三界戦線 其の八
リオンの拳が空兵龍SOLへと振るわれ、その体を地面へと叩きつける。先ほどまで空中からひたすら攻撃を仕掛けていた空兵龍SOLが地上へと落ち、圧倒的に攻撃を仕掛けやすくなったこの状況に空兵龍SOLへストレスを感じていたプレイヤー達が一斉に襲い掛かる。
空兵龍SOLは陸兵龍、海兵龍と比べればかなり小柄だ。それは機動力を確保するためである。地上に落とされ、翼も奪われたことで空兵龍SOLがその姿を変化させる。ボロボロの翼は外れ、それ以外にも全身を覆う装甲がいくつか地面へ落ちる。次の瞬間――――――
周辺のプレイヤー達の胴体が泣き別れになる。
飛行能力を捨て、地上戦における機動力をさらに強化した空兵龍SOL。もはや「空」兵ではないが、そんなことをSOLは気にしていない。ただ生き残り、人類を滅ぼす。それだけが厄災としてSOLが望む全てだ。
すんでのところで攻撃を回避したリオンは両手両足を変化させ、SOLへと再び接近する。
リオンが選択したのは以前、夜火と戦った時にも変化していた速度特化形態。形態変化に伴いリオンのステータスが強化され、その速度は同じく形態変化した空兵龍SOLに迫るほどだ。
空兵龍SOLの高速の手刀を左手で受け流し、隙が生まれた胴体へ右手で殴り掛かる。一度の攻撃で何度も拳を叩きこむ。同じ場所に正確に打ち込まれる数十回の拳による攻撃に空兵龍SOLが一瞬怯む。その瞬間にさらに懐に潜り込んだリオンの右手が攻撃特化形態へ瞬時に変化を終えると同時に打ち込まれる。
吹き飛ばされた空兵龍SOLに一瞬で接近したリオンによる追撃が始まる。空兵龍SOLはリオンの攻撃をかろうじて回避しているが、攻撃を与える余裕がない。何度か回避に失敗したことで着実にダメージを負っていく。
生まれたばかりの空兵龍SOL。サービス開始からこれまで多くの戦闘を経験したきたリオン。戦闘経験の差がこの戦いを一方的なものにしてきた。空兵龍SOLにも戦闘の経験がないわけではない。しかし、それはかつて厄災として戦った経験のみであり、当時の厄災は空兵龍SOLのような高速戦闘を一度も行っていない。自身の中には高速で攻撃を仕掛けてきた敵に関する記憶がある。しかし、見たことがあったとしても、それができるとは限らない。それらの記憶だけを頼りにしている空兵龍SOLがリオンに届くことはないだろう。
「落っことされた途端に弱くなったな!」
絶え間なく攻撃を浴びせながらリオンが叫ぶ。突如海から現れた巨体には驚かされたが、すぐに意識を目の前の空兵龍SOLへと向け、攻撃を続ける。
「あっちもそろそろ終わるみたいだな……」
空兵龍SOLに止めを刺すべく、リオンは準備を始める。攻撃を止め、空兵龍SOLから距離を取る。攻撃が止み、空兵龍SOLは反撃すべく、リオンを探すがその一瞬が命取りとなる。助走距離を取ったリオンが走り出し、一瞬で空兵龍SOLの元へ到達する。超加速の勢いを乗せたリオンの右手の突きが空兵龍SOLの胸部に穴を空ける。
胸部に穴が開き、大幅に体力が減少した空兵龍SOLは今も絶えず自身の命が失われていく感覚を味わっていた。死に瀕した空兵龍SOLの頭の中にあるのは死への恐怖、それ以上の人類を滅ぼさなければという理由なき使命感。生き残るべく、空兵龍SOLは駆けだす。
「逃げた……?」
自身の速度を頼りにすれ違うプレイヤー達にも脇目も振らず、SOLが向かうのは――――――
沈黙する自身の分身たちのもとだ。
何かはわからないが危険を感じたリオンが空兵龍SOLを追うが、なかなか追いつけない。そして、追いついたときはもうすでに遅かった。
空兵龍SOLは自身の幸運に感謝した。なぜか目的の自身の分身たる海兵龍SOL、陸兵龍SOLのどちらも近くにいたからだ。ここに来るまでに何度か攻撃を受け、右腕は失われ、それ以外にも満身創痍な空兵龍SOLだが、2体の死骸をかき分け、目当てのものを発見する。それは2体の炉心。それを飲み込む。
『フェーズ2終了』
『フェーズ3開始』
突然のフェーズ3開始のアナウンス。それと同時に1か所に集まっていたSOL達の体に変化が起こる。空に浮かび上がった空兵龍SOLの体に海兵龍SOLと陸兵龍SOLの体が歪に変化し、つなぎ合わさっていく。みょーやツバキ達が攻撃を仕掛けるが2体の死骸に阻まれ、空兵龍SOLには届かない。肉壁となった体も変化し、取り込まれていく。
海兵龍SOLと陸兵龍SOLを無理やり混ぜ合わせたかのような巨大な下半身。そこに歪な両翼、つぎはぎの右腕を持った空兵龍SOLの上半身が合わさり、その姿はさながらケンタウロスのようだ。
『目標:三界兵龍SOLの撃破』
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