ジャラーク渓谷を抜けて
エリアボス「ロクァード・クロウ」が飛行して接近してくる。
「で、どうする?」
「私が止めるわ」
そういったメイの腕からは細い糸が伸びて空中を舞う。メイが手をしばらく手を動かした直後、エリアボスの動きが止まり、突然地に伏せる。
「傀儡者だっけ?その糸を操る技」
「ええ、便利でしょう?」
「まあな。攻撃しに行くぞ」
「縦横無尽脚」というスキルは「アクロバットステップ」が進化したスキルだ。AGIと足さばきへの補正をかけるこのスキルで接近。相手の足を羽を駆け上がっていく。
装備は右手に握られた純白の剣だけだ。「連刃乱舞」発動。頭を連続で切りつけていく。目下ではメイとヨミも攻撃を仕掛けている。
「そろそろ限界か」
プチッという糸が切れる音とともにボスが立ち上がる。
「クアアアアアア!!!」
ボスが吠える。すでに離脱し終わっているので、追撃を受けることはない。
「さっきの糸、もう一回行けそうか?」
「無理でしょうね。多分、巻き付ける前に暴れてほどかれるわ」
「わかった。さて、いい手がある人は?」
「気を付けて、何かしてくるよ」
そうシューガが言った時、ロクァード・クロウが両腕をぶつけ合わせだした。
ガアアアアン!ガアアアアン!
腕がぶつかったとは思えない、金属同士がぶつかるような音が鳴り響く。すると周辺の崖が音の振動で崩れて頭上から岩がなだれ込んでくる。
「危なっ!」
頭上から落ちてくる岩を走って避けていく。その間もエリアボスからは目を離さないようにする。
「あとどんぐらい振ってくる!?」
「あと少しだ!」
後ろからサポートに徹するシューガが岩の落下状況を伝えてくれるおかげで被弾はゼロだ。岩は避けた、がまだ脅威は残っている。
再び腕をぶつけるロックァード・クロウ。だが今回は岩を落とすためではない。
「ッ……!」
腕がぶつかり合って生まれた振動が大地を揺らす。足場が不安定になり、立っていることが困難になる。
スキル「ラビット・フット」を発動、強化されたジャンプ力によって空中へと身を投げ出し衝撃から逃れる。
「大丈夫か!?」
「ええ、2人とも無事よ」
振り返ればシューガもヨミも空中にいて、衝撃から逃れている。多分、糸で持ち上げたな。衝撃が収まったところで一度集まり作戦を立てる。
「どうやって攻める?」
「そうだね、夜火とメイさんはどうせ手札を見せたくないんだろうから……、ヨミさん。メインアタッカーをやってもらえるかい?」
「うん、任せて」
「よし、なら2人はとにかく攻撃を引き寄せて。余裕があれば攻撃って感じでお願い。チャンスができたタイミングでヨミさんが攻撃する」
「よし、任せろ。とりあえず俺がヘイト稼ぐよ」
さーて、攻撃を避けるだけなら簡単だがあの振動は気をつけなきゃな。ロックァード・クロウに向かって駆け出し、「ラビット・フット」で顔の近くまで跳ね上がる。怒らせてヘイトを集めるならこれが一番だろ。「ダイナマイト・オーラ」、「スタンインパクト」を発動し、全力で相手の顎に拳を振るう。
「ガアアア!?」
「チッ……。スタンは取れなかったか」
だが、目的であるヘイトを集めることはできた。あとはただひたすらスキルを駆使して攻撃を避けるだけだ。機動系スキルはそれなりにある。
ガアアアアン!ガアアアアン!
再び、腕を打ちつけたが今回のは落石攻撃。スキルによって強化された足で落石を足場に空高くへ駆け上がる。空中にいる俺に向かってロックァード・クロウがその腕を振るうが、その腕が俺に届くことはない。
「油断大敵よ」
俺にばっかり意識を割きすぎだ。メイが糸を操っていることに気づいていなかったがために再び糸に捕えられるロックァード・クロウ。さて、チャンスだ。
「くらえ……!」
「技巧剣舞」を発動し、岩のように硬い羽を避け相手の体を切る。苦しんでいるようだが、本命の攻撃はまだ残っている。
「いけ!」
シューガのバフを受けたヨミが一気に接近。よく見るとスキルの効果なのだろうか?天使の輪っかと羽みたいなエフェクトが出ている。ガラ空きの胴体にヨミの剣が迫り、その体を切り裂く。
「ナイス!」
地面についた俺はとりあえず離脱。糸の拘束を再び破ったロックァード・クロウのヘイトは大ダメージを与えたヨミへと移り、ヨミへとその拳が振るわれる。
「させるかッ!」
拳とヨミの間に割り込むように移動し、まだ効果が残っている「技巧剣舞」の補正を乗せ、純白の剣で拳を弾く。流石にノーダメージとはならなかったが、ヨミへのダメージはなく、俺も致命傷にはなっていない。
「もう少し切ったほうがいいな……」
攻撃を弾き、地面に着地。攻撃系スキルの効果を全て乗せ、ヨミが与えた傷をなぞるように剣を振るう。
「ガアアアアアアア!」
一度切られた傷を再び切られた痛みで叫ぶロックァード・クロウ。その怒りの矛先は再び俺へと向かうがもう遅い。
「これでいいだろ?やっちゃえよ」
「ええ、上出来ね」
傷口に沿うようにピンと張られた糸。スキルあるいは職業によって強化されたその糸は、俺に向かって走り出したロックァード・クロウの体を2つに分けた。
『ロックァード・クロウを撃破しました。次のエリアへ移動できるようになりました』
俺たちの勝利だ。
「あの糸の攻撃、見せてよかったのか?」
「ええ、切り札は残してあるもの」
「へぇ……、そいつは楽しみだ」
「お疲れ、2人とも。ナイス連携」
「お疲れ!いよいよ大会の会場でもある第5の街イルスだね」
「ああ、着いたら早速やるか?」
闘技場がどんな感じなのかということを知るためにも模擬戦をしようという話にはなっていた。
「ええ、私は構わないわ」
「とりあえずセーブポイントの更新が先だろ?2人とも落ち着いたら?」
「まあ、それもそうか……。とりあえず街に行こう。話はそれからだ」
そうして次の街へと向かったのだった。