会敵
十王星南のキャラデザすごく好み
【見掛け倒しの小火】は事前に設定しておいた箇所にちょっとした火を発生させるだけの魔法だ。初級魔法の【フレイム】にすら威力は劣る。その割に派手なエフェクトを出すから「見掛け倒し」なわけだ。しかし、だ。ちょっとした火でも――――――
――――――爆弾を起動するのには十分すぎる火だ。
今の俺の職業は「侍」と「爆弾魔」だ。
かつて、ダイナマイトニウムとのあれこれの結果解放されたであろう「爆弾使い」。爆弾を作るためにダイナマイトニウムを採りに行き、爆弾のテストをしていたらなぜか進化してしまった「爆弾魔」。まさかこんな職業を取ることになるとは思わなかった。
とはいえ、今この状況を作るのにこの職業が必要だった。爆弾魔の能力は、爆弾系アイテムの破壊力の増加。さらに固有魔法【見掛け倒しの小火】。これがなければダイナマイトニウムなんてものを使った爆弾を安全に起動させることはできなかった。
ウォーグたちとの作戦会議の末決まったこの作戦にはいくつかの目的がある。まず、奴隷にされている人達にもあわよくば脱出できればというもの。だが、これはあくまでもおまけだ。
牢屋を走り抜け、地上に出た俺たちの眼前には紫色の煙が充満している。
朧の能力、幻霧は今回の作戦の要だ。モリベにも朧隠れの龍鱗を渡してある。あれがあれば幻霧の中でもある程度の視認性を得られるし、認識阻害の効果もある。
しかし、問題がある。幻霧によって発生する煙は紫がかっているのだ。普通に発動すれば間違いなく目立つ。国中を覆うほどの幻霧を出す、それができればかなり楽だったが、今の俺にはできない。
だから、爆発によって紫色の煙をあちこちで発生させることで幻霧を目立たなくしようという試みだ。まあ他にも細々とした目的はあるが、これが1番の目的だ。
「何これ……?ここまでしてくるとは想定外なんだが……」
「説明は後でな。とにかく急ぐぞ」
城内は大混乱だ。ダイナマイトニウムを使用した爆弾は人が少ないところにしかおいていないが、煙を生み出すスモーク爆弾はあちこちに隠しておいた。ひとまず城内から出られれば、後は隠れながら合流地点に向かうだけだ。
「幻霧」
MPを使い、爆発の煙と混ざるように広がる幻霧。見た目は誤魔化せても、視界を悪化させる効果は健在だから突然視界が悪くなったことに戸惑う声も聞こえてくる。
そんな声を聞きながらただひたすらに城外を目指して走っていく。城兵や商人といった多くの獣人たちの間を縫うように走り抜ける。
「あと少し……」
チッ……。やっぱり来たか……。
「モリベ、アイテムはさっき渡したし、場所も伝えた。万が一の保険もあるから大丈夫だと思うがここからは別行動だ」
「アイツか?」
「ああ。あっちの相手は俺がするから、先に行け」
「わかった。捕まるなよ?」
「心配すんな」
さっきから殺気を感じてたんだ。やっぱり来るよな?
「王子ライシオン……!」
振り返ると同時に爆発によって生じた煙がかき消され、不自然な霧だけが残る。幻霧は健在だが、それでも俺たちの位置はあっさりバレたわけだ。これ、わざとここまで逃げさせたな?
「ようこそ、侵入者。歓迎するよ」
獣王国ルナーミア王子ライシオン。その風貌は王にふさわしいライオンのようだ。まさに王族といった服装の上からでも引き締まり、鍛え上げられた肉体であることがわかる。
モリベはもう行ったな。にしても、なんて言ってるか絶妙に聞きにくいな……。獣人語はある程度習得できた。言語体系の根底に人類語と同じものがあるのだろう。一回目と比べればかなり順調に習得できた。
ところどころ不自然に抜けて聞こえる感じと言えばいいんだろうか。うまく説明できない不思議な感覚だ。とりあえず、あいつの話している内容について、ある程度概要は理解できても詳細まで完璧に把握できていない。
「やってくれたな?新しい労働力が手に入ったと思ったが……。たかだか異界人にここまで派手に被害を出されたんだ。お前は一度殺さなければ民が納得しないだろう」
よし、想定通りの展開だな。「とりあえずお前を殺す」みたいなことを言ってたのはわかった。
これはジラさんからのアドバイス。奴らは異界人も見下しているらしい。こっちの方が最終的には強くなるんだろうが、現状全プレイヤーがこの国の奴らに勝てるか、といえばそうではないだろう。
そもそも、奴らはモリベと他に数人の異界人ぐらいしか知らない。わずかな異界人というのは多分テストプレイ時のプレイヤーのことだろう。そして、ここを訪れたプレイヤーたちはもれなく皆やられている。そういった経緯で、獣人は俺たちのことを下に見ている。これが現状だ。
格下だと思っていた奴らに、王城を爆破され囚人を逃がされた、と国民が聞いたらどうなるか。自身の強さに誇りを持っている獣人たちは俺を許さないだろう。格下に出し抜かれたんだ、たとえ相手が擬似的な不死である異界人であっても、必ず誰かが一度俺を殺しにくるだろう。これがジラさんの考えだった。
王子の言動からしてすんなり国に入れたのはアイツが俺を労働力として使いたがってたかららしいが、これだけやられたらもう殺すしかないだろう。そうしなければ王子としてのメンツが立たない。
そして、ここからは賭けだ。俺があいつをどれだけ足止めできるかでモリベの脱出の成功確率が大きく変わる。死んだら最後、俺はウォーグの工房へ飛ばされ、ライシオンが本気で追跡すればモリベはリスポーン地点を変える前に殺されるだろう。
モリベではなく俺を優先的にライシオンに狙わせる。これが爆弾の最大の目的だ。
「ごちゃごちゃ言ってないでさ。来いよ」
あっちには拙い獣人語に聞こえているんだろうが気にしない。軽く煽るようにそう言い放つ。
「舐めるなよ……?」
お、キレた?さあ、時間稼ぎ開始だ。
運営に伝えれば割となんとかなる案件では?と思ったので65話を少し改稿。とりあえずこいつらは後先考えず今楽しいと思ったからこんなことしてます。
すっかり忘れた爆弾使い。まさかの再登場。
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