結成
今回は少し長いです。楽しんでってください。
「こうして二人で学校に向かうの久しぶりだね」
水樹は昔を思い出し懐かしむかのように言った。
「そうだね。中学2年ぶりくらいかな?」
「なんで一緒に学校行かなくなったんだっけ?」
水樹は覚えていないみたいだった。当時僕が避け始めたから一緒に行かなくなったんだ。
避け始めた理由はくだらないことだった。
中学生の時僕と水樹が付き合ってるだの言ってくるクラスメイトがいた。
そいつはお調子者でいつもふざけて言っていただけだったと思う、けど僕はむきになって水樹のことを嫌いだと言ってしまった。
思ってもないことを口に出してしまった。さらに、運が悪いことにそのことが本人に伝わってしまったらしい。
それから水樹と話すのが気まずくなってしまい。避けてしまっていた。
「なんでだっけな。覚えてないや」
昔から水樹の前だと嘘を重ねてしまう。それに気づいても指摘しない水樹の優しさに甘えてしまう自分が嫌いだった。
「まぁいっか、こうして今隣にいれるから。終わりよければすべてよしってことだよ」
はにかんだ顔でそう言った。
その顔を見て僕は何も言えなかった。
コツコツとローファーの音だけが響いてた。
「…道結構すごいことになってるね」
気まずく感じて話題を変えようとした。
「本当だよ…でも、みんな急にあと3日しか生きられないって言われたら混乱しちゃうもん。誰も悪いわけじゃないから仕方無いんだよ」
悲しみを隠せない声色だった。
辺りを見渡すと乗り捨てられた車が何台かあり、事故が起きたまま放置されている車もあった。
他にも家の外壁も崩れていたり、数時間前まで花が綺麗に咲き誇っていたであろう花壇も荒れ果てていた。
残りの寿命が伝えられてからの数時間でここまでなってしまうものなのか。
この惨状を見てしまうと、僕たち人類は平和に過ごしすぎたのかもしれないといやでも思ってしまう。
「なんでこんな世界になったんだろう。神の怒りに触れたのか、それとも別の何かがあったのかな…」
今考えても仕方が無いが、やはり無言になると考えてしまう。
「それも気になるけど、過去ばっかり振り返ってちゃだめだよっ。この3日間をどう過ごすかをかんがえなきゃ」
「3日間でできることなんてあんまりないよ」
一度ネガティブな思考に入ってしまうと抜け出すのに苦労する。
「もうっ。とりあえず学校についたから、いったん考えるの禁止~」
「わかったよ」
考え事をしていたらいつの間にか学校についていた。
2日ぶりに訪れた学校は来る途中に見た道路の様に変わり果てていた。
いつもの週明けとは違う異様な雰囲気だった。
「やっぱり学校もこんな感じになってたか」
「ちょっとボロボロになってるけど、屋上には入れそうだからひと先ず良かったね」
目的地にもう少しで到着すると思ったとき屋上に人影を見つけた気がした。
「水樹、今屋上に誰かいなかった?」
「えぇ、怖いこと言わないでよ。私には誰も見えてないよ」
人が見えた気がしたが、どうやら僕の気のせいだったみたいだ。
入口から校内に入り上履きに履き替えようとしたが、注意してくる先生もいないし、この世界で校則なんてものはないだろうから履き替えるのをやめた。
「上履きに履き替えないの?」
真面目な水樹はこんな時でも校則を気にしていた。
「ガラスとか飛び散ってるかもしれないから厚い外履きのほうが安全だと思うよ」
外履きのまま行くと決めたから、もう履き替えることがめんどくさくなっていて適当に嘘をついた。
「おおっ、圭はやっぱり頭いいね」
僕の幼馴染はピュアで天然なところもあるから将来が心配になる。
「…水樹がアホなんだよ」
照れくさくなり軽口で返した。
「ひどーい。私は勉強が少し苦手なだけで地頭はいいからアホじゃないもん」
小動物のように頬を膨らませ抗議してきた。
「じゃあ前回の定期テスト何位だった?」
「……180位」
想像よりも低く卒業すら怪しい順位だった。
ちなみに僕たちの学年の人数は200人だ。
「いや、アホじゃん。あと地頭いい奴は自分で地頭いいって言わないから」
自称地頭のいい少女に真実を突き付けた。
「じゃあそういう圭は何位だったの」
「10位」
「……職員室に行こっか」
精神的ダメージを負ったであろう水樹は露骨に話題を変えた。
「屋上に行くためにはまず職員室に行って鍵を取らなきゃだよね」
「そうだね。確か鍵は入口の近くにあった気がする」
先週日直をやった時に職員室に入ったからなんとなくで覚えていた。
廊下を歩いて進み、職員室の前につき扉を開けた。
外から見た感じはいつも通りだったが、室内では資料や紙が飛び散っていて散らかっていた。
おそらくここで何かがあったのであろう。
「あれ、椎名先生のだけ荷物が置いてある」
そこには見覚えのあるカバンがポツンと置いてあった。
僕らの国語の担当である椎名先生は若くきれいな先生で多くの生徒から好かれていた。
僕のようなぼっちな生徒のことも気にかけてくれていたいい先生だった。
