決勝戦決着
シファの使うあの槍、実のところ使い勝手がいいとは思えない。というのもだ、あの超回転の発動は自由にオン・オフを切り替えることができない。現に槍には未だに風のエフェクトが残り続けている。相手の試合を見ていても別に効果を使う必要がない場面でもあのエフェクトが消えていないことがあった。俺が使えばおそらく持て余すだろう。だがそれは俺の話だ。あっちはどうかというと――――――
「ッ……!めんどくせぇ!」
「そちらの方こそ、ねっ!」
接近してきたシファは、まだ回転が残る槍を地面に突き刺し跳ねる。そしてそのまま、槍を回転の軸として利用し飛び蹴り。バックステップで回避をするが、シファが地面に着地すると同時に引き抜かれた槍が頭上から迫る。現状使えるスキルはほぼ残っていないが、まだ装備の効果がある。ストームロックグリーヴにMPを与え、その場から離脱。再び難を逃れる。
あの槍とシファのシナジーがとにかくヤバイ。下手にはじこうとすれば回転に体勢を崩される。突きに関しても回転によってドリルみたいなことになっているせいで押し切られる。そして槍の回転を巧みに組み込んだ接近戦。どれをとっても厄介極まりない。
「双剣じゃ分が悪いな」
「ようやく装備を変えるんですね。刀がメイン武器なんですよね?」
「まあ間違っちゃいないな」
サブの職業は侍だし、準決勝を見てれば刀が俺のメインウエポンだということは容易に想像できるだろう。とはいえ狼牙「疾風」は朧を隠す用に用意した代物だ。朧には及ばないがあれはあれでいい刀だ。装備を変更したことで腰に鞘と一本の刀が現れる。鞘から抜き放った狼牙「疾風」を構える。
しかし、俺の本命はこっちじゃない。
「度肝を撃ち抜いてやるよ」
度肝を抜くんじゃない。撃ち抜くのだ。文字通りな。
装備変更。残っているアクセサリーの枠にホルスターを装備。そして左手に構えるのは――――――
「BT-01、お前の出番だ……!」
銃器。それはウォーグ曰くガラクタ。しかし俺たちプレイヤーからすればそんなことはない。引き金を引いたことで打ち出された弾は真っすぐにシファへと飛んでいく。ちっ、驚きはしてもしっかり反応してくるか。槍で的確に弾をはじいたのは流石だな。こいつ自体の殺傷能力は大したことはないから牽制がメインの運用方法にはなってしまう。とはいえ弾を処理しながらさっきまでと変わらないパフォーマンスを披露するのは無理だろ。
観客がやけに騒がしいな。まあ無理もない。おそらくプレイヤーが作ったものを含めても限りなく最新のものに近いだろうからな。だが、驚くのはまだ早い。
「【再装填】!」
それは装備中のみプレイヤーに与えられる魔法。魔力によって弾丸を装填するその魔法は、リロードしている間に生まれる隙を限りなくゼロにしてくれる。まったく、ファンタジー最高だぜ。
「それズルくないですか!?」
「ズルじゃねぇよ!」
どれだけ撃ってもMPさえあれば弾薬は無限!これマシンガンとかに改造できれば最強かもしれないな。とはいえだ。さっきから弾が全く当たる気配がない。おかしいな、ボースター・クロウの素材を使って弾速を強化してあるらしいがそれでも当たんないか。まあ、狼牙でダメージは稼げてるからいいや。弾で牽制して斬るというのが今の戦い方だ。双剣のときよりかはダメージも与えられている気がする。
「片手でもそれだけ剣を扱えるなんてすごいですね!」
「ゲームだからな!」
そう言いあっている間にも刀と槍が幾度となくぶつかり合い、押し合いになる。片手じゃ押し合いは不利だな……。だがこっちの左手には現代兵器があるんだ。
「危ないじゃないですか!」
「勝つためならなんだってするんだよ!」
競り合ってるあの状況は銃を撃つには絶好のチャンスだろ。避けられたけど……。まあいい、それよりもそろそろいいか……?うーん、まだ早い気がするな……。あんま長く考えてる余裕はなさそうだ。シファが接近してくる。
「ちっ、もう少しのんびりやろうぜ」
「無理な相談ですね」
再び俺を襲う風を纏う槍。こっちはまだその槍への対策ができてないんだよ、こっちは。なんとなくは見えてきたけどな。結論から言えば、今の俺にはあれをはじくのは無理だ。あの槍、超回転のオン・オフは任意じゃないっぽいが、風の規模は自由らしい。はじこうとすると体勢が崩されるのは風の範囲が広げられて腕が風に巻き込まれるからだ。避ける以外の対策が思いつかないんだよなぁ……。
