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名も無き獣人の街

 守谷から依頼を受けた翌日。ウォーグから借りたスペアの防具を装備した俺は、とある獣人たちの街にやってきていた。森の中に存在するこの街は小さいながらもかなり活気があり、発展している印象だ。


 SOL撃破によって解放された大陸が新大陸なら、以前までプレイヤーが活動していた本大陸は旧大陸ってところか?とりあえず、あっちにも亜人種が暮らしていたらしい。そのほとんどはヒッソリと暮らしているが皆友好的だそうだ。異界人だけでなく、いわゆる普通の人類とも仲は良く、異種族同士での結婚なんてのも普通らしい。


 こういった事情を知っていたからこそ、「亜人種は皆友好的」というのがプレイヤーの考えだった。だからこそ、新大陸の獣人族の対応に困惑するプレイヤーも多いという。


「ここかな……?」


 家の扉の前で立ち尽くしていると、突然ドアが空き、男性が出てきて声をかけられる。


「お、君がウォーグが言っていた夜火くんかい?」


 彼に俺たちのような耳はない。代わりに頭部に馬を思わせる特徴的な耳が生えている。


 耳を隠せば、普通の人と何ら変わらない見た目をしている彼、ジラさんの家の中に招かれ、話を聞いていく。


「初めまして。ウォーグさんから聞いているだろうけれど、ジラだ。よろしく、夜火くん」


「こちらこそ、よろしくお願いします。夜火です」


「さて、大体の話はウォーグさんから聞いてるよ。ルナーミナについて聞きたいんだってね」


「はい。知り合いを助けに行こうと思ってるんですけど、いかんせん何も知らないので」


「そうだね。厄災の影響でしばらくあっちには行けなくなっていたし、ルナーミアについて知っている異界人は少ないだろうね」


 それから、ジラさんは獣王国ルナーミアについて、様々な話をしてくれた。


 まず、獣王国では「弱肉強食」が全てらしい。そして、獣の力をその身に宿す獣人種は自身たちこそが最も優れた種族であると主張しているらしい。それが差別的意識の根底にあるんだとか。


 入国には門をくぐらなければいけないが、そこには当然衛兵がいる。この見た目なら間違いなく追い返されるだろうとのこと。下手したら殺されるか、守谷みたいな扱いを受けることになるかもしれない。


 気を付けるべきはそれだけではない。こんな国を治める国王も当然、他の種族を見下しているのか……というとそんなことはないらしい。国王は、だ。


「王子ライシオンには気を付けてください」


 どうもその王子はかなり他種族を見下しているらしい。優秀な王家の血筋を継ぐライシオンの素質は確かなもので、その戦闘能力は国で一番といっても過言ではないそうだ。そんな奴が「獣人こそが真の人類だ」なんて主張をしている。獣の力を宿し、子供ですら十分な戦闘力を有する獣王国の国民にとってその考えは不自然なものでも何でもない。


 国の地形やその他もろもろ、様々な情報をジラさんは俺に教えてくれた。




「私の知る情報はこんなところでしょうか」


「ありがとうございました」


 ライシオンという不安要素こそあれ、守谷を脱出させてどうにかリスポーン地点をルナ―ミアとは違う場所に設定するだけなら何とかやれるか……?


「そうだ。これを」


「これは?」


「知り合いの防具です。不要だからと私の家に置いて行ったのです」


「これを俺に?」


「ええ。あなたの装備について聞いた時にこれが必要になるだろうと思い、倉庫から持ってきておいたのです。これをつければ、顔を完全に覆い、見た目をごまかせるでしょう」


「ありがとうございます」


 ジラさんから手渡された装備はペストマスクのような見た目をしている。名を「バーディアン・フルフェイス」、鳥系統の獣人の伝統的な防具らしい。頭まですっぽり覆うから顔を完全に隠すことができる。


「当然、それだけじゃ足りないから気を付けてください。匂いなんかも私たちが同類かを確認するうえで気にかけている要素です」


「わかりました。ウォーグともしっかり相談して向かいます」


「ああ。頑張ってね」


「そういえば……。ジラさん、というかこの集落の人たちにあっちの獣人みたいな考えの人はいないんですか?」


「そうか、そこの話をしていなかったね。私たちはあっちの人達みたいな考えを抱かなかった「異端者」の末裔なんだ」


 獣王国では、「人も亜人も皆平等で、優劣などない」という考えを抱いたものは異端者として扱われていたらしい。そんな獣人たちがこっちの旧大陸に移り住み、人との交流を経て、この集落を作り上げたらしい。中には人と獣人のハーフという子供もいるらしく、こちらの獣人は人に動物の特徴を加えたような見た目をしている。一方、獣王国の獣人は2足歩行する人型の獣といった見た目らしい。


「私たちは先祖からあちらのような考えを与えられることもなかったし、人と良く関わってきたからそういった考えを抱くものはいないね」


「そうなんですね……」


「さて、これで話は終わりかな。さて、時間があるならぜひゆっくりしていってくれ」


「わかりました。おススメの場所とかさればぜひ教えてもらえると」


「そうだね――――――」




 話を聞き終えた俺は、ジラさんの案内で街を観光した。




「いやあ、楽しかった」


 獣人独自の文化もあり、とても新鮮な体験ができた。


「楽しめたようで何よりだ」


「今日はありがとうございました。また、機会があれば来ますね」


「ぜひそうしてくれると私も娘も嬉しいな」


「またね~!」


 ジラさん、娘さんがいてその子とも少し遊んだ。すごくいい子だった……。街の雰囲気も良かったし、また来たいな。


「さて、ウォーグのところに戻って準備の続きだな」

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