「椎名先生のことだから最後まで学校にいて生徒のこと気にかけてたのかもね」
椎名先生が僕のことを気にかけ、二人で話す時間は口ではめんどくさい言っていたが内心嬉しかった。
あの日常も帰ってこないと考えると感謝を正直に伝えていればよかった。
「あれ、屋上の鍵がない」
「…本当だ」
「もしかして無くなっちゃったのかな」
壁に掛けられている鍵の中に唯一屋上のだけがなかった。
「職員室の中がこんな荒れてるから鍵も無くなっちゃうよね」
「いや、無いのは屋上の鍵だけっぽいから、すでに誰かが開けたんだと思う」
楽観的に見えるが、実は鍵がかけてあるところはあんまり散らかっていなかったのだ。
「じゃあ一旦屋上に行ってみよっか」
「そうだね。あ「ーーーっ」」
屋上の鍵が開いていることに賭けて向かおうとしたときどこからか声が聞こえた。
「今の声…」
「多分、屋上からだ」
「やっぱ屋上は開いてるんだよ」
他に人がいて屋上も開いてそうだということが分かったが、なんで屋上から叫び声みたいなものが聞こえたのか。
「急ぐぞっ」
水樹の返事を待たずに駆け出した。
「馬鹿な事するなよ…」
3階まで階段を駆けぬけ屋上への扉が見えた。
ラストスパートをかけ扉に体当たりするように駆け込んだ。
そこには目元を赤くしたスーツを着た女性とその人に寄り添う女子生徒がいた。
「大丈夫ですかっ」
そう声をかけると二人はこっちを見た。
それと同時に僕を追いかけてきた水樹も屋上についた。
「はぁ…はぁ…圭~走るの早いって、あれ、曜ちゃんと椎名ちゃ…先生」
スーツを着た女性は椎名先生で、女子生徒は水樹と仲の良い生徒の茅野曜だった。
「あーやっぱりみんな屋上にロマンを感じるよね。もう、曜ちゃん屋上行くなら誘ってくれればよかったのに~」
「あ、ごめん。…みーちゃん普段から屋上に行きたがってたもんね」
「屋上はロマンの塊だからねっ」
水樹はシリアスな雰囲気に気づくことなくそう言った。
「あれ、椎名先生どうしたの」
アホなのか明るくしようとしてなのか普通をに話しかけていた。
「…ちょっと目にゴミが入っちゃってね。こけそうだったところを茅野さんに手を貸してもらったの」
僕たちに気を使ってかそう返した。
「大丈夫?私も肩貸そうか」
「大丈夫よ水樹さん。その申し出はありがたいけど水樹さんだとちょっと、その…怖いというか…」
「ちびだから不安ってことだよ」
言いずらそうにしている先生の代わりにそう言った。
「そんなっ…」
「そこまでは言ってないわよ」
傷ついたふりをしている水樹を無視して先生に話しかけた。
「椎名先生。」
「星空君どうしたの」
先生は今気丈に振舞っているが多分何かに悩んでいる。
水樹にバレないように先生のために行動するべきだと思った。
「僕たちこれからどこか普段行けないとこに行こうと思っているんですよね。この状況を活かそうと思って。だから、椎名先生引率としても一緒に行きませんか」
水樹がいるのでと付け加えると後ろから非難の声が聞こえたが、先生は少し微笑んだ。
一緒に行動すれば少しぐらいは不安を取り除けるかもしれない。そして、恩返しもできるかもしれない。
「確か水樹さんと幼馴染で仲良かったのよね。…そうよね、水樹さん危なっかしいから大人がついていないと危ないかな」
「そんなことないもんっ」
とりあえず何とかなったみたいだ。
「それうちもついてっていいよね」
茅野さんも手を上げながらこっちを見ていた。
「…もちろん大丈夫です」
「やったー。曜ちゃんいればがいれば楽しさ10倍だよ」
ここで断れるはずもなく、一人メンバーが追加され女性3人男性1人の4人グループになってしまった。少し肩身が狭い。
「これってもう部活動だよね。やっぱり部活動をするなら名前が必要だよね。うーん…どうしよっか」
突拍子もないことを言い出した。いつもなら少し呆れてしまうが、今日ばっかりは水樹の無邪気さに助けられている。
「普段行けないところに行きながら人助けをする部活だから…」
「ふふっ。人助けも部活内容だなんて、水樹さんらしいわね」
「みーちゃんはいつでもいい子だねぇ」
いつもと変わらない水樹をおばあちゃんのような温かく、優しい目で見守る先生と茅野さん。
「あ、禁断の地に足を踏み入れる学園のレスキュー隊とかどう」
壊滅的なネームセンスを見せた水樹に全員顔を引きつらせた。
「…普通に学園救助部とかでいいんじゃない」
ふと思った名前を提案した。
「それいいじゃん」
「やっぱり星空君はセンスあるね」
「えー私の名前のほうがかっこいいって~」
1名を除き受け入れられた。
民主主義による多数決で僕の考えた部名にすることとなった。
「ええー顧問は椎名先生、部長は私水樹。部員は曜ちゃんと圭の4人で…学園救助部ここに設立しますっ」
みんなで向かい合いながら、風に靡く髪を抑え宣言した。
こうして僕たちの部活動が誕生した。
読んでくれてありがとうございます。