三界戦線 其の四
「どうします、リーダー?なんとなくはわかりますけど」
「流石みょーくんだ。僕たちは斬る以外の戦い方を知らないからね。まあ、陸兵龍一択だろうね」
「ですよね。じゃあ行きますか」
陸兵龍SOLの攻撃によって地上は荒れ果てている。そんな中、冷静に作戦を立てている集団の中に「剣神」みょーはいた。
「ひとまず一回攻撃してきます」
そう言って走り出したみょーは瞬く間に陸兵龍SOLへと接近し、その背に刀を振るう。しかし、その攻撃は陸兵龍SOLの鱗に傷をつけるのみで、大きなダメージにはなっていない。
「どんな感じだった?」
そうみょーに問いかけるのは彼が所属するクランのリーダー、キリ3。
「うーん。傷がついただけですね」
「なるほど……。君でも斬れないなら相手はかなりの強敵ってことだ」
「やたらめったら斬ったところでどうにかなりそうでもない感じですよ」
「だろうね。よし、僕たちは所々にある装甲と装甲の隙間とみょー君が傷をつけたところにひたすら攻撃していこうか。みょー君は自由に戦っていいよ」
「わかりました」
陸兵龍SOLはまさに動く要塞である。海兵龍が鯨ならこちらは巨大な亀のような姿をしている。全身は堅固な装甲で覆われ、山のように盛り上がった背には無数の砲門が、そしてその頂上には巨大な大型の大砲が1つ備えられている。
装甲の重量による影響で動きは速くないが、高い防御力、的確な射撃能力、巨大大砲による範囲攻撃に多くのプレイヤーが苦戦している。
「なかなか厄介だな」
接近し攻撃を仕掛けても、堅固な装甲がそのダメージを大幅に減らしてしまう。装甲と装甲の隙間からわずかにのぞく肉体も一定の強度を持っている。装甲を破ろうと至近距離で攻撃を仕掛け続けようにも陸兵龍SOLは自身へのダメージを気にすることなく、砲撃を仕掛けてくるため、定期的に距離を取らなければいけない。陸兵龍の装甲は外敵からの攻撃を防ぐためだけのものではない。自身の攻撃にも耐えるためにも頑丈なものとなっているのだ。
プレイヤー達の攻撃は決して無意味なものでない。少しずつだが、確実にダメージを与えることはできている。陸兵龍SOLがダメージを受けてもそれを気にする素振りがないがゆえにわかりにくくなっているだけだ。
かつての戦いで厄災は「神」の力を持つもの達に苦しめられた。防ぐことのできない斬撃。無から万物を想像する魔法の力。打ち破ることのできぬ武の才。様々な「神」のごとき権能は厄災の肉体を大きく傷つけた。
蘇ったSOLは肉体に残されたかつての記憶から「神」の力を持つ者への対策としてその権能を無力化するべく自身の肉体に特殊な耐性を付与した。しかし、その耐性は急造のものでしかなく――――――
――――――体力の減少に伴い、弱体化を始めていた
「さっきよりも脆くなってるな……?」
何度も攻撃を続けていたみょーがその変化に気づく。
「ダメージかな……?それなら……」
みょーの攻撃がさらに素早く、速くなり、陸兵龍SOLへダメージを与えていく。攻撃を受けるほど、つまりダメージを負うほど、少しずつ陸兵龍SOLの装甲に刻まれる傷は深く、そしてその数は増していく。
「よし、行こうか」
そう言うと同時に、キリ3は走り出し、陸兵龍SOLの眼前で大きく飛び上がる。あっという間に陸兵龍SOLの背中よりもさらに高く跳躍するキリ3。右手に持つ愛刀を両手で握りなおし、落下の勢いを乗せた一刀が陸兵龍SOLの背中の主砲に迫る。
陸兵龍SOLは主砲から攻撃を放つと同時にその巨体を動かし、自身の主砲を守らんと動き出す。主砲から放たれた砲弾はキリ3にぶつかり、爆発する前に何者かによって切断されてしまう。本命である主砲の防衛には成功した。しかし――――――
爆風をかき分け現れたキリ3の刀が、背中の側面に刻まれた傷へと迫る。大勢の攻撃を受け、比較的脆くなったその装甲に叩きつけられた一撃は、装甲に大きな亀裂を生み出す。地面に着地したキリ3の攻撃はまだ終わっていない。全力の踏み込みから放たれる斬り上げる攻撃が、先ほどの亀裂に再びぶつかり――――――
――――――装甲の一部は砕け、背中の側面の肉体がむき出しになる。
むき出しの肉体というわかりやすい弱点が生まれたことでプレイヤー達の攻撃はさらに勢いを増していく。装甲に防御面を一任していたがゆえに、陸兵龍SOLの肉体の防御性能はあまり高くない。砲撃をものともせず、果敢に攻め続けるプレイヤー達の攻撃は陸兵龍SOLのHPをどんどん減らしていく。
「今なら……いけるな……」
SOLが所有する神への耐性。装甲の破壊とそれに伴うダメージの増加によって、その耐性は完全になくなった。
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