原点
あまり物語は進みませんが楽しんでってください。
学園救助部ができたのは太陽が真上の少し手前にあるころだった。
日差しも強くなってきていたころ、校庭に植えられたイチョウの匂いが舞っていた。
さっきまで衝動的に行動していたが、秋の風で頭が冷えてきた。
普段ならこんなめんどくさいことには絶対に関わらない。たとえ、水樹の誘いだろうとも。
非日常的過ぎて、自分がいつもの冷静さを欠いている。
冷静さが取り柄の自分に嫌気がさした。
だが、それと同時に嬉しくもあった。
自分の中に他人を助けようと思う心があったことに。
作戦会議をしている3人を尻目に、屋上からの景色を1人でぼんやりと眺めていた。
「…綺麗だな」
僕たちの学校は地域の中で少し高いところに位置している。そのせいで校門の前の道は少し傾斜がついている。
そこを朝の登校時に通るのがいつも苦痛だった。
だが、今はそのおかげで屋上からの景色がより魅力的になっているかもしれない、そう思えた。
普段は煩わしく感じる校門前の坂道もこの絶景を楽しむスパイスになっていた。
こんな世界にならなければ、ここからの景色を眺め感傷に浸ることはなかったであろう。
「星空君、ちょっといい?」
いつの間にか隣に椎名先生がいた。
「大丈夫ですよ」
そう返すと先生はゆっくりと話し始めた。
「さっきはありがとう。私に気を使って一緒に部活動する提案をしてくれて」
教師をしているときの椎名先生は、ほんわかしているが察しのいい先生だった。
当然さっきの僕の発言の意図に気づいていた。
「気にしないでください。椎名先生はこうなる前、僕のことすごく気にかけてくれてたじゃないですか」
困っているときはお互い様ですよ、少しかっこつけてそう言って再び景色に目を向けた。
「ふふっ。君からそんな言葉が聞けるなんて」
安堵したかのような表情をして微笑んだ。
「…あなたたちが来る前この学校で何があったか、そして先生が何をしようとしたか話してもいい?」
先ほどの表情とは打って変わって、不安そうなをして話しづらそうに言った。
「あんまり長くなければ」
先生はありがとね、と言い今日の出来事をぽつぽつと語り始めた。
「先生はいつも7時に学校に着くようにしているの。7時15分から朝礼があるからね。けど今日は、朝起きてニュースを見て驚いて焦ったせいで7時15分ギリギリについたの」
「着いた時には先生方はいつもの2割くらいしかいなかった。多分、こんな状態だし来る気がなくなったんだと思う。私がついた時にもうすでに先生同士で言い争っていた。血走った目で教育者としてあるまじき罵詈雑言を。物を投げたりもしていて本当にひどかったの。」
なんで揉めてたのかはわからない。そう辛そうに話す先生を見てこっちも辛くなってきた。
「みんなヒートアップしてきたところで、校長先生が終わらせようとしたんだと思う。大声でもう生徒や仕事のことなんてどうでもいいから各自したいようにしてくれって言ったの。責任や仕事から解放されてみんな建前がなくなったのか、生徒の罵倒したり愚痴や下心丸出しの発言を言い出したりした。私たち教師は心から生徒を愛し導かなければいけないのに、みんなひどかった…」
「そんなことが…」
話を聞きながらこうも思った。
先生も先生である前に人だ、うざい生徒や嫌いな生徒もいてストレスがたまるだろう。
それを建前で隠す必要がなくなったら愚痴も言いたくなるであろう。
椎名先生の教師としての在り方と優しすぎる性格が珍しいだけだと。
「今の校長先生はね、私が高校生の時担任だった人なの」
昔を思い出すかのように話を続けた。
「当時私が先生になろうか困っているとき、背中を押してくれて大学選びまで手伝ったくれた恩師でもあるの。だから、いつか追いつきたいと思ってた」
椎名先生には教師が天職だと僕は思っている。
その椎名先生が教師になることを迷っていたなんて驚いた。
「それにさっき言った教師の心構えは、校長先生が私に言ってくれた言葉なんだよ。私はこの言葉を胸に生きてきた教師として生きてきた」
「辛いですね…」
思わずそう言ってしまった。
「うん…。追いかけてきた背中が突然無くなっちゃったからね。校長先生があんなこと言うなんて」
優しい椎名先生のことだ校長先生のせいにできず、一人で悩んでいたのであろう。
「そこから、自分も生徒のために行動してたのかわからなくなった。正しい教師としていれたか混乱した。もう終わりにしたくなって、最期を自分の好きな学校で飾ろうとした。そして、屋上に行って飛び降りようと思ったら茅野さんに止められて、その少し後に君たちが来たの。馬鹿だよね」
何か声をかけるのは簡単だが、先生が本心で語ったことに対して僕も本心で答えなければいけない。
「そんなことないですよ。椎名先生はいつも僕たち生徒のことを考えて親身になってくれていた。そんな優しい先生が正しい教師じゃないはずがない。もし先生が正しい教師じゃないなら、僕はここにいない」
慰めなければいけないとも思って言ったが、吐いた言葉は嘘偽りはなく紛れもない僕の本心だった。
「っっ…私正しい教師でいれたんだ」
涙を浮かべ、胸に手を当て固く結んでいた。
少し経った後、涙を軽くぬぐってこちらを見た。
「湿っぽい話しちゃってごめんね。星空君に話せて心が軽くなったよ」
「なんかあったらまた言ってください」
花の咲くような笑顔で親指を立てた。
僕も同じように親指を立て、戻ろっかと言う先生と一緒に二人のもとへ戻った。
次回から学校の外に行く予定です楽しんでください。