星空の下で試運転を
神域の塔に挑戦後、首に巻き付いていた謎のアクセサリー「イカロスの残翼」。イカロスの風域で滞空中もスタミナが回復するなら、スタミナ管理と装備次第で、おそらく無限にジャンプすることができそうだ。
「神域の塔攻略に使えるかもな」
ただなあ……。実際に戦ってないからわからないが、吹き抜けを利用したショートカットよりも一階層ずつ丁寧に攻略した方がいい気がするんだよな……。多分、下から来た影たちはショートカットしてスルーした階層のボスたちだ。全てとまではいかずとも、ある程度は攻略しておいた方が、有利に進むんじゃないか?
「まあとりあえず、イカロスの残翼の試運転だよな」
実際に使ってみないと分からないことの方が多いだろう。とりあえずイカロスの風域の効果だけ確認したら、何かモンスターと戦ってみたいな。ちょうどいい感じの奴いるかな?できれば、空を飛んでる奴……。
「グロリアスかなあ」
あいつらは飛行するタイプのモンスターだし、素材は装備の修理なんかに使える。
「決まりだな」
イカロスの風域、思ったよりもいい感じだな……!動きに立体感が出せるようになって、戦い方に幅が出せる。それに、空中を跳ね回る戦い方には慣れてるしな。メイと競い合ったあの頃が懐かしい。まあ、加速はスキルを使わないとだからあの時と全く同じとはいかないけど。
「さて、行くか」
「よし、まずは山登りからだな」
極光山、最初の難所は山登りだ。グロリアスが山頂付近にしか湧かないから仕方ない。とはいえ、今回は前回のようにある程度舗装された道は使わない。
「イカロスを使って、どこまで登れるか……」
かなり荒れてはいるが、所々に足場になりそうな岩場もある。イカロスを上手く使えば、斜面を登って山頂を目指すことだってできる、はず。
「行きますか」
イカロスの風域を利用した空中ジャンプ。慣れればそこまで苦労はしなくなるんだろうが、まあ結構難しい。そもそも空中ジャンプには慣れが必要だと思っている。本来踏むことができない空中を踏む感覚。まずはそれを掴まなきゃいけないんだから。俺は頭の中で床を思い浮べるようにしている。
イカロスの風域はその感覚にかなり近いかもしれない。頭の中で見えない床を想像し、踏み込む。そうすると空中に留まっている。よく見れば風のようなエフェクトが発生していて、発動できたかわかるようになっている。
ちなみに滞空可能時間とやらは体感で3秒。3秒以内に次の跳躍をすれば、再び3秒空中に留まる権利を得ることができる。スタミナは回復してはいるみたいだが、それよりも風域維持に消費する分が多い。定期的にスタミナを回復するようにしないといけないから、無限空中ジャンプは現状不可能だ。
スタミナの回復速度が、それこそ空兵炉心の過剰稼働時みたいに消費量を上回ればやれるんだろうが、そんなアイテムは持っていない。スタミナ管理をうまくやるしかないだろう。
「時々、スタミナ回復のために立ち止まっているとはいえ、最短距離で進んでるから進みが全然違うな」
道を使う場合、かなり蛇行しながら進むことになるし、当然坂なので進むのは時間がかかる。いくらゲームの中とはいえ、だ。
まあ、ジャンプも疲れるが、道を進む場合はスキルが使いにくい。加速系スキルを使ったはいいが、道が曲がっているとそれに合わせて、進路をその都度その都度変える必要がある。
しかし、今回はスキルを使用すれば、わかりやすく時間が短縮できるし、休憩できる岩場に向かってまっすぐ進むだけでいい。まあ、一人っていうのもあるんだろうが、とりあえず気楽に登れている。
そして気がつけば、山頂に到着していた。
グロリアスは相変わらず優雅に山頂付近を飛行している。数は少ないが、まああいつらは単体性能が高いし、群れる必要もないんだろう。
ここまでかなりの回数の空中ジャンプによって、蝋羽がかなり溜まっている。蝋羽の蓄積情報はステータスを見れば詳細を確認できるが、それ以上にわかりやすい判断基準がある。
イカロスの残翼は初め、ボロボロに焼けたマフラーのような見た目をしていた。一応翼らしいが、首に巻き付いているし、完全にマフラーである。と、最初は思っていたんだが、蝋羽が溜まってきたことで、その認識は大きく覆された。
蝋羽が溜まるごとにイカロスの残翼に羽が一枚ずつ増えていったのだ。蝋羽がかなり溜まっている今なら、「これは確かに翼だな」といえるような見た目になっている。
「戦闘でも役に立ってくれよ?」
跳躍し、近くにいた光来鳥グロリアスに攻撃を仕掛ける。
極光来鳥グロリアスほどではないが、こいつらも強敵だ。油断していれば、普通に負けてもおかしくない。
一撃目。朧による一閃が、相手の胴体を切り裂く。こちらが地面へ向かうところを狙って、急降下し攻撃を仕掛けてくるが、それをイカロスの風域を駆使して躱す。グロリアスは圧倒的な速度を誇るものの、その分急旋回は苦手だ。空中を蹴り、未だに直進する相手の背中に飛ぶ移る。
「じゃ、まず一体目」
心臓部目掛けて、朧を突き刺す。グロリアスは死亡し、ポリゴンとなって消えるがグロリアスの背に乗っていたことで、その勢いは健在だ。ここでも風域を利用して、空中ジャンプ。そうして勢いを殺す。しかし、他のグロリアスがこっちに向かってくるのが見えた。
「よいしょっと」
さらに空間を蹴り、跳躍する。今回はスキルも使ってかなり高く飛ぶ。落下の勢いを利用して、一撃で仕留めるためだ。
しかし、ここで異変が起きた。
イカロスは蝋の翼で空を飛んだとされる。そして太陽に近づき、墜落した。
突然、イカロスの羽が燃えだし、風域を含む全ての能力が使用できなくなる。
「マジか……!」
こうなったら……。朧影を利用し、眼下のグロリアスに接近。落下を利用しながら朧を突き刺し、一撃で仕留め、消滅する前にグロリアスを踏み台にする。そうして、なんとか落下死を防ぎ、地面に転がり込むように着地する。
「痛っ……」
着地の衝撃で痛む体。装備についた土埃を払いながら起き上がる。ふと、上を見上げるとそこには満点の星空が広がっていた。
「凄いな……」
「うん。私もそう思う」
「……!」
ついさっきまで誰もいなかったはずだろ……?
そこにはどこからともなく表れた美少女がいた。
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