「ラビット・フット」を使ってジャンプし、上空へ。空中からひたすら撃ちまくる。そんな長い時間空中にはとどまれないが、なんとか凌いだな。
接近してくるところを弾幕で牽制。それでも接近してくるシファに対して剣を振るう。それを槍を支えに跳ね上がり、避けるシファ。空中じゃ避けられないだろ。撃ち込まれた弾丸が命中するが大きなダメージにはならない。
振るわれた剣を巧みに躱すシファ。振るわれる槍を機動力を持って避ける夜火。互いに一歩も譲らない攻防が続く。
よし、そろそろいいかな。狼牙を装備から外し、BT-01をホルスターへしまう。装備するのは鍾鴉双刃だ。さあ、行くぜ。
両手に握った双剣同士を打ち合わせ、衝撃を与える。何度も、何度も打ち合わせる。そうして、すさまじい衝撃を宿した双剣、その片割れを――――――
全力で投げつける。
「な!?」
そりゃあ驚くだろう。双剣は2本そろって真の力を発揮する武器といっていい。その片割れをいきなり投げつけるっていうのは2本のシナジーを放棄するっていうことだ。鍾鴉双刃であれば共振による振動の増加がそのシナジーに当たる。別に、何も考えずに投げつけたわけじゃない。
「これがBT-01のもう一つの姿だ」
BT-01 WCカスタム。WC、ウォーグ・クロウカスタム。こいつはボースター・クロウとロクァード・クロウの素材で改造されている。ボースター・クロウの素材によって弾速を強化する「モード・アイレ」とは異なるもう一つの姿「モード・ビブラシオン」。腰から抜き放ったBT-01に仕込まれた刃が展開され、銃剣ともいえる姿へと変化する。その刃は鍾鴉双刃とほぼ同じものだ。これで双剣のシナジー問題は解消されたが、まだ終わりじゃない。
投げた鍾鴉双刃はあっさりとはじかれ、地面へと突き刺さる。
その瞬間、フィールドを振動が襲う。
BT-01の弾は特別仕様で、ロクァード・クロウの素材ほどじゃないがよく振動を伝える。試合中何度も何度も撃ち続け、外した弾は何個も地面へと埋まっている。それらが地面に刺さった鍾鴉双刃の振動によって共振し、軽く地面を揺らす。地震ほどでないにしても足場が不安定になれば戦闘力も落ちるだろ。それはこっちも同じだけどな。揺れる地面の振動もどんどん小さくなっている。決めるなら今すぐにだ。
スキルの補正で無理やりにでも接近。あっちもここが勝負所と判断したんだろう。槍が風のエフェクトを纏っているのがわかる。先に動いたのはあっちだ。全速力の突きが飛んでくる。
最後はそれで来ると思った。鍾鴉双刃の刃の側面で槍の先端を受け止める。鍾鴉双刃の激しい振動は槍を伝い、シファの腕へと届く。これがなければとっくに押し負けていただろう。だが、槍を止めた時点でこっちのものだ。
モード・ビブラシオン、その真骨頂は――――――
振動を弾に乗せることだ。
銃の刃に蓄積された振動の全てを乗せた弾はシファの足元へと撃ち込まれ、再び地面を揺らす。槍と押し合っている刃を引き、地面へと突き刺す。鍾鴉双刃の柄は振動を伝えにくくできている。これで揺れた地面の振動を受けにくい足場の完成だ。鍾鴉双刃の柄を足場に「ダイナマイト・エンジン」を使い全力で踏み込む。シファへと肉薄し、左手のBT-01、そして呼び出した純白の剣を振りぬかんとする。
かなり地面は揺れてると思うけどなぁ……。シファの攻撃が飛んでくる。それでも反撃するのは流石だよ。だからこそ、こっちも切り札を切ろう。「風魔朧脚」、かつては使用者の気配を減らすスキルだったそれはここまでの経験を経て――――――
一時的に戦闘中の相手から姿を認識させなくする効果を得るに至った。
加速中だが、無理やりにでも地面を蹴って方向転換し槍を避ける。目の前で消えた俺に驚いている暇はないぜ。まだ残っている認識阻害とAGI強化によって再接近し、相手の背後を取る。
「楽しかったぜ」
純白の剣の刃がシファの首を断つ。
闘技場に残っているのは歓声と一人のプレイヤーのみ。
決勝戦勝者:夜火
ひとまずはこれで投稿。もしかしたら書き足すかもしれません。戦闘描写をもっと上手く書けるようになりたいですね。
ブックマーク、評価ポイント等ありがとうございます。気づいたらブックマーク300件も目前で驚いています。励みになっています。