決勝戦開始
中級とはいえ、決勝戦。多くの人が観戦のため闘技場に集まっている。
「はぁ~、流石にこんだけ人がいると迫力が違うな」
観客の熱気がこっちにまで伝わってくる。ん、あれが決勝戦の相手か。こっちに近づいてくる。決勝前にあいさつでもしに来たのか?
「初めまして、シファです」
「初めまして、夜火だ」
こいつがメイを倒したシファか。話すのは初めてだが、好青年って感じだな。年も近いんじゃないかな?
「すごい数の人ですね」
「ああ、そうだな。こんだけ盛り上がるってのはなかなかすごいよな」
「ええ、純粋に僕たちの戦いを楽しみにしている人がこれだけいるっていうのはなかなか嬉しいですね」
「まあ、そうだな。全員がそうとは限らないみたいだけどな」
「ですよね。何人か値踏みをするような視線を向けている方もいますね」
「クランの勧誘とかだろ。まあ、それよりも……。あれ、隠す気はないっぽいよな」
「ええ、まさに王者の風格といったところですね」
会場に入って感じた視線、気配は大きく3つ。試合を楽しみにする人、俺たちの実力を確かめようとする人、そして――――――
圧倒的な威圧感を放つ、【獣魔王】リオン
「王者様も見てることだ、いい勝負にしようぜ」
「ええ、もちろん」
さて、試合前の談笑もこれぐらいにしておこう。お互いに距離を取り、試合開始のカウントダウンを待つ。
さて、相手が構えた武器は槍だ。シファの持つ槍は一戦目から変わらず、彼は同じ槍を使い続けている。なぜ同じ武器だけを使っているのか、その理由はわからない。彼のプライドなのか、何かの縛りなのか。まあ理由はともかくとして彼は同じ武器――――――
ユニークモンスターの力を宿した槍を使い続けている。
能力を全部見せているとは思えないが、相手の構える武器は初戦から変わっていない。さて、こっちは何の武器を使おうか。
俺は彼と違って一種類の武器への強いこだわりというものはない。せっかく色んな武器があるんだ、どうせなら色々試したい。そういうスタンスゆえ、特定の武器へのこだわりはない。こっちもユニークを切るか悩みどころだが、王者が見ている手前ユニークを切って手の内を見せるのはなぁ……。
「よし、これで行こう」
「先ほどの刀は使わないんですか」
「ああ、ひとまずはこいつで行かせてもらうぜ」
俺が選んだのは、鐘鴉双刃。狼牙「疾風」でもいいけど、こいつを試してみたかったっていうのが一番の理由だが、槍相手なら多分こっちのほうがいい。
出し惜しみして負けるのは一番ありえない行為だ。やばくなったら手札は全部切るつもりだが、ある程度は手札を残して勝てるのがベストだ。さて、行こうか。
試合開始のカウントダウンが始まる。
3
2
1
試合開始
「行くぜ」
地面を蹴り、相手に向かって走り出す。シファも同様に走り出す姿が目に入る。
「フッ!」
槍による突き。正確に俺の胴体を狙って放たれたその槍は、圧倒的な速度で俺の体に吸い込まれるように放たれるが――――――
「はっ!それだけかよ!」
ただ速いだけじゃあ駄目だぜ。そんなの簡単にはじいて無力化できる。スキルの補正を乗せた刃はいともたやすく槍をはじき飛ばし、相手に隙ができる。こういう時、双剣は便利だ。槍をはじくために左手の剣は使ってしまったが、まだ右手が残っている。
さらに一歩前へと踏み込めばそこはもう相手の懐だ。右手の剣による突きを放つ。
「ッ!」
まあ決勝まで残ったプレイヤーがそんな簡単にやられるわけないよな。はじかれた勢いを利用し戻ってきた槍が、下から掬い上げるように俺へと迫る。「ラビット・フット」を発動し、地面を蹴り飛ばして空中へと身を投げ出す。空中で一回転し相手の後ろへ着地。振り返って左手を振るえば、同じように振り返り振られた槍の刃。2つの刃が激突する。
ガキイイイイイン!
刃のぶつかりあいによって発生した金属同士がぶつかる音。いったん後ろに飛び退き距離を取る。いやぁ、ここまでの相手も弱かったわけではないんだが、シファを倒すのは一筋縄ではいかなそうだ。再び接近し攻撃を試みる。
槍という武器の強みはやはりそのリーチだと俺は思う。剣を超えるリーチは槍の強みでもあり、弱みとも捉えることができるだろう。自分の体の近くで武器を振るうのであれば槍より剣の方がいいだろう。だからこそ、俺はどうにかして相手の懐に潜り続けて攻撃をしたいし、シファは適度に距離を取ろうとしている。
連続で放たれる突きを体を捻って避け、こちらから剣を振るえば瞬く間に使い手の近くへと戻ってきた槍の刃がそれを阻む。何度も繰り返される刃と刃のぶつかりあい。闘技場に金属同士がぶつかる音が響く。
「そろそろしんどいんじゃないのか?」
「どうでしょうね……」
「無理するなよ。これはそういう武器だ」
何度も刃同士がぶつかりあえば、その衝撃は柄を通して持ち手へと伝わっていく。その衝撃も何度も繰り返せばやがて武器を持つ手に疲労を蓄積させていく。俺が使う武器がただの剣であればまだまだシファも余裕そうだっただろう。だが、俺の持つ鐘鴉双刃はロクァード・クロウの素材をもとに生み出され、あいつの振動に関連する性質を色濃く受け継いでいる。幾度となくぶつかりあった漆黒の刃はその衝撃をその刃へと蓄え今も激しく振動している。そんな刃の攻撃を受け続ければ手もしびれてくるだろ。こっちのは刃の振動が伝わりにくいように設計されているので、あっちと比べれば振動によるダメージは少ない。
じゃあ、攻撃を武器で受けなければいいのでは?と思うだろうが、避け切れない攻撃は武器で受けざるを得ない。激しく振動する刃は音波カッターのようにその切断能力を向上させている。少し掠るだけでも触れればひとたまりもないのだ。
「どうした!使えよ、その槍の力をよ!」
「ええ……、そうします、よ!」
一見すればただの突きと何ら変わりない攻撃が俺に迫る。しかしよく見れば槍の周りでは黒い風が渦巻いている。来たな、ユニーク。外から見ていただけじゃわからないこともある。とりあえずあの風がどんなものか確かめる必要がある。少し危険ではあるが、まだ決着はつきそうもない。敵の力を知ることも今は必要だ。
「フッ!」
右手の鐘鴉双刃で槍を上へとはじこうとしたその時――――――
槍の回転に巻き込まれるように刃は受け流され、体勢が崩される。
そこを見逃すシファではない。未だに回転が残り続ける槍の突きによる追撃が迫る。
「まだ死ねるかよ!」
「縦横無尽脚」、「ダイナマイト・エンジン」、「ラビット・フット」手持ちのスキルのうち、とにかくこの場から離脱するのに役立ちそうなスキルを使い、地面を蹴り回避を優先する。すさまじい勢いで地面を蹴ったことで、体制を崩し地面を転がっていく。今は見た目を気にしてる場合じゃない。何とか追撃によって体をぶち抜かれる前に離脱できた。
「さーて、どうすっかなぁ……」
想像以上に強力な風を纏う槍。どう攻略したものか……。
2話で終わらせるつもりだったんですけど、終わらなそうですね。
息抜きでちまちま書いた分です。