その遭遇は偶然か、あるいは必然か
ボースター・クロウの素材はなんだかんだで集まった。他の素材も割とすぐに集まったし、ウォーグの工房に戻ることにした。工房の場所がどこかわからないが、街から工房への移動限定ではあるが【テレポート】の魔法を習得したので問題はない。
本来、【テレポート】という魔法はかなり習得が難しい魔法らしい。短距離の移動でもかなりの難易度だが、どこからでも任意の場所に飛ぶことができる完全な【テレポート】は上級者でも習得できているプレイヤーは少ないそうだ。
そんな【テレポート】を移動先が限定されていて、帰る際もテレポートする前の街にしか戻れないという制限があるとはいえ、習得できたのは割と幸運なのだろう。なぜ習得できたのか俺も正直よくわかってないが……。ウォーグが何かをいじったと思ったら、急に習得していたのだ。ほんとにあのドワーフは一体なんなんだ。
工房に着くと、作業をしているウォーグの姿が目に入る。
「頼まれてた素材、集めてきたぞ」
「おう、仕事が早いな。そこらへんに置いといてくれ」
「はいよ。てか、片付けろよ……」
「気が向いたらな。そうだ、もう一つ頼んでいいか?」
「わかった」
ウィンドウからクエストの内容を確認すると内容が更新されている。次に集める素材は……。えーと、幻魔結晶……?
「何これ」
「お前さんに合いそうな武器の素材さ。ありそうな場所は書いといてやるから、ちょいと採掘してきてくれ」
「了解。さっさと行って帰ってくるよ」
「おう、頼んだ」
さて、【テレポート】っと。鉱石掘るだけならすぐ終わるだろ。採掘難易度が馬鹿みたいに高くてもダイナマイトニウムを採掘に成功したんだ。なんとかなるだろう。
◇◆◇◆◇
「さて、これであいつはユニークモンスターと戦うことになるだろう。見せてくれ。新人類の希望、その力をな……」
待ち侘びた新人類の希望たる異界人。その力を測るだけなら誰でもよかったが、力を貸すなら自分の気に入ったやつがいい。そう考えていた。これまで見てきた異界人の中で興味を引いた者はいなかった。
異界人がこの世界を訪れるようになって1年と少し経った時、今までに見たこともない異端な異界人と出会った。なぜ彼を選んだか、それは直感に近いものだった。彼の異端性はいつか厄災を払う大きな力となる。そんな予感がしただけだ。
「さあ、お前の力を見せてくれ」
鍛治師は望む。初めて自分が気に入った異界人の勝利を、そしていつか世界を救う希望となることを。
◇◆◇◆◇
ウォーグが示した場所に向かって妖獣魔竹林を進む。夜が近いこともあるんだろうが、なんかやたらと視界が悪い気がする。よく見れば霧がかかっている。
「こんな状況で襲われたらひとたまりもないな」
とはいえマップを見ながら進んでいるので、道に迷うことはないだろう。そろそろ目的地だ。
「お、視界が良くなった。さて、ここが目的地なはずなんだが……」
マップに示された場所に来たが、特に鉱石らしいものは見当たらない。いや、よく見ると床になんか落ちてるのがわかる。
「よっと」
拾い上げるとそれは幻魔結晶だった。
「これで依頼完了っと。さて、帰るか〜」
それは突然、霧の中から現れた。俺の何倍もの大きさの体を持つ龍。そいつの正体が何なのかはウィンドウが教えてくれた。
『ユニークモンスター:幻魔龍オボロと遭遇しました』
ユニークモンスター。それはユニーククエストと同じように世界に一体しか存在しないモンスター。生まれた時から特異なもの、成長の過程で特異になるもの、あるいは環境に適応する形で特異になるもの。原因は様々だが、特異性を確保したモンスターたちは己だけの「名」を冠することが許される。
そんなユニークモンスターを打ち倒した者には恩恵が与えられる。素材はもちろん、運が良ければユニークスキル、ユニークジョブといったものを得る者もいる。
「噂には聞いてたが……」
これがユニークモンスターか。今まで戦ってきたモンスターとは確かに雰囲気から違う。「幻魔」龍、つまり幻魔結晶はこいつから発生した素材ってことだ。つまりこいつを倒せばウォーグが想定している以上の武器ができるってことだよな……。そもそも遭遇することができるだけでも運がいいとされるモンスターから逃げる理由なんてない。