イカロスの残翼
神域の塔
モリベにおしえてもらったこのダンジョンはルナーミアからある程度離れた場所にある滝。そこを抜けた先にポツンと佇んでいた。
天高く伸びる塔の表面は苔で覆われ、周りにはかつての建物か何かの残骸が散らばっている。
「さて、行きますか」
調べてみたらしっかり未踏破のダンジョンだった。モリベは装備を整えたり、何したりで忙しいからここは譲ると言っていた。
他のプレイヤーが発見する可能性は多いにある。なるべく早くクリアしたいな。
塔の扉を開け、中に入る。塔は洞窟のような空洞の中にある関係で暗かったが、そこから想像できないほどに中はとても明るい。
中央が吹き抜けていて、そこから塔の全貌が何となく把握できる。天井は何かを描いたステンドグラスのようになっている。
提示されたマップによれば、この塔は全部で13の階層で出来ているらしい。今いる一階層には何もいないから、目の前の螺旋階段を登った先の各階層に何かが待ち構えているんだろう。
「ボス戦を何回か繰り返す感じか?」
とはいえ、クリア条件は「塔の最上階に辿り着く」となっていた。つまりはこの吹き抜けを利用して一気に最上階まで行ってもいいんじゃないか?
「光来撃で足りるか?」
空中を飛ぶ方法はいくつかある。光来撃で飛んでいくのもありだし、朧影を踏み台にした擬似空中ジャンプだってある。ただ、この塔、かなり高い。
空兵炉心はまだ使えそうにないし、MPが足りるか怪しい……。まあ、やるだけやってみよう。
「光来撃」
多少は残したが、MPを大幅につぎ込んだ光来撃。その推進力は凄まじいものだったが、それでも塔の天井には届かず、6階層ほど飛んだ先で勢いが落ちてしまった。
このままでは落下死してしまう。朧影で生み出した分身を踏み場にしてもう少し上へ移動しようとした時に気がつく。
下から迫る5つの影に。
「ヤバ……」
急いで朧影を踏みつけ、上へ上へと逃げるように跳んでいく。下から飛んできた攻撃を回避しながら進んでいるため、中々上は進めない。
「幻霧」
霧を生み出し、相手の視界を奪う。そして、その間に近くの階層へと移動する。
吹き抜け構造で助かったな。ここにも敵はいるんだろうが、それでも少し休みたい。さっきの影、ズルしたから来たのか?それとも各階層のボスが追いかけてきた感じか?
「空兵炉心が直ってからきた方が良かったかもしれないな……」
MPがカツカツだ。魔法系職業ほどではないんだろうけど、それなりにMPを必要とする戦い方をしている。MPの回復をサポートする空兵炉心がないだけでかなり戦いにくいな。
とはいえ、ないものはないんだ。失敗したらまた来ればいい。
「よし、行くぞ」
軽く助走をつけ、再び中央の吹き抜けへと飛び出す。多少はMPも回復した。
「光来撃」
2度目の雷撃による加速。今回も天井には辿り着きそうにないが、かなり近づいた。朧影による跳躍を駆使して、さらに天井へと近づく。
「いける……!」
まあ、現実はそんなに甘くない。天井に向けて、手を伸ばす俺の前に飛び出してきた一つの影。
『神影 ゼウラウス』
その右手に握られた槍に押し返されるようにして、地面へと落下を始める体。
「クソッ……」
神影ゼウラウスの全身は黒く、表情なんてものもない。しかし、その顔は笑っているように見えた。
ちくしょう。絶対クリアしてやるからな……。
「あっ……」
落下する中、リベンジを誓った俺に容赦なく攻撃が降り注ぐ。それは11人の影によるもの。
空中で攻撃を受け、満身創痍の状態で地面へと激突する直前、誰かの声を聞いた気がした。
そうして、俺は死亡した。
さて、ウォーグの工房にリスポーンしたんだが、何か首に違和感がある。首に手を当てるとそこには――――――
――――――ボロボロに焼け落ちたような布が巻きついていた。
「イカロスの残翼?こんなのいつ装備されたんだ?」
全く身に覚えのないアクセサリー。まあ、ひとまず性能を見るか……。
「え?強くない?」
イカロスの残翼の能力は以下の通り。
・イカロスの風域
STMを消費することで一定時間、空中に踏みとどまることができる。滞空可能時間は跳躍によってリセットさせる。滞空可能時間が0になった場合、地面に足が着くまで効果が発動しなくなる。
効果発動中、着地によるダメージを軽減する。
・イカロスの蝋羽
イカロスの風域発動中、跳躍時に「蝋羽」を1蓄積する。
・飛翔するイカロス
「蝋羽」が一定値に達することで発動可能。「蝋羽」を全て消費し、推進力を生み出す。
・???
???
「スキル無しで空中ジャンプできるってことだよな……?」
なんなら、STMと滞空可能時間とやらに気をつければ無限に空中ジャンプできるんじゃないか?
「かなりすごいアクセサリーを手にしてしまった……」
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