幻霧の中に龍を見ゆ 其の三
魔力切れが原因なのか、これまでよりも霧が薄い。おかげで2体に分身している幻魔龍オボロの姿がよく見える。霧が晴れ分身していることがばれて吹っ切れたのか、相手は2体で連携して攻撃を仕掛けてくる。
疾風の大風狼と同じかそれ以上の体のサイズのモンスター2体の連携はかなり厄介だ。片方の攻撃を避けてもすぐにもう片方の攻撃が飛んでくる。それを避けたら今度は最初に攻撃を避けられた方が体勢を整えて再び攻撃を仕掛けてくる。
「もう少し加減してくれませんかねぇ……!」
あまりにも攻撃する隙が無さすぎる。疾風の大風狼といい、こいつらといいなんでこんな攻撃する隙を用意しないんだ運営……!
攻撃する隙は来るのを待つだけじゃ足りない。確かに攻撃を避け続けていれば必ず隙はできるだろうが、それはいつ来る?そんなのわかるわけがない。だったらどうする?
「自分で作るしかないだろ!」
薄くなったとはいえずっと霧は残っている。ラスティ・ホワイトは絶えず魔力を吸い続けている。スキルもとっくにリキャストタイムは終わってる。接近してくるオボロの攻撃を避けて相手の眼前にラスティ・ホワイトを構える。
「フラッシュ・リペア!」
一瞬でも視界を奪えれば上々。目の前で突如発生した強い光によってオボロが立ち尽くす。もう1体も光で立ち止まっている今がチャンスだ。「連刃」、「技巧剣舞」、「アサシンズソード」を発動。手持ちの攻撃系スキルを全部発動して両手に握る剣をただひたすらに振るう。
「ッ……!もう回復したか」
そんなに長い時間は稼げなかったな。視界が回復したオボロが尻尾を振るうが、それをバックステップで避ける。ここまでかなり「フラッシュ・リペア」を使ってきた。そろそろこれも使えなさそうだな。遠くにいるもう1体が襲い掛かってくるのをラスティ・ホワイトではじいてダメージを減らす。ここで一つ気付きを得る。
「ダメージのエフェクトが違うのか」
さっき連続攻撃をした方は、体から赤いポリゴンをあふれている。対して今攻撃してきた方を見るとそういったエフェクトが一切なく、体の一部が削れている。オボロの分身は本体が二つに増えるタイプじゃなくて、本体は一つだということだ。ラスティ・ホワイトの刀身が錆びているのを見るに、こいつの分身の正体は魔力で形成された分身ってところだろう。ってことはだ、分身はラスティ・ホワイトをぶっ刺しとくだけで勝手に倒せるのでは?メインウエポンを一つ手放すことになるが放置しておけば倒せるのであれば安いものだろう。
「失礼」
スキルで加速して分身に接近、左手のラスティ・ホワイトをなるべく深く突き刺す。
「ギギャアアアア!?」
効果はあったようで、一気に苦しみだした。剣を抜こうと体を振りまわし暴れるが抜ける気配はない。よし、こいつはこのまま倒れるまで放置して、もう一体の対処に専念する。
敵が一体減るだけでも負担はかなり軽くなった。オボロの厄介なところは攻撃の後、隙ができたタイミングでもう一体が攻撃をすることによって実質的な隙をなくしていたことだ。だが、ラスティ・ホワイトを突き刺され分身が苦しみ攻撃もできていない今、本体の攻撃の後にはこちらが攻撃できるだけの隙が生まれている。
「1体じゃ何もできないってか?」
スキルの効果を乗せ、がら空きの体を切りつけていく。その時―――
「ギャアアアアアア!」
オボロの分身の断末魔が聞こえてくる。攻撃の手を緩めて振り返れば分身の体がポリゴンとなって消えていく姿が見える。ラスティ・ホワイトは刀身がひどく錆び切っているが壊れてはいない。オボロの本体の攻撃が再開したタイミングで離脱。地面に落ちたラスティ・ホワイトを拾いに走る。
地面に転がるラスティ・ホワイトを回収し、振り返ると後ろから追いかけてくるオボロの姿が見える。ジャンプして俺に向かって飛びかかってくるオボロの攻撃を「技巧剣舞」を発動し右手の純白の剣でうまく受け流す。飛びかかってきたことで隙ができたボディに、まだスキルの補正が残っている剣を振るう。
ユニークモンスター、どんなもんかと思ったがこのレベルだとこんなあっけないものなのか?霧と分身さえ対処できれば本体の性能は疾風の大風狼と大差ない気もするが……。
なんて考えていた少し前の俺をぶん殴りたい、目の前に広がる光景を見てそう思った。
「「「ギャルルルルル」」」
「2体が限度じゃないのかよ……!」
目の前には3体に分裂したオボロの姿。どうやら分身は分身した時点での本体の状態を再現するらしい。傷の位置まで完全に一致した分身が2体。また本体を探しながらひたすら攻撃を避ける時間だ。幸いにも霧は濃くなっていない。うまく攻撃を対処さえできればさっきと同じように分身を倒せるはずだ。
3体に増えたオボロが順に攻撃を仕掛けてくる。1体目の攻撃を「アクロバットステップ」で回避するが、攻撃の勢いは衰えず追撃してくる。隙の小さい攻撃を連発してくるため、距離を取る余裕がなかなか生まれない。
「くっそ……」
ひたすら攻撃を避け続けるが、オボロは1体だけじゃない。
「ギャアアアアア!」
「来たか……!」
残りの2体のオボロも攻撃を仕掛けてくる。くそっ!1体目の攻撃がしつこすぎる。このままだと2体目の攻撃で死ぬ……!1体目の連続攻撃を避けるのに精いっぱいで2体目の攻撃も避けるのは厳しい。リキャストタイムが終わった「技巧剣舞」の補正と合わせて剣で受けるしかないか……!飛びかかってくる2体目のオボロの攻撃をラスティ・ホワイトで何とか受け止めはじこうとした瞬間――――――
オボロの体は剣にはじかれることも俺にダメージを与えることもなく、ただ俺の体をすり抜けていった。
は?実体のない分身ってことか?
完全にダメージをくらうことを覚悟していたため、想定外の結果に意識から3体目のオボロの存在が抜け落ちる。
「ギャアアアアアア!」
「ッ……!忘……れてた……!」
3体目のオボロ、その鋭利な爪を持つ前足が俺の背後から迫っていた。




