頂に座する者
「疲れたな……」
すごい歓声だ。控室みたいなところに戻ってきたがそれでも声が聞こえてくる。中には「あの銃について教えろ」みたいな内容の声も聞こえてくる。しばらくは質問攻めにあいそうだ。隠居でもするかなぁ……。使ったのは俺自身の意思だし、こうなることもわかってはいたけど――――――
「絶対これのこと知ってるプレイヤー他にもいるだろ……」
まあいい、切り替えよう。大事なのはこの後だ。
『30分の休憩の後、エキシビションマッチを開催します』
大会運営のアナウンスが聞こえる。闘技場では試合後、体力や耐久値がすべて回復するから特にそこら辺の準備は必要ない。とにかく今は休むだけだ。
「お疲れさまでした。優勝おめでとうございます」
「ん?ああ、シファだっけ。こちらこそ、いい勝負だったよ」
「よければ、フレンドになりませんか?」
「ああ、わかった」
『プレイヤー:シファからフレンド申請が届きました』
『Yes』っと。
「機会があれば一緒にパーティでも組んでどこか行くか」
「ええ、ぜひ」
なんとなく年が近い気がしてタメ口で話してるけど特に気にしてなさそうでよかった。
「勝てるかなぁ……」
「弱気ですね。さっきまでとは別人のようだ」
「流石に闘技場ナンバーワンプレイヤーが相手だし多少は弱気にもなるだろ」
「そうですね。とはいえ限りなく条件は同じです。勝機はあるでしょう」
今回のエキシビションマッチでは、あっちもレベルは50、スキルもレベル50相当までグレードダウンしている。はっきり言ってこっちからすればありがたい条件だ。とはいえ、相手には1年の経験の積み重ねがある。装備やユニークモンスターの討伐報酬なんかまでは制限されていない。
「まあ、やるからには全力を尽くすだけさ」
「ええ、頑張ってください」
「もちろん」
シファと別れ、再び一人となったわけだが、とりあえずこっちの手札を確認しよう。スキルはほとんど使った。隠しておきたかった「風魔朧脚」を使っているのは少し痛手だ。あれの効果は戦闘中の相手にしか適応されないとはいえ、シファの動きから効果を推測されていてもおかしくはない。武器に関してはまだ朧とラスティ・ホワイトが残っている。相手の出方にもよるが出し惜しみする理由もないし、積極的に使っていくつもりだ。朧の分身、ラスティ・ホワイトの発光に対応される前に決め切りたいが、そう簡単に倒せる相手ではない。どうやって倒したもんかなぁ……。
さて、時間か。【獣魔王】リオンについては少し映像で見ただけだが、ステータスもスキル構成も違うだろうし、まあ参考にはなんないだろ。ぶっつけ本番ってわけだ。
「ふぅ……」
どこまでやれるかはわかんないが、全力で勝利を掴みに行く。それだけだ。
あれが闘技場最強のプレイヤーね。観客席にいた時とはプレッシャーが大違いだ。すごいな、このゲーム。プレイヤーでも、あんだけのプレッシャーを出せるもんなのか。まあ、プレッシャー程度でビビる俺じゃない。
「初めまして、チャレンジャー。準備は万全か?」
「こちらこそ、初めまして。準備は大丈夫ですよ」
「そうか。ちなみにユニークは何体倒したんだ?」
「1体ですよ」
「よし、分かった。じゃあこっちもユニークの装備を使うのは1個までにしとくか」
「優しいですね」
「勘違いするなよ。勝負は拮抗した方が楽しいだろ?それにジョブはユニークのまんまだ」
「拮抗した方が楽しいっていうのは否定しませんよ」
「さあ、始めようか。夜火、全力で来いよ」
「当然です」
カウントダウンが始まったな。うし、やるか。
クラウチングスタートの姿勢を取り、試合開始の合図を待つ。
試合開始
その一言が聞こえた瞬間、腰に帯刀している狼牙に左手をかけ、リオンに向かって全速力で駆けだす。先手必勝!
「面白い……。かかってきな」
スキルと防具の効果のうち、AGIを上げるものを問題のない範囲で全て使い限界まで加速。眼前にはリオンの拳が迫る。リオンのメインウエポンはその拳。あの拳には命を刈り取るだけの力が存在している。
馬鹿正直に真っすぐ殴ってくれて助かった。拳を避けるようにさらに姿勢を低くし、相手の懐へ。反撃が飛んでくる前に、力を込めた右腕を相手の顎目掛けて振り上げる。
「くっ……!」
先手はもらった。「スタンインパクト」と鐘岩鴉拳の効果によって、相手を眩暈状態にしやすくなっていた俺の拳は正確にリオンの顎を打ち抜き、相手を眩暈状態にする。
振りぬいた右腕を刀の柄へと動かし、抜刀。
狼牙の刃は、眩暈によって立ち尽くすリオンの胴体へと振りぬかれ、その体に傷を与えた。
総合評価1000ポイントを超えていました。ブックマーク、評価をしてくださる皆様のおかげです。ありがとうございます。
用事も終わったので、少しずつ投稿ペースを上げていけるよう頑張ります。