四十九話
シュバルツは朝食の後、オグワールの執務室を訪れていた。
「お爺様。頼まれていたものができましたよ」
「なに?もうか。ちゃんと寝ているのだろうな?」
「はい。睡眠はちゃんととっていますよ」
シュバルツはアイテムボックスから完成品を取り出す。
「ふむ・・・。シュタイナーからシュバルツは規格外だとは聞いておったが、実際目にすると驚かされてばかりじゃ」
「アイテムボックスについては驚かないのですね」
「フランから報告を受けておったからな」
「あぁ・・・。なるほど」
「うむ。それにしても今回のトランプは出来がいいの」
どうやらオグワールのお眼鏡に叶ったようだ。
「これをサンプルとして大々的に売り出す。利益は全てお主のものだ」
「いいのですか?」
「迷宮からの利益だけでも潤っておるからな。金には困っておらんのじゃ」
迷宮都市アリスの収益は余程大きいのだろう。
金銭的な支援をしようと思えばいくらでも出来る。
だが、あえてしないのは敵対勢力につけ入る隙を与えない為だ。
「僕はそろそろ行きますね」
「今日も冒険者としての活動か?」
「その予定です」
「うむ・・・。報告は受けているが無理はせんようにの」
シュバルツはフランと合流し今日も森に来ていた。
この辺でシュバルツの敵となる魔物はいない。
本音で言えば迷宮に入りたいのだが冒険者ランクがEにならないと入れない。
地道に功績を積み冒険者ランクを上げるしかない。
そろそろ切り上げようと街に向かう途中、人の気配を感じた。
フランも気づいたようでどうするかアイコンタクトをしてくる。
人の気配以外にも魔物の気配を感じる。
「少し様子を見に行きましょう」
近づいて気付いたが血の匂いがする。
「フラン」
シュバルツはフランに声をかけ走り出した。
フランも遅れまいとついてくる。
剣士の少女が背後に仲間を庇っている姿だった。
庇われた人物は怪我をしているのか動かない。
魔物はグリズリーベア。
この森では最強に近い魔物だ。
「フラン。頼む」
フランは剣士の少女とグリズリーベアの間に割り込む。
それを見届けたシュバルツは動かない少女の状態を確認する。
酷い出血だ。
意識もない。
このまま治療しなければ危ないかもしれない。
シュバルツは服を脱がし傷口を確認する。
傷口に手をかざし回復魔法をかける。
傷はみるみる治っていく。
呼吸は安定しており意識は戻らないがこれで一先ず安心だろう。