三十話
シェリー姉様と本を読んでいると乱入者が現れた。
「シュバルツ。遊びに行こうぜ」
そう声をかけてきたのはクロイツェン公爵家9男のアルカヴァンだ。
「アルカヴァン。騒々しいですよ」
シェリー姉様はそう言って注意する。
「アルカヴァン兄様。遊ぶと言ってもどこに行くんですか?」
「街だよ。街。お前まともに外に行ったことないだろ」
「それはそうですけど・・・」
「街にはな。面白れぇところがいっぱいあるんだ」
そう言って語るアルカヴァンの目はきらきらしている。
これは何を言っても聞きそうにない。
「シェリー姉様。ちょっと行ってきますね」
「気を付けていくのですよ。あまり遅くならないように」
「はい」
シュバルツはアルカヴァンに連れられ城を抜け出した。
アルカヴァンは自分のペースでどんどん歩いていく。
と思ったら1つの露店で立ち止まり串焼きを2本買っていた。
シュバルツが近づくと1本差し出してくる。
「ほれほれ。ここの串焼きはうめぇぞ」
シュバルツは受け取り食べてみる。
「本当だ。美味しいです」
「よし。次行くぞ」
アルカヴァンは串焼きを食べながら移動していく。
シュバルツも慌てて追いかける。
次にやってきたのは噴水のある広場だ。
広場では大道芸を披露している人達がいた。
「おっ。今日はついてるぜ」
アルカヴァンはそう言って大道芸に見入っている。
シュバルツは疑問に思っていた。
兄妹達は自分達のことを避けていたはずなのに何故、遊びに連れ出してくれたのか。
「アルカヴァン兄様。どうして遊びに連れ出してくれたんですか?」
「お前が毎日頑張ってるのを見て考えたんだ。このままの関係ってのは家族として間違ってるって」
「でも、アルカヴァン兄様の立場を悪くしませんか?」
「母上はいい顔をしないだろうな。でも、そんなのは俺には関係ない」
アルカヴァンなりに色々考えたのだろう。
そこには家族の情を確かに感じた。
「ありがとうございます」
「お礼を言うのはまだ早いぜ。今日は遊び通してやるからな」
結局、シュバルツとアルカヴァンは夕方まで遊んで過ごした。
恩恵ポイントを貯めるのも大事だがこういう日があってもいいだろう。
「アルカヴァン兄様。また、誘ってくださいね」
「おう。あたりまえだ」
アルカヴァンの笑顔が眩しかった。
問題はあるけれど優しくしてくれる家族もいる。
今世は恵まれている。
そう強く感じるのだった。