九十六話
父親であるシュタイナーが滞在中、迷宮へ潜るのは自粛することになった。
ミミとシズノは街に遊びに行くというのでフランが護衛としてついていった。
最近では実戦で経験を積んでいるので素振りをすることがなかったのだが久々に鍛錬場で体を動かす。
1人黙々と動きの確認をしているとシュタイナーが顔を出した。
「どれ。どれぐらい強くなったのか確かめてあげよう」
「よろしくお願いします」
シュバルツはシュタイナーと向き合い木剣を構える。
シュタイナーは忙しいながらも鍛錬の手も抜いていないらしく隙がない。
仕方がないので正面から打ち込んでいき連撃を仕掛ける。
シュタイナーはそれを綺麗に受けきる。
まだまだ余裕があるようで完全に子供扱いだ。
2人の激しい攻防に周囲で訓練をしていた騎士達が注目していた。
その後もシュバルツは何度も仕掛けてみるが防御を突破することはできなかった。
しまいには木剣を吹き飛ばされる始末だ。
「参りました」
「まさか、ここまで出来るとはね。将来が楽しみでもあり恐ろしくもある」
「父様は化け物すぎませんか?」
「よく言われるよ」
公爵という立場で、実戦に出る機会はほとんどないはずだがそれでこの腕だ。
自分はまだまだだなと実感してしまった。
「さて、喉が渇いただろう。お茶でも飲みに行こう」
シュバルツはシュタイナーを追いかける。
向かった先は食堂でそこでは母であるマリアンヌがお茶を飲んでいた。
「楽しまれたようですね」
見ていたわけではないが妻の1人であるだけあってシュタイナーの行動は読めるらしい。
「こんな機会でもないと構ってあげられないからね。君にも苦労をかける」
今回は視察という名目で来たのだが本当の目的は幼い我が子と妻に会うためだろう。
本音で言えば新しい我が子が生まれるまで留まりたいのだろうがそういうわけにもいかない。
シュバルツは話題を変えるべく質問をする。
「他の皆は元気ですか?」
「元気すぎて困るぐらいにはね」
その言葉を聞いて兄妹達の姿が思い浮かぶ。
「あらあら。それは大変ね」
シュタイナーは仕事の合間合間に子供達との時間を大切にしているのがうかがえる。
興味のあることはそれぞれバラバラでそれを理解しようと思えば大変だろう。
「最近はシュバルツのおかげか勉強も鍛錬も頑張ってるよ」
弟が頑張っているのに歳上の自分が怠けるわけにはいかないとそういう理由らしい。
兄妹仲は悪くなく次代の公爵家は安泰だろう。