決着
こっちからも攻撃を仕掛けるようになったことで、相手に与えるダメージはかなり増えた。しかし、疾風の大風狼もすぐに対応してくる。後ろに回り込んだ俺にしっかり反応し攻撃を仕掛けてくる。とはいえ、後ろにいる俺に攻撃をするには体を反転する必要がある分攻撃は遅れる。後ろ足を使った攻撃もしてくるが、前足による攻撃と同じぐらい速いわけでもないので避けるのは比較的簡単だ。
このゲームのMP。魔法やらなんやらを使うためのエネルギーは時間経過で自動回復するタイプだ。岩風猪狼のブーツの効果発動のためのMPが貯まるまでは回避に専念し、MPがたまったら一気に加速し、攻撃。といった感じでダメージを与えていく。とはいえ相手も常に学習を続けているわけで――――――
「流石にもう簡単にはやらせてもらえないか」
再び後ろに回り込もうとしたが、攻撃ではなくバックステップをする疾風の大風狼。加速系スキルをほぼ使いきった今、ここから再び後ろを取ろうにもスピードが足りない。接近してきた疾風の大風狼の前足が迫ってくる。念のため残しておいた「スムーズステップ」を発動し、横へとステップ。前足による攻撃をなんとか避ける。
モンスターにも高性能AIが搭載されているのだろう。同じ戦法を取り続ければあっという間に学習して対応してくる。
「だったら!」
これまでと同じように俺が後ろに回り込もうとすれば、そうはさせまいと相手はバックステップで後ろを取られないようにしてくる。だから今度は後ろに回り込むように見せて、そのまま相手に向かって突っ込み、正面から斬りかかる。
「ガルル……」
後ろに回り込まれると思っていたが、今度は正面から斬られたことで、相手がさらに警戒を強めたのがわかる。
「さて、こっからどう攻めるか……」
見た感じ、あっちもかなりダメージがたまっているだろう。何度も攻撃を受けた体からは、血液のようなエフェクトが溢れ、呼吸も荒くなっている。決着はもうすぐだろう。
探り合いが続く中、先に動いたのは疾風の大風狼。
「ワオーーーーーーン!!!」
突然の遠吠え。そしてそれに呼応したかのように、ウインドウルフが一斉に動き出す。
「もう余裕がないんだろ?」
飛びかかってくるウインドウルフを一体一体、確実に斬り倒していく。
ウインドウルフは疾風の大風狼と比べればなんてことはない。この間にも攻撃に参加してはいないものの疾風の大風狼が反撃のチャンスを待っているのはわかる。
スキル「乱れ切り」を使いながらウインドウルフを一体一体確実に仕留める。全て倒し切ると同時にスキルで加速し、一気に疾風の大風狼に肉薄する。
「ッスゥ―――」
疾風の大風狼が息を吸い込む。あれは竜巻で俺を吹き飛ばすあの技だ。
「何回もやられりゃあ、流石に対策するに決まってんだろ……」
インベントリから、たまたまフィールドで拾ったボロボロの剣を取り出し、地面に突き刺す。
「壊れないでくれよっ……!」
「バウッッッッ!!!」
疾風の大風狼が竜巻を発生させる。しかし全力で突き刺した剣の力を借り、吹き飛ばされそうになるのを必死にこらえる。吹き飛ばされることは何とか防いだとはいえ、あっちは俺から距離を取ることに成功している。
「こっからだ……!」
相手の余裕がない今、少しでも余裕を与えるのは駄目だ。
地面に刺した剣を念のため、さらに深く突き刺す。そして―――
――――スキル起動。「ファスト・ブースト」によって強化された脚力で突き刺さった剣を踏み台に、疾風の大風狼の頭上目掛けジャンプ、一気に疾風の大風狼に肉薄する。相手の頭上を飛び越えるように飛んでいく中、再び使えるようになった「乱れ切り」を発動。上空からその広い胴体を連続で切りつけ、着地する。疾風の大風狼もとっさに反撃しようと体をこちらに反転させる。
「これで終わりだッ!」
こちらへと向かってくる疾風の大風狼。その頭目掛けて剣を突き刺す。
しばしの静寂の後、疾風の大風狼の体にノイズが走り、体はポリゴンとなって砕け散る。
残ったのは、疾風の大風狼のドロップしたアイテム。そして――――――
『疾風の大風狼を撃破しました。次のエリアへ移動できるようになりました。』
ボス撃破を知らせるシステムからの通知だ。
「疲れた~」
疲れた体を労わるように体を伸ばしていく。
「最初のエリアボスだったけど強かったな。先が思いやられるよ」
今後出てくるエリアボスもこんな感じで苦戦することになるのかと思うと気が滅入る。
「とりあえず、さっさと次の街に行こう」