爆薬は偉大
「さて、聞いてた通りの見た目だな」
俺の何倍もの大きさの「岩鉱喰らいの大熊」。その全身はアルムさんの言っていた通り岩で覆われている。表面の所々に鉱石も点在しているのが見えるが基本は岩だ。厄介なのはその岩に覆われているのが全身であり、さらに頑丈だということ。全身を覆う岩が薄く攻撃が通りそうなのは他のモンスターと同じく関節や目の部分ぐらいだ。剣じゃまともにダメージを与えられないだろうし、一応買っておいた打撃武器も効果は薄そうだ。戦闘開始からしばらくは購入した打撃武器で表面の岩を削っていたが、岩が固くこのままじゃ埒が明かない。じゃあどうするのがこのモンスターの攻略法なのか。
「所々で赤く光ってるあの鉱石、ダイナマイトニウムだよな……」
多分これだろう。腕や背中で光る鉱石の中に点在する赤い鉱石。多分ダイナマイトニウムだ。ダイナマイトニウムらしき鉱石に加え、拾ってくださいとでも言いたげに転がっているアイテム「石ころ」。つまりこいつの攻略法は――――――
「落ちてる石ころを拾ってぇ……」
とりあえず野球選手みたいなフォームで石ころを構える。そして―――
「投げるッ!」
さて、優先して上げておいたDEXのおかげなのかはわからないが、俺の投げた石ころはきれいに狙ったとおりに飛んでいき腕にある赤い鉱石に命中した。さて、ダイナマイトニウムの特徴は?そう「ちょっとの衝撃で爆発する」だ。じゃあ全力で投げた石がぶつかったらどうなる?そりゃあもちろん―――
「ガアアアア!?」
―――大爆発するに決まっている。
あの岩石も流石にダイナマイトニウムの爆発に耐えられるほどの強度はなかったのだろう。石ころが当たったことで起きた爆発によって腕部の岩が壊れ、肌が露出する。そうして露出した肌に攻撃を加えていく。これが多くのプレイヤーにとっての攻略法なのだろう。
突然腕が爆発したことで岩鉱喰らいの大熊が怯む。爆発のダメージによって怯んだここが攻撃チャンスだ。そうして怯んでいるうちに肌が露出した腕に接近。爆発によって発生した炎を消そうと腕を振り回しているのは攻撃の邪魔だが気にしないでいこう。
「ファスト・ブースト」が進化したスキル「ダイナマイト・ブースト」は、自傷ダメージが発生する代わりに「ファスト・ブースト」を超える踏み込みへの補正を手にした。「ダイナマイト・ブースト」を使用し跳躍する。
「オラッ!」
そして肌が露出した部分めがけ剣を振る。とりあえず一回攻撃できたが、爆発によってどれだけの間怯んでいるのかもわからない。一度距離を取って――――――
「ッ……、危ない、危ない」
怯み状態から回復し繰り出された腕による攻撃を、「スムーズステップ」が進化したスキル「アクロバットステップ」を使い、回避する。「アクロバットステップ」に進化したことによって、より立体的な動きをしやすくなったおかげで難なく攻撃を回避することができた。そうして距離を取り、再び岩鉱喰らいの大熊と向かい合う。
「さてと……。悪いこと思いついちゃったんだよなぁ……」
体にはさっき爆発させた以外にもいくつかダイナマイトニウムが見える。これを全部起爆するだけでもいい感じのダメージになりそうだが、流石に石ころを投げるだけで勝てるエリアボスを用意するわけがないだろう。ダイナマイトニウムを全て起爆させた上で、そこからさらにダメージを与えていくというのが想定されている攻略法だろう。だが思い出してほしい。俺の手元には――――――
大量、とまではいかないがそれなりの数のダイナマイトニウムがある。ふふふ、運営もこれは想定していないだろう。このダイナマイトニウムを使ってあっさり攻略してしまおうというわけだ。
「さて、そうなるとここからは自分との戦いだな」
ダイナマイトニウムは起爆しやすい。ダイナマイトニウムを投げてぶつけるのなら投擲は石ころ以上に慎重に行う必要がある。なのでまずは岩鉱喰らいの大熊から離れて投擲に集中できるような状態になりたい。
相手の腕を振る攻撃を避けながらうまく相手をボスエリアの壁際へと誘導していく。そうして一見すると俺が壁際へと追い込まれたように見えるこの瞬間。岩鉱喰らいの大熊が腕を振り上げたそのタイミングで、スキル「ダイナマイト・ブースト」、「アクロバットステップ」を発動する。加速した勢いのまま股下を抜け、そこからさらに反対の壁際まで一気に駆けていく。インベントリからダイナマイトニウムを取り出し、起爆しないよう気を付けて――――――
「投げるッ!」
ドンッッッ!!
