頂は遠く
おそらく、あれの装備が本来の装備なのだろう。試合の時よりも見た目が派手な気がする。ただ、装備よりも目を引くのは、リオンとじゃれているモンスターだろう。別にテイムしたモンスターとじゃれているのは珍しくもなんともない。現実の動物みたいなモンスターだって多くいて、そういったモンスターとの触れ合いを目的としてプレイしている人も一定数いるらしいからな。ただ――――――
そのじゃれているモンスターがどでかい虎、鷲、ドラゴンとなると話は別だ。
何あれ?すごいなついているんだろう。めちゃくちゃ甘えてるけど、見た目の威圧感がヤバイんだよ。え?俺、今からあれとも戦わなきゃいけないの?いや、わかってはいたけどさぁ……。画面越しと実際に見るのとじゃあ全然違うでしょう?
「さて、さっさとやろうぜ」
「え?ああ、はい。お願いします」
危ない、モンスターに気を取られてた。うし、気合入れていこう。
試合が始まってすぐ、闘技場に響くのは――――――
「ああああああ!ヤバイ!死ぬ!無理!」
夜火のなさけない声だった。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。無理、どうやっても勝てる気がしない。地上は虎、空中はドラゴンと鷲の2体が固めてるせいで、まずこいつらをどうにかしないと近づけもしない。幻霧はなぜかドラゴンのブレスで燃えて無効化されるせいで、まともに機能してない。分身もあっという間に殺される。どうすんだよ、これ。
こうなりゃ、やけくそだ……。勝てずとも爪痕は残してやる……!あの、モンスターどもを出し抜いてどうにか1回、リオンにダメージを……!
「フラッシュ・リペア!」
光が有効かは知らん!幻霧が意味ない以上、これぐらいしか相手の視界を奪う方法がないんだよ!スキル全ぶっぱ、装備の効果も起動。これが今出せる全速力だ。
「うおおおお!?」
虎の攻撃をはじき、ドラゴンのブレスを躱す。強襲してくる鷲の攻撃も避ければ、後はリオンに向かって全力ダッシュするだけ。クッソ!すげえ余裕そうな顔してるな。まあ、当然か。レベルも装備にも差がありすぎるからな。あの防具の上からじゃ、ダメージを与えられないかもしれない。だから、狙うべきは露出している肌の部分だ。
拳を握り、力を貯める動作をするリオン。そこに全速力で向かっていく。一切、制限されていないリオンの拳を――――――
なんとか回避し、決死の一撃を放つ。
しかし、夜火の刃が届くよりも先に、衝撃波によって夜火の体は消し飛んだ。
「はあ……。衝撃波だけで吹き飛ばされて負け、と」
もう少し耐久を上げるか?いや、耐久を上げても耐えられるとは限らないか。スキルのエフェクトも確認したし、手も変形していた。あれが全力なんだろう。あれがプレイヤー最高峰の実力、か……。あのレベルの攻撃を回避したうえで、俺もできるようになればプレイヤー最高峰に近づいたってことか。先は長そうだ……。
「夜火って言ったか?エキシビションマッチは楽しかったぜ。今のは……、うん。頑張ったな」
「はあ……。ハンデがないだけでこんな一方的な試合になるんですね。あのモンスターたちも強かったですし」
「虎太郎は結構前から一緒にいるし、ミストもキングもしっかり育てたからな」
「はあ……。まだまだってことですね」
「時間の差は簡単には埋められないさ」
「そうですね」
「それで?これから先はどうするんだ?」
「そうですね……。正直、何も考えてないです。とりあえずは今日の大会が目的だったんで」
「そうか……。特に予定が決まってないなら王国に行きな。あそこがとりあえずのゴールだ」
王国……、か。確か、今いる大陸の中央に位置している国だっけ?中央にあって、いろんなところに行きやすいからって理由で活動の拠点にするプレイヤーも多いのだとか。
「じゃあ、とりあえずはそこに行くことにします。友人に相談してからですけど」
「ああ、そうしな。よかったら、王国にあるうちのクランの拠点にでも寄ってきな。歓迎するぜ」
「機会があれば、ぜひ」
「じゃあ、そろそろ帰らせてもらうな。友達との待ち合わせがあるからな」
「わかりました。今日はありがとうございました。いつか、リベンジしに行きますから」
「ああ、楽しみにしてるぜ。またな」
そうして、PVP大会は幕を閉じた。
そろそろ1章が終わります。