三界戦線 其の三
ここから視点があっちこっち行きます。
「ツバキ、うちらはどうする?」
「海の方に行きましょうか。地上の方はみょーくんやリオンちゃんがなんとかしてくれるでしょうし」
『魔導王』ツバキは海岸へ向かって歩き出す。
『剣神』みょー、『獣魔王』ツバキ、プレイヤーの中でも最高峰の攻撃力を誇る彼らは近距離での戦闘をメインとしている。地上と海中では体の動き、戦い方は大きく異なる。海中での戦闘で彼らが本来のスペックで戦闘できるとは限らない。そのうえ、地上には2体の強力なモンスターがいる。であれば、魔法による戦闘がメインの自分が海中の敵を請け負い、2人には全力で地上の強敵の相手をしてもらった方がいいというのが彼女の考えだ。
「ふむ。どこにいるのかはなんとなくわかりますが、一度しっかりと姿を見ておきましょうか」
魔法【地平を見る眼】の効果によってツバキに暗視効果が付与される。
「なるほど……、大きいですね」
海中に潜む海兵龍SOLの容姿は龍というよりも、クジラのような見た目をしていた。クジラの巨大な体に鋼鉄の装甲や様々な武装を装備させたような姿、というのがツバキが抱いた印象だ。
「相手もこちらに気づいたようですね」
海中の海兵龍SOLも自身の存在に気づき、撃破すべく動き出した者たちの姿を確認した。
「攻撃、来ますよ」
ツバキたちは魔法による暗視効果によって海中の様子を鮮明にとらえている。彼女たちが見たのは無数の魚雷群。
「あれがさっきの揺れの原因でしょうね。同じことをされても困りますし……」
ツバキが杖を呼びだし、魔法発動の構えを取る。
「【アイシクル・ランス】」
海中に展開された無数の魔法陣から氷の槍が撃ち出され、魚雷を迎撃する。海中で魚雷が爆発し、いくらかの衝撃が起こるが、最初のものと比べれば圧倒的に衝撃は小さい。
「なるほど……。何かぶつけるだけで魚雷は何とかできそうですね。とはいえ―――」
海中で起きた爆発の煙をかき分け、新たな魚雷群が海岸に迫っている。
「―――厄介ですね」
海岸に集まっている他のプレイヤー達も各々の攻撃手段を用いて、海兵龍SOL目掛けて攻撃を仕掛けているが、ほとんどが膨大な数の魚雷に阻まれてしまう。魚雷の壁を越えたとしても海兵龍SOLの持つ装甲が自身へのダメージを軽減する。
「コンちゃん、少し魚雷の相手を任せてもいいですか?」
「ん?」
「本体に攻撃しようと思います」
「了解、任せて。【ロック・バレット】」
海中に新たに展開された魔法陣から氷の槍と入れ替わるように、岩石の弾丸が撃ち出され、魚雷を迎撃していく。そして、ツバキは海兵龍SOLへの攻撃の準備を始める。
「耐久がどれほどのものかわかりませんし、まずはこれぐらいから―――」
ツバキが杖を掲げると同時に、海中に潜む海兵龍SOLの上空に無数の魔法陣が展開される。
「―――【グレイシャル・スピナー】」
ツバキが魔法の発動、そのトリガーとなる魔法の名を唱えた瞬間に魔法陣からアイシクル・ランスをより鋭くしたような氷槍が高速回転しながら海中へと射出される。その勢いは弱まることなく、海兵龍SOLの死角から接近し、衝突する。
「ふむ……。しっかりとダメージは与えられていそうですね」
ツバキの魔法によって海兵龍SOLが怯み、攻撃の手が緩くなる。多くのプレイヤーがここぞとばかりに大魔法による攻撃を試みる。
魔法の発動には、原則として「詠唱」が必要である。より強力な魔法の発動にはより多くの詠唱が必要になる。
つまり、大魔法発動の準備中は限りなく無防備に近い状態となるのだ。
「まずい……!」
まるでこの瞬間を待っていたかのように海兵龍SOLが大量の魚雷を撃ちこむ。
「コンちゃん、魚雷は任せてください。できるだけ撃ち落とします。その間に……」
「何かあった時用の準備ね、任せて」
「【アイシクル・ランス】」
氷の槍と魚雷がぶつかり合い、海中で爆発が何度も起こる。誘爆する形で魚雷は数を減らしていくが、それでも足りない。アイシクル・ランスは低燃費で使える魔法であるが、その攻撃の軌道は単調である。基本的に真っすぐにしか撃ち出せないが故、撃ち漏らしも発生してしまう。
「くっ……」
撃ち漏らした魚雷が海岸にぶつかり、爆ぜる。海兵龍SOLへの攻撃のために海岸に集まっていたプレイヤー達の足場が崩れ出し、不安定になる。何人かのプレイヤーは海へ落下する寸前だが———
「よし!【グラウンド・ロック】!」
コンが事前に準備していた魔法「グラウンド・ロック」は効果範囲内の地面を強化し、破壊されにくくするという効果を持つ。その際、崩れかけている地面などに対しては土を生成し補強、修復する効果がある。この効果によって崩れかけていた地面が海へ落ちることを防ぐ。
「間に合った……」
「ありがとう、コンちゃん」
ツバキや一部のプレイヤーが魚雷を防いだことにより、他のプレイヤー達の大魔法は海兵龍SOLに命中したが依然として海兵龍SOLの攻撃が止む気配もなく、どれだけのダメージを負っているかも定かではない。
「さて、根競べといきましょうか」
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