三界戦線 其の七
ピコパーク2のダークモードが難しい……。
空兵龍SOLの背中から現れたのはメイだ。どうやってメイが空兵龍SOLの背にいるのか。それにはメイが持つ「闇夜幻影」の影に潜り込む能力が関係している。
光来撃で接近する前にメイは俺の影に入り込んでいた。そして光来撃で空兵龍SOLの頭上へと移動した俺の背に浮かぶのは太陽。太陽の光が空兵龍SOLの背中に影を落とす。
「なかなかズルい技だよな……」
影をいい感じに落とさなきゃいけないから使える場面は限られるが、それでもやってることは長距離ワープみたいなものだ。正直、ズルいと思うし、よく見つけたと思う。それにしても――――――
「焔の仮説、当たってたな」
今俺の手には二振りの刀が握られている。左手には朧を、右手には鬼牙「怨風」。焔の仮説、「厄災」はあれこれ恨みを買っているだろうから鬼牙「怨風」の怨念やら何やらを攻撃力に加える効果もすごいことになるだろうというのは正しかったようだ。現に鬼牙「怨風」が鬼火みたいな炎でやたらと燃えてる。こっちに燃え移ってこなきゃいいけど……。
「やるぞ!」
「ええ」
メイが操る糸が空兵龍SOLの体にまとわりつき、身動きを封じる。そして俺は落下のエネルギーを乗せ、両手の刀を胸部目掛け振り下ろす。メイのおかげでちょうど目の前にSOLの胸部が迫っている。
「くらえ!」
金属同士がぶつかる音が響く。手ごたえはある。このまま押し切る……!
少しずつ胸部の装甲を斬り裂いていく二刀だが、後一押し、パワーが足りない。何か新たな勢いが欲しいところだ。だったら――――――
「MP全部もってけ。光来撃!」
今度は地面へ向けて光来撃を発動する。残っているMPを全て使っての光来撃による超加速。その勢いを乗せた刀は装甲を斬り、そしてその奥にある空兵龍SOLのエネルギー源にダメージを与える。
空兵龍SOLの胸部にあるリアクター「空兵炉心」は夜火が持つ魔力炉心の完全上位互換とも言える臓器だ。そこから生み出される莫大な魔力はレーザー、ミサイルの発動、空中への飛行など多岐にわたって空兵龍SOLを支援している。無限と言ってもいい莫大な魔力を生み出す空兵炉心にも弱点はある。
かつてとある存在を模して造られたその炉心は、莫大な魔力を際限なく生み出す。空兵炉心は常に満杯のグラスのようなものだ。それゆえに何かしらの方法で魔力を消費しなければキャパを超えて悪影響を及ぼしかねない。そんな炉心に傷がついたことによって――――――
膨大な魔力は溢れ出し、膨大な魔力ゆえに成立していた空中からひたすら爆撃を繰り返すという空兵龍SOLの戦法が成立しなくなる。
突然リソースに制限が生まれたSOLは滞空を維持することよりも外敵の排除を優先する。自身の炉心に傷をつけた夜火目掛け攻撃を仕掛けようとしたところを漆黒のドームが阻む。
そのドームの上に立つのはメイだ。
「さて、後はこれを重力に任せて落とすだけね」
空兵龍SOLは現在、全てのリソースを攻撃に割いている。漆黒のドームは壊しても壊しても修復され、空兵龍SOLは地面へと落下していく。ドームの中ではメイの影が生まれては翼に攻撃を加え、そしてSOLによって倒されていく。そんなことが繰り返されている。
「私はなんとでもなるけど……、彼は大丈夫なのかしら」
空兵龍SOLのことなど気にもせず、彼女は目の前で地面へ向かってすさまじい勢いで落下していく友人を心配していた。
魔力はないから朧を上手く使って落下ダメージをどうにかすることもできないな。まあこうなるのは覚悟していたし、これはゲームだ。とはいえ、ひも無しバンジーは怖いだろう。メイもうまくやってくれたようだから、あいつを落とすという目標は達成できただろう。まあ及第点だ。全力で走れば戻れるだろうし、デスペナルティはあるが雑魚の処理ぐらいなら何とかこなせるだろう。
そうしてリスポーンのことを考えていたら、突然体を掴まれた。
「あれ?」
「だ、大丈夫?」
以前も見たヨミの加護による身体強化。それによって急いで駆けつけてきてくれたヨミにお姫様抱っこみたいな形で受け止められていた。死にそうだったところを助けてくれた命の恩人であり、加護によって発生した天使の輪っかと羽も相まって、一瞬迎えが来たかと勘違いしそうだった。
「えーと。助けてくれてありがとう……」
「う、うん。無事でよかった」
「それで……。その……、おろしてもらえる?ちょっと恥ずかしい」
「あ!ごめんね」
まさか女子にお姫様抱っこされるとは……。なんて考えているうちに、あっちも到着したみたいだ。
すさまじい衝撃と共に地面へ激突した漆黒のドーム。そこから現れた空兵龍SOLの眼は怒りに満ちている。奴の体を空へと留めていた翼はボロボロだ。これでまともに空は飛べないだろう。
空兵龍SOLは自身のレーザーで胸部を無理やり溶接し、魔力が溢れるのを抑える。翼は使い物にならないと切り捨てる。今空兵龍SOLの中にあるのは、自身を地へと落としたもの達への怒りだけだ。体に何か所かあるエンジンに魔力を回し、自身が現在出せる最高速度にて外敵を葬る準備を始める。
高速で接近し、首を刎ねようとした空兵龍SOLの攻撃は一人のプレイヤーによって遮られる。
「やっと降りてきてくれたな……!」
獣魔王の拳が空兵龍SOLの肉体へ振るわれる。
割と前から書きたかったところだったのですが、ようやく書けましたね。まだ書きたい場面はありますけど、そこにたどり着くのはいつになるのやら。
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