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呪剣士マディス  作者: 大島ぼす
第一章
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第12話 オークとの死闘

二体のオークは、地面に倒れた同胞を見て、怒りに震えているようにも見えた。だが生物の本能か、マディスの実力を警戒し、ゆっくりと距離を詰めてきた。


「突進してくれた方が楽なんだけどな……」


そういって剣を構え直すマディス。さっきの要領で、突進前の一瞬の硬直を突きたい所だが、猪らしからぬ慎重さを見せるオーク達は、その素振りを見せなかった。もしかしたらさっきの一部始終を目撃していたのかもしれない。


さらに増援がくる可能性もあり、余り時間をかけるわけには行かないマディスだが、二体に突っ込むのは無謀だ。互いに距離を図っていると片方のオークが、マディスの後方に回り込もうと、じりじりと距離を取り始めた。


(しめた!)


挟み撃ちにするつもりなのだろうが、マディスにとっては、そちらの方が都合が良かった。マディスからすれば二体同時に、正面から攻撃される方が脅威であったが、オーク二体が離れたことにより、各個撃破の好機が生まれた。


マディスは迷わず正面のオークに全力で袈裟切りを放った。慌ててオークが腕を交差して防御を図る。マディスの初撃はオークの腕に阻まれたが、マディスは振り下ろした剣をその勢いのまま横薙ぎにした。オークは腹部を深く切り裂かれ、臓物をまき散らして絶命した。マディスは間髪入れず、後方のオークに対処すべく後ろに向きなおしたが、マディスが身構えるよりも早く、オークの拳がマディスの胸にめり込み、突き飛ばした。


激痛がマディスを襲うが、なんとかこらえ、態勢を立て直す。オークも追撃の隙を見つけられず、それ以上の深追いを避けた。マディスがまともに魔物から攻撃を受けるのは、初めてのことであったが、戦意はいささかも落ちてはいなかった。


呪いの影響もあるが、親兄弟から暴力を受けていたマディスは、意外にも痛みに慣れており、取り乱すことはなかったのである。とはいえ胸骨がひどく痛み、動きに精彩を欠いた。マディスは一瞬、ポーションを飲むことを考えたが、悠長に飲んでいる間など有るはずも無い。


まともに戦うのは無理だと判断したマディスは、賭けに出た。痛みで苦しむそぶりを見せ、前方によろめき顔を下に向けたのだ。猿芝居だったがオークはこれにひっかかり、喜々として襲い掛かってきた。


体を下に向けたマディスは、そのまま大地を蹴り、体ごとぶつかる勢いで突きを放った。オークの拳より先に、マディスの剣先がオークの心臓を貫いた。マディスはオークを突き刺した後も、その勢いを止めることができず、そのまま突進を続け、木に衝突し、ようやく体が止まった。絶命したオークの体から剣を引き抜く。あとにはオークの死骸が三つ残った。


マディスは胸の痛みに苦しみながら、ベルトからポーションを外し、一気に飲み干した。驚いたことに一瞬で痛みが引いていった。完全に痛みは無くなっていないが、動く分には問題無かった。マディスは周囲を警戒し、魔物の影がないことを確認した。ひとまず危機は去ったようである。後はオークから討伐証明を取り、速やかに撤収するだけだが、ここであることにマディスは気づいた。


「オークの討伐証明ってゴブリンと同じ鼻でいいのかな?」


今まで、ゴブリンしか討伐してこなかったため、ゴブリン以外の魔物の、証明部位を知らないことに気が付いた。おなじ人間タイプの魔物であるから鼻でいい気がするが、もしかしたら牙なのかもしれないし、耳かもしれない。


悩んだ末にひとまずオークの首を切り落とし、首を三つとも持ち帰ることにした。せっかく苦労して倒したのだから、証明部位を間違えて無報酬となっては目も当てられない。


だが、首が三つともなると運搬が問題になる。ゴブリンの鼻を入れている袋には入らないし、背嚢にも日用品が詰まっているので入れる空間はない。両手に抱えていては突然の奇襲時に対応できない。


「……ん?」


悩んでいると、木の枝が目に入った。そこに木のとげに突き刺された昆虫がいた。いわゆる、モズの速贄はやにえである。


「……これだ!」


マディスは閃いた。……ろくでもないことを。



日が暮れる中、検問所で忙しく入場者をさばいている衛兵カイウスの耳に、つんざくような人々の悲鳴が届いた。すわ、魔物の襲来かと驚いて、悲鳴の元へ駆けつけると、マディスがぼうと突っ立っていた。


その手には先端を尖らせた、木の棒が握られており、オークの首が三つ串刺しにされていた。その首はいずれも血にまみれ苦悶の表情を浮かべ、夕陽に照らされ禍々(まがまが)しくきらめいていた。


そのあまりの光景に、衛兵達は顔を青ざめながら槍を突き出している。周囲の人々は遠巻きに様子を伺い、気の弱い女性などは失神して地面に倒れていた。カイウスは周囲の同僚達と同じように顔を青ざめ、(遂に狂っちまったか!)と呆然と考えていたが、カイウスを見たマディスが申し訳なさそうに言い放った。


「あ、カイウスさん、すいません……オークの討伐証明の部位がわからなくて、首ごと持ってきてしまったんです。でもこんな騒ぎになるとは思わなくて……」


それを聞いたカイウスは、呪いで発狂した訳ではないと安堵したが、非常識なマディスの振る舞いに、猛烈に怒りが込み上げてきた。そして青ざめた顔を一転して真っ赤にさせて激怒した。


「き、貴様というやつは!! あれほど揉め事を起こすなと言っただろうが!! 何が騒ぎになるとは思わなかった。だ! ふざけるな!! 常識というものが無いのか貴様には!」


マディスはカイウスの説教を聞きながら、オークの串刺しを持って、立ち尽くしていた。

お読み頂き、ありがとうございました。面白い、と感じていただけましたら、評価、感想、ブックマークなど頂けますと、作者の励みになります。

活動報告を更新しましたので、よろしければご一読下さい。


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