おばあちゃんの抹茶ジャム
午後、二時半。
近所のスーパーに買い物に行くと、パンコーナーに見慣れない瓶詰めが並んでいた。
やや地味な色合いの、小ぶりな瓶。
なんとなく気になって、手に取ってみる。ラベルを見ると、『抹茶クリーム』とある。
……クリームというより、ジャムっぽい。
私のイメージかもしれないが、クリームという名称はもっと白っぽいものに使われるべきだと……、いかんいかん。こういうダメ出しグセが老害の始まりなんだよ。
…クリームねえ。確かに原材料にミルクとある。クリーム要素が入っているのだから、ネーミングに間違いはなさそうだ。
……とはいえ、この、色合い。抹茶色で、透明感のない、地味な感じ。どこそこ見覚えのあるような、なんとなく、貧乏くさい色合い。
お値段498円…高く見えてしまうな。小さい瓶だし、もっと安くても良さそうなもんだけど…。
……。
ああ、この、色。
おばあちゃんの作ってくれた、抹茶ジャムにそっくりだ。
だから、なんとなく親近感があって、貧乏くさくて、懐かしくて……。
……昔の事を、思い出す。
その昔、お隣に住んでいたおばあちゃんが作ってくれた、抹茶ジャム。
やさしい甘さの、手作りジャム。
おばあちゃんは…いつもニコニコとしていて。
遊びに行くたびに、素朴なおやつをくれて。
よく、白玉粉と片栗粉を水で溶いて、薄く焼いたやつを出してくれたんだよね。
パリパリのおせんべいにたっぷりジャムを塗って、のんびりおしゃべりしながら食べたなあ。
おばあちゃんのジャムはほんのり甘くて…、お茶の味がして。
とても…おいしかったんだよねえ……。
美味しかったから作り方を聞いたら、水あめに抹茶を混ぜただけだよって教えてくれたんだった。
あの時食べた味を思い出して、何度か自分で作ってみたけど……、どうしても、同じ味にはならなくて。いったいどうやって作っていたんだろうと、作るたびに不思議に思ったものだ……。
最後に作ったのは…いつだったっけ。記憶がずいぶん…遠いなあ。
久しぶりに…作ってみようかしらん?
でも…抹茶って、意外と高いんだよね。お抹茶をたてる習慣もないし、買ったはいいけど使わないうちに劣化するパターンもありうるし。わりとそそっかしくて忘れっぽいから、棚の奥に置きっ放しになって、ほんの少し使っただけで残りは全部パアなんてことになりかねないのがねえ…。
そうか、だからこの抹茶クリーム……、わりとお高いのか。わりと貧乏くさいおやつだと思っていたけど、実はかなり贅沢なおやつを食べていた可能性よ……。
水あめもわざわざ買うものではないっていうか…すぐに食べ切っちゃわないといけないのがなあ。中途半端に残ると微妙にスッキリしないっていうか。まあ、煮物なんかに使えばいいと言えば、いいんだけれども。
……そうだなあ、久しぶりにおばあちゃんのおせんべい、焼いてみようかな?
あれは娘も息子も小さい時に喜んで食べていたシロモノで、決して豪華ではないものの、伸びる手が止まらない系の……くせになるやつでさあ。
ジャム用にプレーンを焼くとして、しょっぱいのも作りたいな。
塩、しょうゆ、ソース…カレー味もいいな。
お好み焼き用の小エビが余ってたから、使ってしまおう。
青のりも使っちゃおうかな、そうだ、粉チーズもそろそろ古くなってくる頃……。
俄然やる気がみなぎった私は、かごに白玉粉と片栗粉、抹茶の一番小さい缶に水あめのパック、カレー粉の缶にお気に入りのマーマレード、チョコソースにはちみつを投げ込み。
意気揚々と、レジに向かったのだった。