剣神
スマホで剣神って打つと絶対予測変換に原神って出るんですよね。
「さあ、始めようか」
そう話しかけてくるみょーの声はつい先ほどまで食事をしていた時と変わらない優し気な声色で、それとは対照的な威圧感に頭がバグりそうになる。
「はい。お願いします」
そうして返事をすると同時に試合開始のカウントダウンが鳴り出す。剣神の2つ名の通り、彼の使う武器は剣、俺と同じ日本刀だ。彼は既に腰の刀に手をかけている。抜刀からの攻撃に備え、装備した朧を鞘から出して構える。ステータスに差はあれど、攻撃を防ぐことはできるはずだ。
試合が始まる。
予想通り、接近してくるみょーの狙いは首。首目掛けて抜かれた刀を防ぐため、こちらも朧を振るう。
次の瞬間、俺の首は斬り飛ばされていた。
「はあ……」
「そんなに落ち込むなよ」
だって……、まさか朧が豆腐のように斬られてそのまま首が飛ばされるなんて思わないだろ。
「あれ、どういう原理なんですか?」
「特別に教えてあげよう。職業の能力だ」
「ええ……」
あのレベルの切断能力を与えるとかどんな職業だよ……。
「剣神、それが俺の職業だ」
「2つ名じゃないのか……」
「職業がそのまんま2つ名にって感じだよ」
職業「剣神」
その名の通り「剣の神」、その領域に達したプレイヤーに与えられる職業である剣神が持つルールは「絶対切断」。文字通り全てを斬る力だ。
「絶対切断とかチートじゃん……」
「絶対切断なんて大層な名前だけど、そんな便利なもんじゃないさ」
「うそだぁ……」
「本当だよ。効果が十分に発揮されるのは格下にだけだからな。リオン先輩辺りには効果が薄いしな」
「それは絶対切断ではないのでは?」
「うーん。斬れてないわけじゃないんだよ。ただお前みたいにスパッとはいかないって感じ」
「斬れてはいるけど、その程度は相手の実力次第……って感じですか?」
「まあ、そうだな。それに同じ次元の相手にはそもそも意味がないしな」
「同じ次元?」
「ああ、同じ神の名を冠する職業、あるいはそのレベルの職業にはな」
「職業にもランクがある、と?」
「ああ。そもそも格上か格下かの判断は職業のランクで決まってるみたいなんだよ」
「なるほど……。ちなみにその神クラスは何人いるんですか?」
「俺を含めて今のところ2人しかいない。ただリアルが忙しくてログインできてないから実質1人みたいなもんだな」
「それでその職業は?」
「武神。あの人は凄かったよ。俺もリオン先輩もあの人には一回も勝ててないからな」
「マジで……?」
「ああ、マジだ」
「にしても剣神か……。狙ってみようかな?」
「あー、やめといたほうがいいと思うぞ」
「ええ……。強そうなのに……」
「まあまあ、話は聞けって。おすすめしない理由はいくつかある。まず、確定したわけじゃないが条件が死ぬほどめんどくさい。それに絶対切断目当てならそんなに便利じゃないからやめとけ。最後に――――――」
「剣神や武神みたいな職業は一つしか就くことができない。今後のアップデート次第では剣神以上にお前向きのも見つかるはずだ。だから、やめときな」
「そう言われると納得せざるを得ないな……。ちなみに剣神の就職条件は?」
「あー、検証したわけじゃないんだが……。多分、プレイ開始時から剣系統武器だけを使用し続けたうえで、闘技場とかの戦闘で勝ち続ける、辺りが条件だと思ってる」
それが本当なら、もう最初の条件満たしてないな、俺。おとなしく別の神級職業とやらを探すかな。
「さて、お礼をしなきゃな」
「そういえばそうだ。何かくれるんですか?」
「うーん、まあいくつか素材はあげるけど……。あ、そうだ。刀って今後もメインで使う予定か?」
「そうですね……。多分?」
「まあ、いいや。剣術スキルってあるだろ?あれを教えてもらえるおすすめの場所を教えてやるよ」
そして、色々な話を聞いたを聞いた後に解散、その日はログアウトした。
翌日の大学。美夜と2人で話していると―――――
「お兄ちゃんと会ったんだってね。今朝聞いたよ」
「ああ。昨日の夜、みんなと別れた後にな」
「変なこと言ってなかった?」
「特に言ってなかったよ」
「良かった~。それで今日は午前中で講義は終わりだけど、午後の予定は?」
「リオンさんのクランに行く予定」
「そっか。私は何しようかな。ゲームするのは決まってるんだけどね」
「なら一緒に来る?」
「いいの?莉緒さんにはお兄ちゃんがお世話になってるし……。うん、ついて行ってもいいかな?」
「全然いいよ。というか、本当にあの2人って先輩、後輩の関係なんだな」
「そうだよ。たまに勉強を教えてもらったりもしたな~」
「へえ~。あ、時間だ。残りの講義も頑張るか」
「そうだね。頑張ろう!」
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