獣魔の王 其の四
こっちもだが、相手も残りHPは決して多くはないだろう。ここからズルズルと試合を長引かせた場合、負けるのは確実にこちらだ。だからこそ、次で決める。
頭の中でプランを組み立てる。相手がこちらの想定通りの動きをするとは限らない。それでも後は決めた通りにやるだけだ。MP、スキル共に準備はできた。
加速系スキル、そのほとんどを起動させる。スキルの力によって強化されたAGIを持って、今日何度目かもわからない相手への接近。足に力を込め、全力で地面を蹴り、駆ける。スピードはどんどん上がり、現状出せる最高速度へ。
接近すれば当然攻撃が飛んでくるが、今の速度なら回避できる。止めまでもっていくためのピースは揃っている。左手に握っているラスティ・ホワイト。こいつの力には何度も助けられた。
今回も頼むぜ。
「フラッシュ・リペア」
その一言でラスティ・ホワイトは刀身に蓄えた魔力を解放する。それと同時に――――――
ラスティ・ホワイトを空中へと放る。
◇◆◇◆◇
剣を片方捨てた?なんで――――――
っ……、この光が狙いか?視界がぼやけてるな……。だが、全く見えないわけじゃない。目の前にいるのはわかってる。
刀を抜こうとしている夜火へ右腕を振るう。
「ちっ、また分身か!」
目の前のこれが分身なら本体は?
「後ろか!」
左手の裏拳による迎撃を選択。
自身の背後に突如現れた夜火の攻撃が到達するより先に攻撃を当てる……!
「?」
確かに手ごたえはあった。さっきのように攻撃がすり抜けるような感覚はなく、間違いなく今の攻撃で体力は削った。それでも試合終了のアナウンスがないということは――――――
「これも分身……!」
本体は今、私の後ろか!
振り向き目の前に迫る刃に対抗するべく、無理やりにでも左手を動かす。
刀と拳はぶつかりあい、拮抗する。
力勝負なら、こっちのもんだ……!
「終わりだ!」
突然、背後に走る痛み。それは目の前の刃を押し返すと同時に発生し、リオンの残っていたHPを奪い去っていった。
「な!?」
振り返れば、そこには刀を振り下ろした夜火の姿。
「やるな……」
◇◆◇◆◇
少しだけ意識がラスティ・ホワイトに向いたな。
発光によって相手の視界が奪われたその一瞬、その一瞬の間に「風魔朧脚」を発動。それと同時に朧影「彼岸」を発動し、その場に分身を残し相手の背後へ。
風魔朧脚の効果はまだ俺に適応されている。しかし、新たに出した分身にはスキルの効果は一切適応されていない。それを生かす。
背後へ回った時、最初の分身が抜刀しようとしているのが目に入る。あっちは「彼岸」、実体はない。今度は「此岸」、実体のある分身を2体生み出す。目の前で最初の分身が消されたのを確認し、「風魔朧脚」の効果が残っているうちに、振り向いた相手の背後へと回る。新たに生み出した分身が同じように刀を抜き放つが――――――
くそ、さっきの不意打ちで終われば楽だったが、そうはいかないか。今度は俺の番だ。
攻撃系スキルの効果を乗せ、腰から朧を抜き放つ。
ちっ、これにも対応するか……。剣と拳のぶつかり合い。スキルによって強化してもなお、押し負けそうになるほどの一撃をなんとか踏ん張って耐える。
「終わりだ!」
確かにこれで終わりだ。初めから押し合いになったら勝てないのはわかっていた。だからこそ――――――
これで終わりじゃない。
今だ。決めろ……!
「風魔朧脚」によって潜伏していた最後の分身。それは突如、リオンの背後に剣を振り下ろしながら現れた。
あと少し遅かったら死んでたかもな……。だけど、これで――――――
「俺の勝ちだ」
エキシビションマッチ勝者:夜火
そうして大会は無事終了した。表彰式みたいなのもあったが、特に何か面白いことがあったわけでもない。それにまだ俺の大会は終わっていない。
「お待たせしました」
「そんなに待ってないから気にすんな」
観客もいない闘技場。それにいるのは2人のプレイヤー。
夜火とリオンだ。
今回の大会は得るものが多かった。このゲームにおける対人戦の経験に優勝賞品もそうだが、何よりも現在最強クラスのプレイヤーとの対戦は得難い経験だ。
リオンとの戦いで、ステータスやスキルが同条件かつこちらの手が一部知られていない。そんな状況であればプレイヤー最強にも手が届くことがわかった。
だが、相手にハンデがない状態であれば結果はどうなっていただろう。当然、勝ち目はほぼない戦いだ。しかし、ストーリーも始まる今、俺と最強のプレイヤーにはどれだけの差があるのかを知りたい。
だから、こうして個人的に試合を申し込んだわけだ。
闘技場最強のプレイヤー【獣魔王】リオンに。今度は一切のハンデ無しで。