三十三話
「シュバルツ様。お怪我はありませんか?」
「僕は大丈夫。それより母様を・・・」
そう言った時、マリアンヌの部屋の扉が開く。
「こんな時間に何の騒ぎですか?」
「マリアンヌ様。こちらに来てはいけません」
そう言ってお付きの者達がマリアンヌを部屋に連れ戻す。
護衛の者達が賊の死体を調べるが何もわからなかった。
しばらくして騒ぎを聞きつけたのかシュタイナーもやってくる。
「話は聞いた。色々聞きたいことはあるが無事でよかった」
シュタイナーはそう言ってシュバルツの頭を撫でてきた。
「父様はどう思いますか?」
「今、手勢を総動員して調べているが何もわからないだろう」
公爵家の居城であるこの城は警備も厳しい。
賊が入り込むことは簡単ではないはずだ。
恐らく内部に協力者がいる。
考えられるのは妃達の誰かだが証拠を残すようなへまは期待しないほうがいいだろう。
「疲れただろう?今日はもう休みなさい」
「はい」
シュバルツは素直に部屋に戻ったがすぐに眠れる気がしなくて修行部屋に移動した。
修行部屋に移動したシュバルツは無心で素振りをする。
クロは何かを察したかのように何も言ってこなかった。
シュバルツが疲れて休んでいるとクロが言ってくる。
「少しは気がすんだかにゃ?」
「何があったか聞かないんだね」
「暇つぶしに全て見てたからにゃ」
シュバルツは今頃になって手が震えていることに気がついた。
「はは・・・。情けないな」
「はじめて人を殺した恐怖。何者かに命を狙われる恐怖。人として当然の反応にゃ」
「そうかな?」
「そうにゃ。何も感じにゃくにゃったらそれは人として終わりにゃ。その気持ちを大切にするのにゃ」
「ありがとう。少し元気が出たよ」
人の心というのは難しい。
誰しもが何かに脅え、期待を抱いて日々を生きていく。
チートのような恩恵を与えられたシュバルツだが例外ではない。
クロはシュバルツに幸せになってほしい。
だから、少々過ぎたお節介をしているが最終的に決断しどう生きていくのかを決めるのはシュバルツだ。
今後どのように成長していくのか楽しみであると共にこれからくるであろう困難に立ち向かっていけるのか心配でもある。
シュバルツに興味を持っている他の神々もそれは変わらないだろう。
シュバルツはしばらくぼーっとしていたが何かを振り切ったように現実世界に戻っていった。
それを見てクロは安心したのだった。