DESIRE・ONLINE
【DESIRE・ONLINE】
世界初の五感完全再現技術を制作したガイバース社の最新ゲームで、前作はPC発売の【ENDBIRTH・ONLINE】。ストーリーは完全に別だが、ゲームシステムだけが移行された形らしい。
今作の目玉は何と言っても【欲望という相棒】システム。
いくつかの質問に対する反応の上で欲望が選定され、その多岐にわたる種類の一つをベースに生み出されるとのことだ。
だが、人によってその強さが大きく左右されるらしいので、プレイヤーによってとんでもなく評価が変わるっていう風なものっていう噂。
今すでに発売から半年がたっているが、公式によると最前線がちょうど真ん中の町まで到達したってことらしく、進行が遅い…というよりは町数が多いって話だ。
「と、ダウンロード終わったな」
視界の端にダウンロード終了のウィンドウが現れたのを見て、ゲームにログインする。
入ると同時に、視界全体に大きなウィンドウでこのゲーム内での全情報に関する規約が現れるが、一切読まずに同意する。
OPも飛ばして、キャラメイク。
今作はステータス要素がなく、プレイヤースキルと欲望という相棒ごとに自動生成されるスキルツリーのスキルによって戦うことになるらしいが、現時点で自分のプレイスタイルに合わないスキルツリーが現れたってのは聞かない。それだけ正確ってことなんだろうな。
見た目はランダムにすれば欲望という相棒診断の内容によって勝手に最もふさわしい姿が構築されることになっていると書いてあったので、ランダムを速攻選んで欲望という相棒診断に進む。
「どうもー!診断用AI《ラファエラー7》でーす!」
いきなり空中に光る球体が現れ、そんなことを言ってくる。
「え…?あ、了解した」
「はい!では一つ目ですが…あなたにとってこの世界とは?」
無駄にハイテンションで話し続ける光球に見つめられる。
「この世界っつってもまだ何も見てないからどんな世界なのかも知らないし…始めた理由は知り合いにやろうって言われたからだし…?」
「なるほどなるほど!では二つ目に移りましょう!」
「二つ目です!さっさと重要なところに入りましょう!あなたの欲望は?」
「ヒーローその物。ヒーロー的展開はいらないけど、ヒーロー的行動原理に一応基づいて行動はしてるつもりだからね」
と、言っても最近はあんまそういうのをすることもなくなったかなぁー…VRの世界じゃみんなが何でもできるからね。
「ふぅーん。そうですか!では質問は以上です!この質問をしていた間のあなたの思考回路なども含め…スキルツリーと【欲望という相棒】を構築しました!」
「では始まりの町へと飛ばさせていただきます!多分もう会うことはないと思いますが…楽しいゲームライフを!」
光球にいきなり手が生え、振ってくる光景を最後に目にし、光に包まれていくのだった。
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「…っと。久しぶりだな…VRゲームは」
自分の周りのプレイヤー一人一人の頭上に名前と二つ名…なのか?あれは?まぁそんなのが浮かんでいる。
ウィンドウを開いてプレイヤー検索機能を使い、指定の名前のプレイヤーのみの頭上に名前が表記されるモードに視界を切り替える。
「黒音先生は…あそこか」
頭に名前と…なんだあれ?なんというか…フワフワしていそうな黒い塊をのっけているプレイヤーが見つかる。
「おーい黒音先生。こっちだ!」
呼びかけるとすぐにこちらを向き、悠々と歩いてくる。
「やぁSIN Z君。久しぶりだね!」
「どーもお久しぶりです…というか、その黒いの。なんですか?」
「これかい?これは私の欲望という相棒だよ。一応猫なんだが…これじゃ黒い毛玉だね。」
「君のはどこに…いや。すでにいるか」
「ハ?どこに?」
俺から見えず、先生側からは見えるってことは…
「後ろか!」
そして振り向くと同時に、それまで一切感じなかった強烈な存在感が肌を刺す。
「――ッ!なぁにこれぇ!」
「だから、君の欲望という相棒だろう?」
「だからってこれはやばいでしょう!」
「まぁそうだね。これまでの所、此処までの巨体を誇る欲望という相棒は発見報告がない」
「それに加え、フルメタルだ。強度も質量も見たところ申し分はなし。リアルさが悪さしてる感じで、だいぶヤバいんじゃないかな?」
先生は軽く俺の欲望という相棒を叩いて音を確認しながらそう言う。
「ですよね…というか先生、そんな情報持ってて、いつからこのゲームやってるんです?」
「いいや?昨日だよ。この程度の情報なら人型欲望という相棒掲示板をあされば簡単に出てくる」
「さいですか…」
先生と適当に会話を続けていると、鎧からザザッとノイズが聞こえる。
「あのー…私も、喋ってもよろしいでしょうか?」
…
……
…………
「シャァベッッタァァァァァ⁉⁉」
「SIN Z君五月蠅い!」
先生に顎を殴られて声が止まる。
先生…顎を横からはだめですって…そう思いながら、俺の意識はだんだんと遠のいていった。