獣魔の王 其の一
リオンの胴を斬って、すぐに納刀。「ラビット・フット」を発動しながら後ろへと飛び下がる。さっきまで俺がいた場所は眩暈が解除されたリオンの拳によってえぐられている。
「やるじゃねぇか……!」
今の一撃で色々わかったな。とりあえず、AGIに関してはスキル込みで多分こっちの方が上だ。逆にSTRとVIT辺りはあっちの方が高いだろう。一応手持ちの武器では火力が出る狼牙で斬ったのに大した傷にはなってなさそうだし。
「よし、今度はこっちの番だ。死ぬなよ?」
「っ……!」
さっきまで遠くにいただろ……!高速で接近し、腹部目掛けて飛んできたリオンの拳を狼牙で受ける。それと同時に後ろへ跳ねることで衝撃をどうにか減らす。
「馬鹿力かよ……」
華奢なアバターから放たれた拳。受け止めた手に伝わる振動がそのアバターに似合わない筋力を持ち合わせていることの証明だ。
「まだまだ行くぞ!」
「はっ!?」
顔に飛んでくる右の拳を最低限の足運びで躱す。次に胴体目掛けて飛んでくる拳をしゃがんで躱し、立ち上がると同時に刀による突きで相手の腹部を狙う。これはバックステップによって躱される。
「今度はこっちの番だ」
「阿修羅乱舞」発動。スキルのアシストを受けた状態での刀による連続攻撃。スキルエフェクトによって赤く染まった刃を振るう。
しかし、そのどれもがリオンの胴体へと届くことはない。こちらの攻撃、その全てが同じくスキルエフェクトを宿した腕によって阻まれる。スキルの効果時間は10秒。10秒間の乱舞を腕一つで凌ぎ切るとか……、どんな反射神経だよ……。
「どうした、それで終わりか!」
「ちっ……!」
正拳突きが迫る。スキルは間に合わないか……?仕方ない。
「ぐっ……」
正拳突きを受け止めた左手が悲鳴を上げる。とっさに距離を取り、左手の状態を確認する。よし、動かせるな。少し痺れてるが武器を振るうのには問題ない。休んでいる余裕なんてものは存在しない。再び飛んでくるリオンの拳を迎撃しなくちゃならない。受け止めるにはSTRもVITも心もとない。あのSTRだ。はじくのも容易ではないだろう。ダメージを最小限にするなら受け流すか回避の2択だ。狼牙で相手の腕の側面を斬りつけ、攻撃の軌道を変えるように受け流す。
相手の背後に回った……!スキル「斬首忍刀」。相手の視界にいなければ、さらに相手に気づかれていなければその威力を上がるスキル。今この瞬間、リオンの視界から外れた今なら威力が上がっている。斬首、とあるように首へのダメージが高くなるこのスキルの力を宿した狼牙をリオンの首へと振るう。
「ふっ!」
「どんな反射神経だよ……」
今のにも反応するのかよ……。相手の首からは赤いエフェクト、血が流れている。ただし、刃は首に当たってすぐのところで前腕に遮られ、その首を断ち切ることはなかった。相手の前腕にダメージを与えることはできたが、これじゃまだ倒せない。左手による正拳突きをバックステップで回避すると同時に武器を変更。鍾鴉双刃による手数で攻める。
狼牙よりも取り回しがいい分、一回一回のダメージは減ったが攻撃回数が増えた気がする。にしても――――――
「人の手を斬ってるはずなんだけどなぁ……。なんで刃が振動するんだよ……」
スキルの効果が乗っているとはいえ一時的に金属レベルまで硬度が上がってるっておかしくない?
「なかなかやるな。ハンデがあるとはいえここまでやれるとは想定外だったよ」
「それは……、どうも」
「ここまで本気を出さなくて悪かったな。ここからは全力で行くから覚悟決めろよ?」
「ようやくか。覚悟ならとっくにできてますよ……!」
【獣魔王】それはリオンの2つ名にして、彼女が持つユニークジョブの名。それは決して獣の魔王という意味の獣魔王ではない。
それは獣魔、つまりは動物型モンスターの力を使い戦う王の称号だ。
リオンがこちら目掛けて駆けだすが――――――
「さっきより速い……!」
回避は間に合いそうにもない。鍾鴉双刃を体の正面に構え、攻撃に備える。相手の拳がぶつかり強烈な衝撃が伝わる。そしてその攻撃によって俺の体は闘技場の壁近くまで吹き飛ばされる。
「あれが獣魔王の力か……」
そこにいるのは先ほどまでの華奢な女性ではない。腕、そして脚。それらが獣のそれへと変化した姿こそがリオンの真の姿。
それなりに体力を持ってかれたな。にしてもあれでまだステータスにスキル、装備に縛りがあるのかよ。あとはテイムモンスターも加わるのか……。控えめに言ってヤバイ。本人が入手したときのこととあの獣の力のコピー条件を言いたがらないらしいから詳しいことを知るのは本人だけだとか。全く、恐ろしいな。トップレベルのプレイヤーってのは。
「んで、あれがユニークの武器、かな?」
さっきまでは素手だったはずのリオンの前腕には宇宙を思わせるような漆黒のガントレットが装備されている。とはいえ、さっきの攻撃で鍾鴉双刃の振動は最高潮。これなら間違いなく攻撃は通る。
接近して右の剣を振るう。しかし、この攻撃がダメージを与えることはなかった。鍾鴉双刃の攻撃は突如その形を不定形のスライムのように変化させたガントレットによって遮られ、刃の振動も抑え込まれてしまう。
「ヤバッ……」
武器を急いで収納し、距離を取る。拳の直撃は避けたがその衝撃だけで少し体力が削れた。
「こっちはこれで本気だ。そっちはどうなんだ?」
相手の性格をよく知っているわけではないが、嘘はついていないだろう。あれがこの試合における相手の全力。つまり、あれを倒せば俺の勝ちってことだ。ならもう隠す必要はない。全力で倒しに行くだけだ。
「来い、朧」
戦闘描写難しい……。どうにかして解像度が上がるよう頑張っていきたいです。