うーん、上手くいったと思ったんだがな……。投げたダイナマイトニウムは相手に当たる前に空中で爆発してしまった。
「投げた時の衝撃で爆発したのか?よし、次行こう」
まあ、これについてはなんとなくわかっていたことだ。やはりダイナマイトニウムをぶつけるなら限界まで接近して本当に軽く投げるというより落とす感じでやるしかないだろう。
こっちに向かってきた岩鉱喰らいの大熊の腕の攻撃を「アクロバットステップ」を使ってかわし、地面をえぐったその腕に乗り、岩肌を駆けていく。
「岩みたいな体表をしてるおかげで走りやすいなあ!」
気持ち的には少し荒れた山道とかを走っている感じだ。振り落とされる前に腕を駆けあがり、そこから一気に背中へ移動。「ダイナマイト・ブースト」で背中を蹴って離脱すると同時に、今度はダイナマイトニウムが爆発しないよう慎重に投げる。
「ガウ!?」
腕の次は背中が爆発して、再び怯む岩鉱喰らいの大熊。だが今回の爆発は一回で終わらない。もともと背中にあったダイナマイトニウムが俺の投げたダイナマイトニウムの爆発に巻き込まれる形でさらに起爆する。あの時と同じように誘爆していく形で相手の背中を更なる爆発が襲う。
「ガウッ!?」
誘爆によって更なるダメージを負った岩鉱喰らいの大熊は突然の大ダメージによって倒れこむ。
「チャンスだ……!」
あれだけの爆発をくらったんだ、倒れてから起き上がるまでには時間があるはず……!
接近して腕を伝って背中に乗り、素材ようにいくつか残してダイナマイトニウムを全て背中に設置する。いったん離れて石ころでも投げつけようかと考えていたが、この調子だと起き上がってそのまま狙っていないところで爆発してしまいそうだ。よし、蹴って爆発させるか。「ダイナマイト・ブースト」の加速力なら爆発に巻き込まれるよりも早く離脱できるはずだ。
「せーのッ!」
背中のダイナマイトニウムの山を踏みつけ、その後跳躍。「ダイナマイト・ブースト」の効果によって踏み込みが大きく強化されたことで既に背中から大きく離れた俺が下を見ると、すごい爆発が起こっている。って――――――
「爆風で何個かこっち飛んできてる!」
採掘していた時は岩に埋まっていたから爆風で他のダイナマイトニウムが爆風で吹き飛ぶなんてのは想定していなかった。今にも爆発しそうなダイナマイトニウムが迫ってくる。空中ジャンプのスキルなんてものは持っていないので、このままいけばこっちに向かって飛んでくるダイナマイトニウムの爆発に巻き込まれ、最悪の場合体力を一気に削られてそのまま死亡ってこともありえる。
確かに空中ジャンプのスキルはない。だが空中ジャンプもどきならできる。
「お前の出番だ!ストームロックグリーヴ!」
MPを消費することでストームロックグリーヴは風をまとい俺のAGIを強化する。今回の先頭でもかなり俺をサポートしてくれた効果だ。この能力は強化前の岩風猪狼のブーツと同じだが、疾風の大風狼の素材によって能力は強化され、まとった風を解放し推進力にすることができるようになった。解放した風の勢いを利用すれば――――――
「――――――あっぶねえッ!」
疑似的な空中ジャンプが可能になる。ジャンプというか風の勢いで無理やり吹っ飛ばされただけだが……。本来は走るときに使う効果なんだろうけど、こういう使い方もできる。なんとか爆発を避けることに成功し、そのまま地面に着地する。
「まだ倒せてないか」
着地地点は相手のすぐ近く。爆発によって再び体勢が低くなっているところを腕から背中へと走っていく。爆発の中心地だったのだろう。一か所だけ出血がひどい箇所を見つけたので、そこへ向かう。
ダイナマイトの名を持つもう一つのスキル「ダイナマイト・エンハンス」は、「ダイナマイト・ブースト」と同じく自傷ダメージが発生するが全ステータスを瞬間的に強化するスキルだ。ここにTECに応じてダメージが上がるスキル「テクニカル・アタック」と「乱れ切り」からさらにヒット数と対応武器種を増やしたスキル「連刃」も使って、背中のダメージがひどい箇所に攻撃を仕掛ける。
手に握っている純白の剣で連続で斬りつけて、ダメージを与えていく。
「うおッ!」
突然体を襲う浮遊感。目の前に浮かんでいるのはポリゴンとウィンドウ。つまり――――――
エリアボスを撃破したということだ。
『岩鉱喰らいの大熊を撃破しました。次のエリアへ移動できるようになりました。』
ダイナマイトニウムの活躍によってエリアボスとの戦いは長期戦になることなく、決着した。
「ありがとう、ダイナマイトニウム……」