三十八話
シュバルツは自室に戻らず城内をぶらりと歩いていた。
開けた空間に出てそこを覗き見れば騎士達が鍛錬をしている。
どうやらここは鍛錬場のようだ。
鍛錬を眺めていた人物が即座に反応して問いかけてくる。
「どうした?坊主」
「はじめまして。シュバルツ・フォン・クロイツェンです」
「これは失礼しました。私は中央騎士団で団長をしているテンペストです」
「中央騎士団?」
「ここ迷宮都市アリスは迷宮に囲まれた都市です。住民を守る為に5つの騎士団が存在しているのですよ」
「そうなんですね」
「それでどうしましたか?」
「僕も混ざってもいいですか?」
「混ざる・・・?シュバルツ様は剣に興味がおありなのですか?」
「お爺様に迷宮に行く許可は貰ったんですけど今の自分がどれぐらい出来るのか試して見たくて」
「失礼ですがまだ幼いように見えるのですが」
「僕はまだ5歳ですからね」
「剣を握ったことはありますか?」
「はい」
「では素振りを見せてください」
そう言って木剣を渡してくる。
シュバルツは真剣な顔で素振りをはじめた。
それを見てテンペストは驚いた。
とても剣を振りはじめたばかりの腕ではない。
「ははは。驚きましたまるで何年も剣を振っている者のようです」
シュバルツは修行部屋で膨大な時間素振りをしたり魔物を倒したりしている。
驚かれるのも無理のないことだった。
「シュバルツ様。よろしければ相手をしてもらえませんか?」
「こちらこそよろしくお願いします」
シュバルツとテンペストは激しく木剣をぶつけあう。
修練をしていた騎士達は固唾を飲んでそれを見守っている。
テンペストは楽しそうに笑っている。
シュバルツもつられて笑いだす。
剣と剣をぶつけ合うのがこんなにも面白い物だとは思っていなかった。
いつまでもこの時間を楽しんでいたい。
だが、終わりの時はすぐにやってきた。
「そこまでじゃ」
「お爺様?」
「テンペスト。お主は何をしておる」
「はっ。申し訳ありません」
「はぁ・・・。シュバルツよ。もう少し自重してくれ」
「申し訳ありません」
「皆の者。ここで見たことは口外しないように」
騎士達は敬礼して承諾していた。
「お爺様。怒っていらっしゃいますか?」
「お主はまだ子供だ。それに儂は怒っているわけではない」
「どういうことですか?」
「この城の主は儂じゃが全員が全員味方であるとは限らないということじゃ」
オグワールは何かを心配しているようだった。