておきながら、マディスの返事も聞かず、隣に座ってきた。彼女の中ではマディスに拒否されるという想定は無かったらしい。


「何かお悩みのようですが、私でよければお話しください。これでも神官の端くれ。迷える人々を導くのが私の責務です」


 それを聞いてマディスは唖然とした。あなたの言葉が原因で悩んでいるのですが、とマディスは言いたかったが、どうやら彼女にとって、呪いについては終わった話のようだ。……なんて女だ、とマディスは思った。もっとも、それぐらいの気の強さが無ければ、女だてらに冒険者などできないのかも知れない。


 フェリスにとって、既に呪いの剣は問題では無かった。彼女はガルドの励ましを真に受け、本気でマディスを救おうとしていた。フェリス自身も親と死に別れ、つらい思いをしてきた。彼女は、自分は運良くラタンに拾われ、救われたが、この人には誰もいなかったのだ、この人を救うことが私の使命だ、と心に誓っていたのである。彼女は今朝の一件の後、マディスを探し回っていたのである。


 マディスも、フェリスが善意で言っているのは分かったので、無下にはしないが、呪いについて悩んでいるといえば、解呪されるに決まっている。マディスは仕方なく、読み書きを習いたかったが、思った以上に費用が高く悩んでいるのだ、と答えた。


「まあ、それでしたら教会でも読み書きは教えていますよ。無料とは行きませんが」

「ええ。それも聞いたんですが、さっき支部長に会って言われたんです。僕みたいな呪われし者が教会に行ったら、はりつけにされて火あぶりにされるから距離を取った方がいいって」

「……この街の支部長がそんなことを?」


 それを聞いてフェリスの眉間に深いシワがよる。レオンの忠告は、マディスの中の妄想と交わり、自身への深刻な風評被害をもたらしていた。


 しばらくフェリスは何事か考えていたようだが、突然マディスの両手をつかむと興奮気味に話し始めた。


「ええ! でしたら私がお教えしますわ! 朝の謝罪もかねて、ぜひやらせてください! 勿論お代なんていりません! わたくしがマディスさんを救いの道へと導いてみせますわ!」


 爛々(らんらん)と光るフェリスの目には、マディスの呪いとはまた別個の狂気が宿っているようだった。マディスはその迫力にうなずくことしかできなかったが


(やっぱりこの人なんか苦手!)


 内心ではそんな風に考えていた。


お読み頂き、ありがとうございました。面白い、と感じていただけましたら、評価、感想、ブックマークなど頂けますと、作者の励みになります。

*昨日、はじめて1日のPVが100を超えました。お読みくださった方々、ありがとうございました。

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